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■2008年3月15日号 <vol.102>
書評 ─────────────

・書評 片山恒雄  『明治天皇の一日』 米窪明美著 新潮新書
・書評 前川 彬  『日本は没落する』 榊原英資著 朝日新聞社

・【私の一言】岸本新兵衛 1月27日付ニューヨークタイムズ記事
          『覇権よさようなら(Waving Goodbye to Hegemony)』


2008年3月15日 VOL.102


『明治天皇の一日』
著者米窪明美    出版社:新潮新書
    

片山 恒雄  


 いうまでもなく明治帝は、日清・日露の大戦を勝利に導き、西欧列強に伍して日本の近代化を推し進めた偉大な人物である。肖像画でしかその面影をうかがい知ることは出来ないが、軍服を着用し、日本刀に両手を乗せてこちらを睨んでおられる髭の英姿は、観る者に畏敬の念を抱かせずにはおかない。
 数年前私は明治の元老山県有朋の別邸を見学したことがある。すり切れんばかりに使い込まれた家具調度類もさることながら、棚の上に明治天皇から拝領したという小さな工芸品がさりげなく置かれてあった。その作品には横に「天皇宸製(しんせい)」と書かれており、眼を見張るばかり巧緻に作られた鶴の置物であった。その作者とあの肖像画の人物がどうしても結びつかないほど繊細な作品であった。ところが最近、本書を読んで納得のいく思いがした。
 本書は、明治帝の主として「奥」における日常生活を中心に描かれた作品である。天皇の一日は、朝8時ぴったりの起床とともに始まる。同時に宿直の権典侍(ごんてんじ)が発する「おひ〜る」という甲高い声は伝言ゲームのように次々と関係者に伝えられる。天皇はすでにその前から目覚めておられたのだろうが、周囲の女官や侍従たちの朝の支度もあり、お床の中でもじもじしておられたことを想像すると思わずほほえみが湧く。
 このように、天皇は周囲の者に大変細やかな気配りをされた。日課にしておられた御殿内の散歩も、園丁など関係者の負担が増えるという理由で取りやめておられる。それだけに、さまざまな事柄が気にかかるご性格であり、その日に行うべき仕事を各人に細かく指示され、その内容を決して忘れず、必ず結果の報告を求められた。
 また、明治帝は日常のご執務を常に立ったままでおこない、5分もじっとしておられることはなく、精力的に動き回っておられたという。臣下からの拝謁も、終始起立して受けられた。
 天皇は、一日20〜30首、生涯で9万首の和歌を詠まれたが、書き付ける紙は不要となった紙袋を切り開いてその裏に書かれた。高島屋に注文したワイシャツの紙箱が書類入れに使われることもあったという。まことに襟を正される思いがする。
 面白い話がある。明治初年天皇は西洋料理を召し上がるにもその作法が解らないので、侍従の一人に築地の精養軒に習いに行かせた。覚えて帰ってきた侍従を囲んで天皇はじめ侍従や女官が精養軒のナイフとフォークを握りしめて、全員で西洋料理を召し上がった。その光景は、伝授役が芋を誤って転がすと、皆いっせいに転がしたというあの落語に出てくるはなし噺を連想させるものであったという。
 近代国家建設のためにみとう未踏の道を国民の先頭に立って切り開いて行くことは天皇に対し、想像を絶する緊張とストレスを強いたことと思うが、それを楽しむかのようなゆとりさえ感ずる数々の逸話を読むと、天皇は我々常人の尺度をもってしては測りきれない大きな存在に思えてくるのである。
以上




『日本は没落する』
著者榊原英資    出版社:朝日新聞社
    

前川 彬  


 著者は、「ミスター円」として知られた元大蔵省財務官で現在は早稲田大学教授の職にあるが、経済がグローバル化する中で、日本が世界の中でどのような位置づけにあるかを見極めることのできる識者の一人である。そのことは、昨年アメリカで起きた「サブプライムローン」問題が日本を含め世界に深刻な影響を与えることをいち早く警告していたことからもうかがい知れる。
本のタイトルは過激であるが、日本経済は、いまのままでは中長期的にみて世界的競争に打ち勝っていけるのかきわめて疑問であると言いながらも、一方で官民双方が危機感を持って抜本的な改革を実行すれば活路を開くことができるとする憂国の書である。
著者によれば、いま世界は「ポスト産業資本主義」の時代へ移行しつつありいわば数百年に一度の大転換期を迎えているにもかかわらず、日本は「産業資本主義」の時代に達成した豊かさに安住し世界の激動に背を向けて安穏としているという。そのことを、技術、知識、情報の三つの側面について、日本とアメリカや中国、インドなど発展途上国の状況を比較しながら分析を進めており、たいへん分かりやすい。さらに、経済問題以外でも、政治のありかたや公務員、教育、年金の問題まで触れているが、官僚時代に培われた知識と持ち前の視野の広さから的確な指摘をされているように思う。
最終章に「日本の進むべき道」として多くの提言が書かれているが、その当否は別として、この本を読むと、日本は早く何とかしなければ世界の中で置き去りになってしまうのではないかという思いに駆られる。そして、政財界が一体となって、日本が生き残っていく長期戦略を立てる日の近いことを願わずにはいられない。
以上

 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『1月27日付ニューヨークタイムズ記事
 (覇権よさようなら(Waving Goodbye to Hegemony))について』

岸本新兵衛

1月27日付けのニューヨークタイムズに『覇権よさようなら(Waving Goodbye to Hegemony)』という近年のアメリカには珍しく常識的な評論が掲載された。筆者はParag Khannaと云い、筆者の関心は世界の石油、天然ガスの受給と、その結果としてのオイルマネーの将来の動きを分析することにあると見られます。米国の石油に対する思い入れの深さは『執念』と云うべきか。
2年間で世界各地の実状をつぶさに観察して回った結論を米国の代表的新聞が掲載したこと、その分析が意外なまでに冷静で常識的で、従来のネオコン一色の米国の思潮に変調が兆しているのかと思いました。米国の代表的新聞が取り上げる視野と、世界第二の経済大国などと自画自賛する日本人の意識のギャップにめまいを感じさせられます。
長文のため翻訳はつけませんが、簡単な要旨は次のようです。
1.ジョージ・W・ブッシュが大統領だった最近8年間に世界の力関係は根本的に変わった。アメリカは覇権を失い、EUと中国が実力をつけて3強鼎立する時代へ移った。
2.次期大統領の任期が終わる8年後にはEUは30を超える加盟国を擁する超国家に成熟し、その必要とする石油・天然ガスは北アフリカ、ロシア、カスピ海地域から安定した供給を確立できる。減価する大量のドル札を抱える産油国、中国などはドル札とユーロ保有のバランスを計り、アメリカは外国の貯金を自由に使えなくなっていく。この結果EUが米国と比肩する金融センターになってEUを強化するだろう。
3.中国は経済、産業、軍事面でぐんと力をつけ、上海機構を通じて中央アジア諸国との連帯を深め、石油・天然ガスをはじめとする豊富な資源へのアクセスを確保する。台湾は中国と合体し、東南アジアは必ずしも中国を好きではないが中国との繋がりを深めざるをえない。
4.中国は各国と資源、開発の協定をひろげ、各地に何万人もの技術者、建設作業者などを送って建設事業を支援しているし、軍事要員の育成を支援し、かってのソ連のように武器を輸出して、影響力を拡大しつつある。
5.世界の多数の人々はイラクとアフガニスタン侵攻を米国の世界的帝国主義と見ており、軍事力を振り回したことがテロリスト・ネットワークを目覚めさせ、米国の一極主義的横暴に対抗する秩序への動きを呼び起こした。8年後にはアメリカは中東から大幅に撤退せざるを得なくなり、国連を中心とする国際関係の再構築を余儀なくされるだろう。
6.ロシア、インド、イスラム諸国はこの三極に対立する勢力を形作れないだろう。インドは中国よりずっと発展が遅れており、イスラム圏はまとまれない。
7.トルコはEUと産油地域の中間で重要な地政学的位置にあるが、米国嫌いになってしまった。
8.残念ながら日本はこの評論では無視され、わずかに韓国、タイとならんで米国の西太平洋勢力圏の同盟国として名を列ねるにすぎない。



啓蟄が終わったと思うと菜虫化蝶(なむし、蝶となる。青虫が羽化してモンシロチョウになる。)時候となりました。つまり変化する時期です。
自然界は、別として、人間社会は、タイミングよく変化することは難しい課題です。個人の場合、定年後の暮らし方について、原点に戻って、ただの人になり自分を取り戻すことが必要だと指摘した人がいます。
現在、日本も変化すべき時期でありますが、これが出来ずにいるもどかしさがご寄稿を頂いた書評、一言にもでていると思います。
日本も原点に戻って変化すべき方向を見定めるべき時期にあるといえましょう。
ご多忙中ご寄稿有難う御座いました。(HO)








 
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