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■2008年2月15日号 <vol.100>
書評 ─────────────

・書評 稲田 優    『鎌倉つれづれ』  今村該吉著
・書評 堤 貞夫    『ホルトの木の下で』堀 文子著
 
【私の一言と書評】渡辺 仁『「時代小説」の面白さにハマッて・・・』


2008年2月15日 VOL.100


『鎌倉つれづれ』
著者今村該吉    出版社:スターツ出版
    

稲田 優  


  著者は元銀行の常務役員まで勤めあげた後にいくつかの会社の役員を
歴任、現在はほぼ完全リタイアして70才を迎えようとしている。58才の時にエッセーを書くことを思い立って月2回のカルチャースクールに通い、69才までのほぼ10年間に書きためた文学性の高いエッセー集だ。
全体が読みやすいように6部構成に整理されている。
 最初の“鎌倉 四季折々”は、著者の住む鎌倉周辺の日常がテーマだが、これが実に奥深く余韻が漂っていて、このエッセー集のレベルの高さを感じさせる。
 次の“家族の肖像”は描かれる情景、人物に躍動感があり、「母の作った幼稚園歌」などは特にエッセーの枠を超えた、ある種の詩の趣がある。
ぽっくり亡くなる1か月ほど前に父のとった普段通りのいくつかの行動、それが亡くなってみるとあたかも死期を悟ってあいさつ回りをしたとしか考えられないような不思議さ、ひたひたと胸を打つものがある。
 第3部の“災厄”は、著者が「はしがき」で、「時局、仕事、会社にまつわることはなるべく書くまい”としていたことの例外らしいが、唐突感は否めずやや違和感がある。
 続いて“本と旅のアルバム”、“人は去り逝く”、“精忙に行きたい”と最後まで知・情・愛のエッセーで中だるむところがない。5年後、10年後の続編が待たれるところである。
 なお、親しい学生時代の友人が亡くなり、その友人の若いころのエピソードを綴った追悼文が転載されているが、著者の記憶違いが歴然であるならば削除するか友人名を匿名にすべきだったと思うがいかがなものであろうか。
(僕らの「Shall we ダンス?」の頃のこと。)以上




『ホルトの木の下で』
著者堀 文子    出版社:幻戯書房
《参考 命というもの  堀文子画文集 小学館》
    

堤 貞夫  


  堀 文子さんの画文集「季」を読んだのは15年くらい前のことだが、軽井沢の山荘生活の中で描かれた木や花の細密な写生力、山、林、鳥から狐までが登場する見事な構成力に魅せられる一方、それぞれの絵に付けられたエッセイの、選び抜かれた言葉の持つ美しさ、厳しさに、驚き、感動したことは今も忘れられない。

 その堀文子さんが、89歳にして、「ホルトの木の下にて」という自伝をだされた。
私は、先の「季」を読んだ後、日本橋の百貨店で、展示会に来られた堀さんをお見かけし、なんと言う上品な美しさと、凛とした気品のある女性だろう、この方はどのような人生を送ってこの姿になられたのかという、キャリア・カウンセラー的な人間に対する関心を持ったが、この本を読んで改めてこの方の人間形成が理解できた。
 堀さんは大正の半ばに、まだ江戸の空気の残る東京麹町に生まれ、お屋敷と近くの下町やお堀端を遊びまわるやんちゃなお嬢様として育ち、5歳で関東大震災を経験される。
女学校を卒業する18歳の春に起った2.26事件は、屋敷の庭に双方の兵隊が出入りする、まさに身近な事件でであった。この乱世の中で、女性の仕事に関ししっかりとした考えを持っておられた母上、反対しながらも美術への志を認められた父上の影響のもとで、堀さんの繊細にして強靭な人格が育てられたのであろう。

 その後の堀さんの人生は、誠に多岐なものである。
昭和15年、女子美日本画部を卒業したが官展には属さず独立系の活動に終始し、当初東京大学農学部で農作物の記録係をされたり、多くの絵本作家出版をされたことは、細密な観察力と科学的態度、各時代の子どもの関心への対応など、多彩な基礎となるスキル、知識形成に関係しているであろう。第2次大戦直後、外交官と結婚されたことも、一般の画家では得られない広い経験、知識を持たれたことであろう。

 日本が本格的成長に向かう昭和35年、病気がちであった夫君を失われた後、3年間、エジプト・ギリシャ、ヨーロッパ、アメリカ、メキシコを放浪、以降10年サイクルで脱出の衝動が起こる。大磯、高麗山の原始林の麓、軽井沢では本物の自然・浅間に向き合い、70歳にして、バブル期の日本を脱出してイタリア、トスカーナでのそれぞれ独居生活は並大抵の精神力で出来るものではない。77歳、アマゾン、ユカタン半島のマヤ遺跡旅行、81歳でのヒマラヤ山麓は青いケシを訪ねて、という話題でテレビを見た人も多いだろう。
 私には、堀さんの見事な作品と同じくらい、その行動的、自立的な生き方に感心する。

 「ホルトの木の下で」のあとがきにかえて、の追記に、この木の由来が語られる。
向かいの屋敷にあった樹齢500年といわれるホルトの木の巨木が、バブル期に切り倒されることを知った堀さんは、この国の自然破壊への怒りとともに、関係先に働きかけ延命策を図るがどうしても町を屈服させることが出来ず、万策尽きてこの土地を買われる。
「そのために背負った多額の借金は、老後の私の蓄えのすべてをなくしたが、この木の命を救えた喜びで悔いは無かった。王者の威厳を持つこの老木の下で今私は最後の絵を描いている。」とこの本は結ばれる。
最近刊の「サライ」に連載されていた「命というもの」の画文集は、堀さんの身近な生物・静物の楽しい絵と、相変わらず歯切れのよい文章に浸ることが出るお勧め本である。                     以上

 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『「時代小説」の面白さにハマッて・・・』
渡辺 仁

   古本屋は、世界中どこにでもあるらしい・・・という話を聞いたことがある。
私が「時代小説」に嵌りかけた時、ある本に出会った。
それが、完結するまでに30冊近くあることは後で解った。
たまたま、本屋で見かけて買ったものだ。そのときは、シリーズで出ていて連作途中だった。
途中から読んでも面白い。前作を見たいと思って同じ本屋、近隣の本屋を探してみたがなかった。
当時(そんなに古くはない)は、まだ私が好きになった「時代小説」、「歴史・・・」のコーナーもなく(我が家の近くの本屋では)、出版社別に仕切られていた。
苦労した。何せ、この本の出版社がマイナー(失礼・・・)。 
せっかく興味を持ったのに・・・、探しているうちに出版社名すら解らなくなってしまう程に、「時代小説」の肩身が狭かった。
近頃は、ちゃんと客のニーズを掴んで、ジャンル別に別れている等、探しやすくなってきたと思う。本屋さんの業界もやっと変わってきたかと思う。
 その頃、ある女流作家の時代物に嵌った。
時代考証も確りとやっていて、現代のサラリーマン世界を描いたような武家の社会、市井、角度を変えて、いろいろなやりとりを採りあげていた。現代にも通じる「社会風刺・・・」が効いた展開を期待して、ワクワクと次の作品を待った。
それでも、一度確りと「時代考証」をやると、何度も使えるらしい。どこかで見たことのある文章が何度もでてくる。おかげさまで本を読むスピードが上がりましたが。乱発はいけない・・・。ある時期から読まなくなった。(そのうちまとめて読むつもりです)
実は、いろいろな時代モノに嵌りながら冒頭のシリーズものを探していました。
出版社に直接電話して取り寄せるのが安直ですが、シリーズ初作が今から「20年前」ということもあり、ある時、古本屋で探してみようと「遊び心」に思いました。
近時は、古本屋でも、そのニーズにあった「BOOK ・・・」など、いろいろありますが、それも「楽しみのひとつ」にして・・・。
 先日、ついにやりました。揃いました。新品で購入したのは8冊。残りは、古本屋で見つけました。この満足感、「四国88ケ所・・・(一部のみ回りました)」に匹敵するくらいあるのではと思ったりして・・・。
そして、その本の名前は【二条左近無生剣(裏隠密)シリーズ】大栗丹後著/春陽文庫。
 なお、私が最近読んでいるのは、いろいろなシナリオを書いたり、脚本家をやったりして、今は時代小説に足を踏み入れた北川哲史さんの「北町裏奉行」シリーズです。
機会があったら読んでみてください。読んでいて、テレビの時代劇を見ているような錯覚に陥りそうな展開、面白さがあります。お薦めです。以上



 この“評論の宝箱”も本号で100号になりました。月2回の定期発行ですから2004年1月の創刊以来4年強を経過したこととなります。この間、51人、311本のご寄稿を得て、毎回の読者数は翡翠社のホームペイジの”評論の宝箱”のアクセスを含めて約300人位になります。ここまでのご支援・ご協力に心から御礼申し上げます。
ところで、さらなる内容充実を図るため100号までのご寄稿者及びテーマー等を取り纏め、翡翠社ホームペイジの“評論の宝箱”のバックナンバーに付加いたしました。今後のご寄稿の参考にしていただければと思います。
また、これを機に、ご関心のある方にどんどんご寄稿をお願いしたいと思います。ご寄稿者、読者を問わず、お知り合いにお勧め頂ければと考えておりますので宜しくお願いいたします。

今号は、100号を記念して創刊以来のご寄稿メンバーである今村該吉さんの著作”鎌倉つれづれ”を稲田優さんにご紹介いただいたほか、これまた創刊以来のメンバーである堤さんの書評、渡辺さんの私の一言と書評を掲載いたしました。ご多忙のところ皆さんのご寄稿に心から御礼申し上げます。
今後とも皆様のさらなるご支援を心からお願い申し上げます。(HO)








 
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