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                       2005年8月15日
                             ■VOL.40
               評 論 の 宝 箱
        http://www.d1.dion.ne.jp/~hisui/
          見方が変われば生き方変わる。
          読者の、筆者の活性化を目指す、
          書評、映画・演芸評をお届けします。
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■ 第40号目次
書評 ─────────────
・『社会を変える会計と投資』―― 新田 恭隆
・『死ぬことと見つけたり』―― 渡辺 仁
・【私の一言】『音楽日記(4)── イルカの鬱病』 風雅こまち


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◇        『社会を変える会計と投資』 
◇          (水口剛著 岩波書店)
└────────────────────────────────┘
新田 恭隆
 少しわかりにくい書名だが、会社を変える会計ではなく社会を変える会計であるところに注意されたい。
 会社は様々なリスクに直面するが、現在では例えば地球温暖化のように社会全体にかかってくるリスク(社会リスク)にも対応しなければならない。
 一見このような社会リスクは会社の業績に直ちに影響を与えることはないから、あわてて考慮する必要はなさそうに思える。近年の株主利益重視の会社観からは、会社はとにかく高株価、高配当を期待される。その結果、経営の視野はどうしても短期化する。最近多発する会社の事件の背景には、このような風潮があるのではないか。事件が起こり、かえって株主重視に反する結果となるのは皮肉なことである。
 会社は株主に対して責任を負うだけでなく社会全体に対しても責任を負うという観点から、「企業の社会的責任」(CSR)が次第に浸透しつつある。決算報告書に記載している企業も多い。
 また、投資先企業の事業活動が及ぼす社会的影響までも考慮した投資(社会的責任投資SRI)行動が広まってきた。エコファンドなどもその一例である。しかし、社会的責任投資の評価はまだこれからである。まずはなによりもこのような思想に強力な推進力を与えることが必要である。
 以上のように考えてリスク対策の開示を会計情報の力に委ねようというのがこの本の主張である。化学物質の排出、天然材の伐採、輸入食糧への依存など沢山の問題がある。それを例えば温室効果ガスの問題であれば、有価証券報告書に温室効果ガス排出量計算書の記載を義務付けて情報開示を行わせるようにすべきだと提案している。
 その場合このようなものを会計と呼ぶかという疑問が起こるが、利益や売上高など従来の会計が企業評価の中心であるとするならば、会社が社会的責任を果たすということはこれからの企業評価のもう一つの重要な着眼点である。それらを情報提供するところまで会計の範囲が拡がったと思えばよい。既にイギリスでは今年会社法が改正され、企業の年次報告書に「従業員との関係、環境問題、コミュニティ及び社会問題との関わりなど」の記載が法定されるそうである。
 企業の社会的責任といっても抽象的な概念で、実務的に定量化することは非常な困難があると思うが、会計で社会を変えようというこの本の提言には清新なものを感ずる。


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◇      『死ぬことと見つけたり』(上)(下)
◇     (隆 慶一郎(リュウ ケイイチロウ)著 新潮文庫)
└────────────────────────────────┘
                            渡辺 仁
 恒例の直木賞、芥川賞が発表される季節となった。
 これらの賞は、菊池寛が出版社に勤務していた頃に、直木三十五がなくなり、彼の偉業を残したい・・、そういえば芥川も8年前に亡くなっていたな・・・ということで始まった、文壇の登竜門。
 著者は、大学で仏語教師を勤めたあと、脚本家として活躍。‘84「吉原御免状」で作家デビュー。その後、わずか5年の作家活動で急逝したためか、直木賞候補で終わっているが、時代小説界に一時代を画した。
 本書は、常住坐臥、死と隣合せに生きる葉隠武士たちと男の死に方を問う葉隠武士道をロマンとして甦らせた時代長編。
 時代小説には、作家の登場人物をとらえる角度により、今まで抱いていた人物像との違い、些細な史実にこめられた感動、さりげない言葉に秘められた目くるめくような美しさ等、現代に通じるものがある。
 また、歴史上の人物の器量と命運をダイナミックにはかりながら、人間の面白さが楽しめる。本書もそのひとつで、内容は、ぜひご自身で。
 隆慶一郎(本名:池田一朗)さん、楽しい本を残してくれて有難うございました。
 おかげさまで暗い話題が多い昨今、読んでいて疲れないものということで、特に時代を特定したもの (市井ものも含む)に嵌っています。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
『音楽日記(4)── イルカの鬱病』   風雅こまち
──────────────────────────────────
 先日、病気のために尾ひれの一部を切断したイルカと水族館スタッフの取り組みのテレビを見た。賢い動物であるため、身体の傷は治っても、心に大きな傷を負ったようだ。食欲も無い。他のイルカとも交わらない。泳がない。人間で言えば、鬱病で閉じこもってしまったといった雰囲気だ。通常ならば死ぬケースの多い病気、獣医の判断で切断し、一命は取り留めたものの、生きる気力を無くしてしまったイルカ。獣医は義足ならぬ義ヒレを用いて、イルカに元気を取り戻してもらいたいと考えた。トレーナー、獣医、そして義ヒレの開発者のプロジェクトがスタートした。
 最初は疑心暗鬼のイルカも、周囲の熱意は感じてしぶしぶつける義ヒレ。第一号は紐が邪魔をし、水の抵抗が大きく推進力を得られなかった。2号は気持ちよく泳ぐことができた。勢い良くジャンプした時、義ヒレが壊れてイルカは怪我をした。身体を傷つけてまで開発すべきなのか?と疑問を抱いたトレーナー。しかし、イルカは泳ぎを取り戻していたのだ。切断された不自由なヒレでも仲間と泳ぎ、食事をし、前向きに取り組む心を取り戻していた。3、4、5号と一月も経たずに次々と壊れては作る、のくり返しだった。新しいヒレが届くと、自分から接続台にやってくるイルカ。自分にできることと、道具がもたらす可能性を知って、積極的に活用している。人間で言えば50代のイルカから学ぶことは多い。
 意欲のない暮らしは、人としての尊厳が失われた状態だ。幸せに暮す権利が人間にはあるのだから、閉じこもりやニート、自殺の増加を個人の問題として放置せずに、みんなが意欲を持ち続け、人間らしく暮らせる社会を築くことが、人間として生きるということであろう。
 ホスピスでは音楽が大切にされている。意欲の向上に音楽であり音楽療法は役立つと思う。これらを通じて、生きているこの世に極楽浄土を実現したいものである。
 すべての人が人間らしく生きるために。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


《編集後記》∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
 本日は終戦60年の記念日ですが、この60年で親子・家族関係も大きく変ったと思います。例えば先日、細木数子と女子高生の対話番組(8/9 TBS『ズバリ言うわよ!!』)があり、集めた高校生もほぼ全員化粧しているなど異様でしたが、100人の女子高生のうち、66人は父親を好きではないというアンケート結果がありました。さびしい限りです。この結果について細木数子は、親子・家族の原点にもどり考えなおす時期に来ていると指摘していました。
 60年を契機として、原点にたち帰り考え直すべきことは多々あると思える昨今です。(H.O)

第41号予告============================
・今村 該吉『汐留川』
・矢野 寛市『タヒチからの手紙』
・【私の一言】濱田 克郎『アメリカ便り(6)―― ジョーンとリッチ』 
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◆三省堂書店 一般書週間ベストセラー◆
(期間 05.8.1−8.7)
1 新ゴーマニズム宣言special靖國論 小林よしのり 幻冬舎
2 土の中の子供 中村文則 新潮社
3 新しい歴史教科書 藤岡信勝 扶桑社
4 図解山田真哉の結構使える!つまみ食い「新会社法」 山田真哉 青春出版社
5 オリエント急行とパンドラの匣(ケース) はやみねかおる 講談社
6 東京タワー リリー・フランキー 扶桑社
7 NHKためしてガッテン寒天ヘルシー生活 日本放送協会 アスコム
8 「プロ経営者」の条件 折口雅博 徳間書店
9 骨盤教室 寺門琢己 幻冬舎
10 宮廷女官チャングムの誓い 後編 日本放送出版協会

◆紀伊國屋書店 週間ベストセラー◆
(期間 05.8.1−8.7)
1 新ゴーマニズム宣言special靖國論 小林よしのり 幻冬舎
2 震災時帰宅支援マップ 首都圏版   昭文社
3 マンガ嫌韓流 山野車輪 晋遊舎
4 アラシゴト   集英社
5 新しい歴史教科書 藤岡信勝 扶桑社
6 宮廷女官チャングムの誓い後編   日本放送出版協会
7 オリエント急行とパンドラの匣(ケース) はやみねかおる/村田四郎 講談社
8 インテリアコーディネーター資格試験受験願書・要項第23回   インテリア産業協会
9 かいけつゾロリの大どろぼう 原ゆたか ポプラ社
10 ちびくろ・さんぼ ヘレン・バンナーマン/フランク・ドビアス 瑞雲舎

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