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■2010年1月1日号 <vol.145>

書評 ─────────────
 
・ 書評    片山恒雄 『横浜少年物語』 
        (紀田順一郎著  文芸春秋社刊)

・ 書評    亀山国彦 『明治天皇』 
        (ドナルド・キーン著 角地幸男訳 新潮文庫)

・【私の一言】 岡田桂典 『ドルの復権』





2010年1月1日 VOL.145


『横浜少年物語』
著者紀田順一郎   出版社:文芸春秋社刊
片山 恒雄   

 本書は、終戦の日を小学校4年生で迎えた少年の戦中戦後の回顧録である。私とほぼ同年代であり、都会に住んで空襲や疎開を経験するなど共通した体験も多く、読んでいて随所に懐かしさと共感を覚えた。しかし、子供ながらに私などより遥かにつらい日常生活を送っているうえ深い人生経験を味わっている。また、時代を見る眼にも鋭いものがある。

 著者の家は、代々横浜の本牧で手広く白生地を取り扱う問屋で、父は日本銀行の本店に勤務するサラリーマンであるなど恵まれた環境に育ったが、太平洋戦争の激化により箱根の旅館に集団疎開を余儀なくされる。しかし、そこで待っていたのは、生来身体が虚弱なうえに乏しい食糧事情による飢えと上級生の厳しいしごきに耐える日々であった。

 父親が結核で亡くなったことにより、いったんは疎開先から戻されたものの、まもなく横浜の家は戦災で焼失し、頼れるあてもないままに幼い4人の子供を抱えて、衝動に駆られるように「俊(著者の本名)、早く大きくなっておくれ!」と口走った30歳台の若き母の心情は如何ばかりであったろう。

 終戦とともに日本は天皇制国家から民主主義国家へと変貌し、それに伴う価値観の大きな転換を経験するが、思考の基礎的なトレーニングさえ出来ていない少年の精神的な混乱は想像に難くない。世相の面でも、著者が中学校に進学した昭和23年には、帝銀事件・寿産院事件・福井大地震・太宰治情死・昭和電工疑獄に加えて、11月には東条英機ら戦争犯罪人7名の絞首刑が執行されるなど衝撃的な事件が相次いで起こっている。しかし、著者はそのような中にあって、知的欲求を満たすために乏しい財布の中から少しずつ安価な本を買ったり、図書館に通ったりして、次第に読書の喜びを知るようになる。また、国語の時間に先生の指導の下で、クラスの全員が手分けして明治・大正・昭和の3代にわたる日本を代表する文学者を選びその代表作を1作品ずつ大きな紙に書き上げるという作業をした。これは長い間教室に張られ毎日眺めているうち著者の脳裏に刻まれ、その後の図書選択の指針になったという。ちなみにこの本には「歳月と読書」という副題がついている。

 本書は著者の中学校卒業までで記述が終わっているが、その後大学を卒業しサラリーマン生活を経て文筆で身を立てるようになり、現在は神奈川近代文学館の館長を務めている。私も著者が書いた読書案内の類いの本をわずかながら読んでいる。しかし著者の経歴を辿ると、その原点には逆説的ではあるが、少年期に思うような読書もできなかったことによる知的飢餓感を充足させたいとする強い欲求が存在しているではないかと思う。


『明治天皇』
 著者ドナルド・キーン  訳:角地幸男 出版社:新潮文庫

亀山 国彦   


 著者は、『源氏物語 <http://ja.wikipedia.org/wiki/源氏物語> 』に感動、日本語を学び始め、大戦中、米海軍 <http://ja.wikipedia.org/wiki/米海軍> 日本語学校に入学、日本語の訓練を積み、戦場で日本語 <http://ja.wikipedia.org/wiki/日本語> の通訳官として、捕虜の尋問、兵士・家族間の書簡の翻訳等に従事した。戦後は日本文学研究者として、多くの著書を著し、日本文学を世界に紹介したことから、2008年文化勲章受賞。

 偉大な天皇だったと教えられて来たが、具体的な業績はあまり知らなかったので興味を持って読んだ。「天皇の存在が人々に非凡な勇気ある行為を演じさせたこと、維新政府の功臣たちにとって、天皇が常に心のよりどころであったこと」は事実であったようだ。明治天皇は、日記をつけず、私的な手紙は殆ど書かず、写真も3-4枚しか残っていない、ある意味でなぞの人物である。米国人である著者は、自由な立場から、神格化され、畏れられていた天皇の日常を中心に置き、幅広い記録を元に明治時代を鮮やかに描き出していることに感動させられる。

 天皇は、抜群の記憶力を有し、勤勉で我慢強く、感情を表わさず、衣服には継を当てるなど質素で、臣下には優しさを見せた。反面、医者と写真は大嫌い、勉強はあまり好まず、乗馬好き、身長167cmと大柄で、酒にめっぽう強い。時には、宮中儀式、政府会議、勉学の欠席や引きこもりもあったが、諫言は尊重し、行いを改めた。最後は糖尿病が悪化して亡くなった(60歳)。
 政治的には、日本の帝国主義化を支持するが、急激な国際化にはためらう面があった。周囲の補佐が円滑に働き、国力の増大とともに、天皇の名声が高くなったと著者は考えている。

 天皇は、明治10年代前半(20代後半)までは、政治的に自らの見解を表明することはなかったが、徐々に政治を主導する姿勢を明らかにした。同41年(39歳)、開設後混乱していた議会と政府との予算案を巡る対立に当たっては、率先宮廷費を削減し、官吏俸給削減分を軍艦建造費に充てる決定を下し、解決に導いたのを初め、調停機能を果たした様子、それに続く政治混乱期に総理大臣選任に苦労したことが述べられている。
 外国人と接するに当たって明治天皇は、常に丁重でそこには誠意すら感じられたというが、現在に繋がる皇室の伝統の始まりであったのかもしれない。

 「外国人の国内雑居に反対」する意見が国内に根強いことが主な原因で不平等条約改正が遅れたこと、朝鮮の開化派活動家金玉均が朝鮮からの刺客により暗殺されたことは、それぞれ、近年の政治問題にも通ずるところがあり、客観性を備えた近現代史を勉強し直す必要を、また、感じさせられた。

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『ドルの復権』
岡田 桂典

 日本経済はデフレスパイラル入ったようですが、金を始めとする国際商品市況は3月頃より30%位上昇していますから非常に不気味な感じで心配です。その理由の第一は近年、商品(資源・エネルギー)価格が工業品価格を凌駕したことが4回ありました。その平均期間は約18年で、今回はあと10年ほど続くと予想され、資源輸入・加工貿易型の日本は最も影響を被ると懸念されることです。第二に財政規律を失いつつある日本では金利上昇、インフレ、円安が危惧されます。高騰する資源を手当てできる為には“強い円”が必然ですが、どうも“強いドル”、“弱い円”の時代になりそうだからです。

 巷間では米国財政赤字が増加してドル価値の崩落が説かれていますが、アメリカはそんな“やわな国”では決してなく、じっくりとドル強化の戦略を練っていると考えます。その意味でいつも気になっているのは野村証券の元社長・会長の故田淵節也さんが07年末の日経「私の履歴書」の最後の日に書かれた言葉です。大要次の通りです。「どうも潮目が変わりそうだ。何か嫌な風が吹き出した。アメリカが新しい通貨を作るのではなかろうか、その場合の通貨価値のベースは金をはじめとする資源であろう」。戦後の経済・金融を熟知され百戦練磨の田淵さんは半年後に亡くなられていますから何か日本への遺言のように思えます。

 アメリカは世界一の資源大国です。金の保有は世界一、現在価格は急騰中です。第二次オイルショック後の80年には金価格は20倍になっていますから今後の価格次第では巨額な資産になります。エネルギー資源は最近の統計では世界一、鉱山資源も豊富、おまけに世界中の金属鉱山の大株主です。次に風力・太陽光(熱)の利用が急ピッチで進みますが、これはやがて西部の無人でタダの大荒野が“大資源”になることを意味します。さらに今後最も不足するといわれる食糧の生産、輸出も世界一です。
 アメリカは経済回復までドル安で稼いでいますが、必ず強いドル政策へ転換すると思います。何故なら先進国には投資機会が少なく、10年間に4倍に増えた金融資産、世界の時価総額100社のうち40社を占めている大企業(日本は5社のみ)が“儲けるためには”富が増え続ける新興国・資源国への投資の拡大が不可欠だからです。このためには強いドル通貨が必然で必要なのです。ドルの強化にどの様に資源を使うのかはわかりませんが、あらゆるシミュレーションが進んでいるでしょう。アメリカは金本位制を復活させると説かれる高橋靖夫さんによると、アメリカはニクソンショックの時と同様に大統領が宣言すれば通貨制度を変えられるのです(金本位制復活、東洋経済新報社刊)。

 アメリカの動きとともに注視すべきは中国の動きです。中国要人が金の保有を1万トンに増やしたいと言っています(現在は約1000トン)。また、中国は豪州、ブラジル特にアフリカでエネルギー鉱山資源を買い漁っています。中国自体資源国で特に希少金属の宝庫です。米中が資源エネルギーの価値を認識して他の資源国と共に新しい通貨、金融秩序を作るということも十分にあり得ます。日本と米国の関係が悪化しています。日本の工業力は低下の一方です。アメリカの日本への価値観・親密感が薄れていくことは非常に危険です。また、中国人の心の深層には日本の侵略へのトラウマが残っています。米中が日本への配慮を感じる必要なく連携すれば無資源で財政規律も守れない日本の円安は必至でしょう。円安になれば輸入価格が高騰するだけでなく、日本の会社は大バーゲンです。今年は企業買収が企業収益拡大に最も早く簡単な方法だと再認識されて大ブームになると予想されます。プジョーの三菱自動車、ヴォルクスワーゲンのスズキがその嚆矢でしょう。今こそ田淵さんの遺言を噛みしめなければならない時期です。他国に隙を見せないためにはせめて財政健全化を望みますが。

 

 

明けましておめでとうございます。
今年も皆様に佳い年であることを心から祈念しております。
『評論の宝箱』は今回で145号になりました。これも偏に皆様方の指導・ご鞭撻のお蔭と感謝申し上げる次第です。
今年も引続き宜しくお願い申し上げます。

ところで、今年は庚寅(かのえとら・こういん)ですが、
元青山学院大学教授・鴇田 正春(ときた まさはる)氏によれば、
----《昨平成21年の己丑年は「一つの時代の結び終るなり」で、今までの流れに終止符をうつ時。そこで大切なことは、紀律を正して筋道をはっきり通し未来にそなえることであった。
そして、今年の庚寅年では、これまでの仕組みや制度などの変革が起こり、世界は混乱することになる。
さらに、新しい考え方で世の中が動き出すのは、来22年の辛卯年からで、そこから新しい時代が始まる。
この3年間は時代の変革期で価値観が変わる時期》--------と、指摘されていました。

一方、こういう時代であるだけに、この変化を活かし人が出て来るチャンスもあるそうです。
現在の政治・経済の実情をみるにつけ、新たな時代に向かった創造的な人材が早く出て、新しい日本を築き上げてほしいものです。 (HO)




 
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