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■2009年11月15日号 <vol.142>

書評 ─────────────
 
・ 書評    今村該吉    二つの遺書に関して
             『ガン日記』中野孝次著(文春文庫)
             『死顔』吉村昭著(新潮文庫)

・ 書評    稲田 優  『半島へふたたび』  
              蓮池 薫著  (新潮社)

・【私の一言】 幸前 成隆 『楽しむ者に如かず』





2009年11月15日 VOL.142


二つの遺書に関して
『ガン日記』
著者中野孝次  出版社:文春文庫
『死顔』著者吉村昭  出版社:新潮文庫

今村 該吉    

中野孝次の死は2004年、享年79。吉村昭は2006年、享年79。
 ほとんど同時代に生き、死んだ二人の作家の遺作が文庫本になって刊行された。前者は発病後の闘病の記録を克明に記した日記として。後者は死に直面した著者が小説の形で記した遺作短編集として。日記、小説と形は違うが、死を自覚した二人の作家の語り口は深く胸を打つ。

 この2冊には付録の形で、死に際しての処置、すなわち遺書が生前の筆者の手で、あるいは残された夫人の記録として、詳しく記されているが、共通することが多い。いずれも延命措置はとらないこと、葬儀はひっそりと家族だけで行い、世間に公表しないことなど。吉村昭は「親戚にも死顔を見せぬよう。電話は、ただいま取り込んでいるので、と断ってもらって応対すること、弔電お悔やみの手紙をくださった方には失礼していちいち返事を書かぬこと…」などきわめて具体的である。

 この数年ふたりの作品は結構読んでいる。しかもそれらが死を自覚してからの著作であることを知って、なおさらふたりの仕事に対する執念を感じた。最後まで書き足りなかったことを書こうとし、未定稿の原稿の推敲に心を砕き、しかも従容として死に臨んだのだった。
二人の本の書評として、ことさら遺書のことを取り上げたのは、自身が古希を過ぎ、遺書に無関心ではいられない歳になったということだろうか。


『半島へふたたび』
 著者蓮池 薫  出版社:新潮社

稲田 優   


 北朝鮮に拉致され7年前に帰国した蓮池薫さんのエッセイである。

本書は二部構成で、第一部は出版社が企画した韓国への取材旅行の旅行記
だが、その帰国後にブログに書き綴ったものが土台となっているとの由。
旅行した時期は昨年2月とまだ新しく、北との比較がみずみずしく描かれており、朝鮮半島の歴史や民族や文化観などたいへん奥行きがあって引き込まれる。

あの忌まわしい北朝鮮と陸続きの韓国に行くことについては、蓮池さんにとっては平静でいられる事ではなかったらしいが、夫人と一緒に行ったことにより冷静さが保たれたと推測され、安定感ある文章となっている。
時折、韓国の街角の風景描写と重なるようにして北朝鮮に拉致されていた時代の苦しかった生活の細部が抑制された表現で語られていて、改めて実感として 胸が痛む。

一方、ハングル語が堪能で北朝鮮生活の長かった蓮池さんならではの、韓国人への細やかな受け止め方が随所に出てきて、ハッとさせられる。
第二部の表題は、「あの国の言葉を武器に、生きてゆく」で、第一部の韓国旅行に行く前の8ヶ月間に綴ったブログを整理し直したものだという。

韓国の書籍の翻訳家としてデビューすることになる『孤将』を翻訳するまでの、すさまじいばかりの努力と集中力には驚嘆させられる。
また後半は、雑誌社企画で韓国から来日した代表的な人気作家、孔枝泳(コン・ジヨン)氏の通訳の仕事をした時の話になるが、何とも言えない味わいのあるドタバタ劇が面白い。
行間にいろんな示唆に富む第一級のエッセイではなかろうか。

 

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『楽しむ者に如かず』
幸前 成隆

「これを楽しむ者に如かず」 (論語・雍也)――― 楽しんで行うものが最高である。孔子の言葉である。

「これを知る者は、これを好む者に如かず。これを好む者は、これを楽しむ者に如かず 」(同)
 知っているというだけの者は、好きだという者に及ばない。好きだという者も、これを楽しんで行う者には及ばない。楽しむ者が最高である。
「知る」ということは、客体として認識すること。「好む」ということは、これに関心を寄せること。「楽しむ」ということは、さらに進んで一体化し、融合すること。最高の段階である。そして、楽しむためには、まず知り、ついでこれを好む段階を経なければならない。

 桑原武夫氏が、登山にたとえて、平明に説明されている。
 「山があることを、さらにそれに登る技術を知らなければ、登山は成立しない。しかし、登山家といわれるのには、山が好きでなければ駄目である。好きだからあくまで登攀に成功しようという闘志もわいてくる。しかし、本当の山登りの達人は、谷をわたり岩壁を登ること自体に楽しみを見出している。だから他人にまたは組織に要求されて登るわけではない。気分ないし体調が良くないと見たら、登攀をうち切ってこだわらない。そして日を改めてまた登って楽しむのである。」

仕事もそうである。楽しむ境地に達するかどうか。藤原銀次郎氏は「仕事を自分の趣味にせよ (私の経験と考え方) 」と言われる。私もそう思う。

 

 

 

 

最近『思い』という言葉をよく見聞します。
この場合の『思い』とは、何物・何事かに働きかける気持ちであり、これが強い場合には、『私たちは心の中で考えたとおりの人間になる』(ジェムース・アレン)という力があるものです。
従ってこの『思い』には、重要な意味があると思われます。
所で、この思いには、我欲的『思い』と貢献的『思い』の2種があるそうです。最近は、暗いニュースや記事が多いように思われますが、我欲が強くて貢献的『思い』が少ないせいでしょうか。貢献的『思い』を、楽しみながら実現したいものです。
今号もご多忙の中、ご寄稿有難うございました。
(HO)




 
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