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■2009年7月1日号 <vol.133>

書評 ─────────────
 
・書評  石川勝敏 『アラブが見た十字軍』
      (アミン、マアルーフ著  牟田口義郎・新川雅子訳
       リブロポート社 または ちくま文庫)  
・書評  矢野清一 『シドモア 日本紀行(明治の人力車ツアー)』
       (エリザ・R・シドモア著  外崎克久訳  講談社学術文庫)
 
・【私の一言】岡田桂典 『今浦島通信』




2009年7月1日 VOL.133


『アラブが見た十字軍』
著者アミン、マアルーフ 牟田口義郎・新川雅子訳  
出版社:リブロポート社 または ちくま文庫

石川 勝敏    
 この図書は1096年から8回、200年間続いた十字軍遠征の歴史をアラブ側から描いた物語である。内容は当時のアラブの歴史家や年代記者の証言に依っている。
 彼等は十字軍については語らず、野蛮なフランク(当時の西洋人の総称)との戦争あるいはフランクの侵略として記述している。
 フランクがエルサレムを奪ったのは、1099年8月。イスラム世界と西洋との千年にわたって続く敵対関係の発端となったのは、このエルサレムの奪取であった。西洋がエルサレムを確保したのは1099年から1187年、1229年から1244年の100年余である。             
 セルジュクュク朝にアナトリア半島を占領された東ローマ帝国の皇帝コムネノスがローマ教皇ウルバヌス2世に救援を求めた事が十字軍の発端であった。このとき、大義名分として異教徒イスラム教国からのエルサレム奪還を訴えた。

 著書はニケーアの城塞の攻防から始まりアンチオキア、アレッポ、トリポリ、ベイルート、ダマスカス、テイール、ダッカ、エルサレム、ガザ、カイロ、アレキサンドリア等々200年間の城塞都市の攻防を延々と描いていく。
この200年にわたる抗争は、うわべから見ると、アラブ世界の勝利に終わり、ムスリムはその後ヨーロッパの征服にでかける。1453年コンスタンチノーブルを征服し、1529年にはウイーンの城壁に陣を張った。
 十字軍の時代アラブ世界はスペインからイラクまで知的、物理的に世界で最も進んだ文明の担い手だった。しかし、その後、世界の中心は西に移る。
西ヨーロッパにとって、十字軍は経済的、文化的革命の糸口であったのに対し、ムスリムの聖戦(ジハード)は衰退と反開化主義の長い世紀につながって行く。
 オリエントでは西洋の象徴の近代化を拒否した。
 著書には、フランクの占領時代、ムスリムの有力リーダーとして、アラブ人名ではなくアラブ化したトルコ人、アルメニア人、クルド人のカリフの名前がでてくる。またアラブには跡目相続に安定したルールが無いため、繰り返し内乱が起こっている。フランク社会には権利の分配のルールがあり、アラブでは領主の専制権力に歯止めがない。
 十字軍時代を通じてアラブは西洋の思想に心を開かなかった。フランクはどの領域でもアラブに学んだ。ギリシャ文明の遺産は後継者であるアラブを介して西ヨーロッパに伝わった。医学、天文学、化学、地理学、建築等フランクはアラビア語の著書から知識をくみとり、同化し、模倣しそれを追い越した。



『シドモア 日本紀行(明治の人力車ツアー)』
著者エリザ・R・シドモア 訳:外崎克久 出版社:講談社学術文庫

矢野 清一    
 本書の著者は、1856年(安政3年)生まれの米国の女性で、人文地理学者、文学博士で、且つ、ジャーナリストでもある。兄上が外交官として、明治のごく初期に来日し、横浜や大阪に駐在されていたと言う事情があった為だと思われるが、1884年(明治17年)に上海経由で初来日。その時に目にした当時の日本の景観・風俗・人情などに魅せられて、その後、度重ねて来日し、日本各地を見て歩き、自分の目で確かめたことを、この本に纏めたものである。

 同女史は、人文地理学者だけあって、当時の西欧の事情とは全く異なる、未だ江戸時代の面影を濃く残している日本の風物・景観・風俗・習慣・人情などについて、(1)西欧人的な目で見ると言う偏見を交えることなく、また、(2)明治時代の前から来日した西欧人が書き残している書物の内容に影響を受けることもなく、(3)在るがまま、見たままの当時の日本の状況を、客観的に記しているように思われる。外国人が残してくれたこの書によって、日本人である我々が、明治初期の時代の日本の各地の風物を想像する事が出来るのは、非常に有難い事であり、非常に貴重な著書だと思われる。

 現代社会、特に、近時は、わが国の歯車の大事な所が、何か狂ってしまって、古き良き時代の日本の心を喪失してしまったように思われてならない。全てが「金」や「物欲」の時代に落込んでしまったように思われるが、この著書を読んでいると、江戸から明治初期の頃の人々の暮らしの中には、今忘れられている精神的な余裕や豊かさが偲ばれ、なぜ今の日本はこんなに変わってしまったのかと、つくづく反省させられる。

 訳者による紹介を見ると、今、ワシントンのポトマック河畔に咲いている桜の木は、シドモア女史の尽力もあって植樹されたとのことである。又、同女史は心底からの親日家で、アメリカの日本人に対する「移民差別政策」に反対して、スイスに亡命し、最後まで信念を貫き通し、同地でお亡くなりになったとの事。

 著者が、日本及び日本人を本当に愛してくれたアメリカ人であることに、心から感謝の念を持って、本書を読み終えた。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『今浦島通信』
岡田 桂典

  北朝鮮のミサイル恫喝に“敵の基地を叩け”と自民党筋が興奮しているようですが馬鹿馬鹿しき次第です。自衛隊には敵地攻撃の能力はありません。あったとしても“不可欠な事”は敵地攻撃を行うためには命令を下す司令官が必要だという事です。それは首相なのです。“私はいやだ、降りる”と言い出したり、命令書の漢字の読み方を間違ったりされたら大変です。

 ではどうするか。シンガポールに学びましょう。自国を守る最善の策は外国のカネ(財産)、ヒトを取り込み、不可欠のサービスを提供することです。そうすれば外国は攻めてこないし、いざというときは守ってくれます。大規模な石油基地は英米資本、世界有数な金融基地には米欧中心にアジアのおカネが唸っています。世界一のコンテナ基地の主な利用者は近隣諸国です。住民の3分の1は外国人、中国からは英語を学ぶため小・中学生だけでも1万人を超える学生がいます。攻めてくる国はないでしょう。万一の場合に守ってくれるのは勿論アメリカです。そのため、米軍は空軍基地、民間空港、海軍基地をいつでも利用できるようになっています。

 日本にとって最良な国防策は、シンガポールに学んで、米・EU、それにロシア、中国も加えておおいに投資をしてもらうことです。自国の巨額な財産があれば皆“日本にあるオレの財産に手を出すなよ”と守ってくれます。次にヒト、北朝鮮(中国も)の要人の子女に費用を日本持ちで毎年3〜500人留学してもらうのです。しかし、先例主義、既特権が大事、規制が大好きな日本では無理でしょう。でも心配ははいりません。

 前回、北朝鮮のミサイル実験で日本中が大騒ぎしていると知ったシンガポールの友人がいいました。“北朝鮮のミサイルは精度が悪いらしい。国会を狙うのはかまわないが、大好きなラーメン屋に当ったら大変だ”
 これです。日本は自国の首都を外国の基地で囲まれている世界でもたった一つの国なのです。横田、厚木、横須賀、そうして、都内には米人がごまんといます。ある防衛庁長官は“米軍は番犬様”だといいました。何せアメリカは自国民が殺されたら相手の国を爆撃に行く国ですから、番犬に当るかもしれないミサイルを北朝鮮は絶対に東京には撃ちこめません。

 北は、“日本はわが基地を攻撃すると生意気なことを言っておるが、わがミサイルは日本の全土を標的としている”と恐喝しています。これも心配無用です。日本全土の中学・高校の英語の先生を全部アメリカ人にするのです。英語教育も著しく向上するでしょうし、番犬を全土にくまなく配置するのは、役に立たないミサイルを開発するよりよほど安上がりです。

 

 

 ご多忙の中 、多岐に亘る書評・一言のご寄稿をいただき大変有難うございました。いずれからもグローバル時代に入り、我々はもっと世界のことを知らなければと感じました。
 さて、夏芝居という言葉があります。これは、旧の六、七月中の興行のことで、この時期は重立った役者達が土用休みをとり、従って、夏芝居とは主要な役者抜きの顔ぶれの興行となります。そこで、入場料を安くしたり、怪談や早変わりなどの奇抜な出し物を演じて客寄せをしたそうです。
 過日の天声人語によると、最近の自民の選挙対策についての動きは、“花形不在に悩む「自民一座の古賀座長」は、近づく夏舞台が心配でならない。受けを狙って人気者に出演を頼んだら、思わぬギャラをふっかけられた。「なめられたものだ」と、座付きの役者が憤りの声をあげる__たとえれば、そんな図だろうか”だそうです。
 花形不在の日本社会は、今後世界の中でどうなっていくのでしょうか
(HO)

 

 

 




 
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