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2007年1月15日 VOL.74

 

 

『サンカの真実 三角寛の虚構』 
著者:筒井功    出版社:文春文庫

稲田 優 

 三角寛(本名は三浦守、明治36年7月〜昭和46年11月)は、「サンカ社会の研究」で東洋大学から文学博士の学位を得、その要約版として昭和40年に朝日新聞から「サンカの社会」という研究書を刊行した。
その書籍は本文と写真と付表を加えて300頁余、記述は精密、数字は詳細すぎるほど詳細だったという。そこに印刷された62葉の鮮明な「サンカの生態写真」は迫力とリアリティーに満ち、撮影年月日と場所をきっちり記した説明が添えられていた。
 これがその後のサンカ研究者の道に大きく横たわり、“サンカは全国に秘密結社のごときヒエラルキーがあり、巨額の資金を蓄えている”などという、自己の戦前の小説の延長のような数々の“研究成果”に迷惑しているのだそうだ。
 これに対して、三角寛の上記研究書ほかはすべて作り事なのだ、ということを論証したのが本書である。
著者筒井功は前著『漂泊の民サンカを追って』(現代書館発行)では、“三角が膨大な情報と知識を持っていたことは間違いない”としていたそうだが、本書でメ三角の知識は、じつはたいしたことがなかったモと訂正しておきたいと一歩進めている。
 戦前から山窩を題材にした小説を書いていた『小説家三角寛』から説き起こし、研究書に掲載されたサンカの写真に写っている人たちを三角の足跡を辿って割り出し、それらの人たちがモデルとして出演したに過ぎないこと、写真の説明は全て捏造であることを突き止めてゆく。著者・筒井功の民俗学のフィールド研究に対する真摯な姿勢が読者に嫌悪感を感じさせない。
それにしても三角寛の虚構の研究論文のその後の研究者に与えた障害は大きい。
 最近、虚構の研究論文がニュース面をにぎわしている。学問の分野では曖昧さを放置しない周囲の学者の勇気がもっと欲しいように感じられる。




 
 

 

 

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『旅の今昔(教育問題に関連して)』
片山 恒雄
先日、深夜放送を聴いていたら、奈良大学の学長さんの講演が耳に入ってきました。その先生の専門は、「体験日本史」という学問で、その時代・時代の視点に立って歴史の現場を実際に体験し、そこから歴史の真実をつかみ取る学問と伺いました。
 その授業の一環として、年に一度先生が30人ほどの学生を引率してお伊勢参りをするそうです。奈良を出発して出来るだけ当時の風習に倣って、昔の旅籠(はたご)に近いところに泊まりながら3〜4日かけて伊勢街道を徒歩で行くのです。そうすると歴史書を読んだだけでは想像もできなかったことが次々と分ってくるというのです。
 ある時、旅の途中で雨が降り出したので、先生が「軒先を貸してくれる家を探してきてくれ。」と学生に頼んだところ、早速戻ってきて、「この先に軒を貸してくれる家があります。」というので行ってみると、お爺さんが出てきて、「軒先だと雨も充分凌げないので中に入りなさい。」と言われ、学生は三々五々土間に座ったり、上がり框(かまち)に腰掛けて用意してきたお弁当を開きました。すると、お爺さんとお婆さんは、30あまりのお椀に暖かい味噌汁を入れて持って来てくれました。一つ一つのお椀には、卵が入っていました。後になって分かったことですが、お爺さんとお婆さんは、家の近所を何軒か回って少しずつ卵を借り集めたそうです。学生たちは感激して、お礼に手分けして食器を洗ったり、家の周りを掃除したり、薪を割ったりご恩返しをしてから出発しました。このお伊勢参りを体験した学生は、生涯にわたり旅の思い出を宝物とし、きっとその後の人生の行動指針にして活かしていくものと思います。このように人と人との交わりを通して生まれる心と心の触れ合いが現在は少なくなりつつあり、それがひいては親と子の深刻な争い、学校での陰湿ないじめなど現在の世相に反映しているのではないでしょうか。
これからの教育を議論するにあたっては、以上のような視点を忘れずに考えていただきたいものです。英語の「教育」つまりEducationと同じ仲間の動詞にeduceという単語があり、これは「潜在している性格や能力を引き出す」という意味です。ドイツ語でも「教育」はErziehungといいますが、その意味はやはり「引っぱり出す」ということです。ちなみに、日本で扉に書いてある「押」「引」はドイツに行くと「Dr_cken」[Ziehen]と書いてあります。ErziehungはZiehenから来ているのです。
一方、日本の「教育」は文字通り「教え育てる」です。上に立って下を導くことはとても大切ですが、教える人が学ぶ人と同じ視線に立ってやる気を引き出すことを主眼に考えるべきです。日本と西欧の「教育」という言葉から導き出される相違点は、日本では「知識を一律に授ける」ことに力点が置かれているのに対して、西欧では「一人ひとりの個性と能力を最大限に引き出す」ことに重点が置かれているように思います。昨今かまびすしく論議されている教育問題の本質はこの辺にあるのではないでしょうか。





『田園まさに蕪(あ)れなんとす』
新田 恭隆

フォーチューン誌2006年4月17日号によると、米国のトップ10大企業およびその本社所在地は次のようである。
1位 エクソン モービル   Irving(人口178千人/98年現在),テキサス州
2位 ウオルマート ストアーズ  Bentonville(20千人),アーカンソ−州
3位 GM   Detroit(970千人),ミシガン州
4位 シェブロン   San Ramon(42千人),カリフォルニア州
5位 フォード   Dearborn(92千人),ミシガン州
6位 コノコフィリップス   Houston(1,787千人),テキサス州
7位 GE   Fairfield(54千人),コネティカット州
8位 シティグループ   New York,ニューヨーク州
9位 AIG インターナショナルグループ New York,ニューヨーク州
10位 IBM     Amonk,ニューヨーク州
殆んどわれわれにもおなじみの大会社だが、直ぐに気が付くのは所在地が国内各地に散在していることである。どこかの大都市に集中しているわけではない。
ひるがえって日本の大企業をみると東京への集中が甚だしい。伝統のある関西の大企業でさえどんどん本社を東京に移したため関西経済の地盤沈下が嘆かれている。日本と米国ではどうしてこのような違いがあるのだろうか。
日本は政治や役所に近いことが企業の成長に役立つというのは大きな理由のひとつであるが、それだけのものでもない気がする。大事な取引先が東京に集中しているから便利であるということも言われるが、本社同士の接触だけで多くの取引が決まるものでもあるまい。
このことにはもっと深い国民の文化に問題の根源があるのではないか。
これだけのことならまだよいのだが、東京集中が地方を疲弊させ、また様々なひずみを生じて特に環境面生態面への悪影響が懸念される。もっと全国土を有効に活用しないのはかえって非効率というべきであろう。
日本でも江戸時代には政治の中心は江戸にあったが経済の中心は大阪で、また全国各藩にもそれぞれに相応の生活があったように見られる。文化的な面を見ても例えば中江藤樹(近江)、本居宣長(松阪)、広瀬淡窓(豊後日田)、浦上玉堂(備中)、良寛(越後)華岡青洲(和歌山)など著名な人物が全国に点在していた。
成長成長で世の中がなにか息苦しくなっていないだろうか。折しもほっとわれに返った高年層が増えつつあるのは良い機会だ。文化を変えねばならないと思う。
往時学校で習った漢詩の一節「帰りなんいざ、田園まさに蕪(あ)れなんとす。なんぞ帰らざる」が思い出される。



 

 

 
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