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■2008年7月15日号 <vol.110>
書評 ─────────────

・書評 稲田 優 
    『バンクーバー朝日軍 〜伝説の日系人野球チームその栄光の歴史〜』
    テッド・Y・フルモト著  文芸社
・書評 山本 俊一 
    『武士道の逆襲』  菅野 覚明著  講談社現代新書

・【私の一言】川井 利久 『マニュアル人間』

 


2008年7月15日 VOL.110


『バンクーバー朝日軍 
〜伝説の日系人野球チームその栄光の歴史〜』

著者テッド・Y・フルモト    出版社:文芸社
    

稲田 優  

  20世紀初頭にカナダのバンクーバーに多くの日系移民が住んでいたことはほとんど知られていない。露骨な人種差別を受ける中、バンクーバーの日本人街(リトルトーキョー)のパウエルストリートで、日系二世の少年を集めて野球チームが誕生、チームの名は「バンクーバー朝日ベースボールチーム」(朝日軍)といった。

 このチームは猛練習で磨いた高い技術力と緻密な作戦をベースにした組織的な機動力野球、一貫したフェアープレー精神で試合を戦いつづけ1926年、チーム結成から12年目に悲願だったターミナルリーグ制覇を果たし、以降はカナダ最強の野球チームと呼ばれるようになる。

 1935年には日本から遠征してきた読売ジャイアンツの前身、「大日本野球倶楽部」とも対戦しているがさすがにプロにはかなわなかったらしい。しかし大平洋戦争の勃発によって突然の解散を余儀なくされた。

 2003年2月、悲劇の解散から62年目、朝日軍は「カナダ野球殿堂」入りを果たす。
 この本は朝日軍の輝かしい足跡を、彼らのバックグラウンドである日系カナダ人社会の歴史とともに追った実話に基づくフィクションだと序文にある。

 著者は、チーム結成時からずっとエース・ピッチャーだった日系二世のテディ・フルモトを父に持つ日本生まれの三世である。なぜ日本生まれかといえば、父のテディ・フルモトは背中の筋肉を痛めて退団し、ミシガン州立大学に学んだ後、日米開戦前に帰国したからだ。あとがきに書かれている、著者と伝説の名プレーヤーたちとの会話が胸を揺さぶる。
 「日本では、我々朝日軍のことは知っているんだろうね?」
「日本に帰ったら必ずチャンスを作ります。そうしてあなた方朝日軍の存在と活躍を日本、いや世界に広めます」。

 


『武士道の逆襲』
著者菅野 覚明    出版社:講談社現代新書
    

山本 俊一郎  

  少々ふざけた題名にみえるが、武士道を武士の発祥まで遡って考えた本である。

 2005年末、藤原正彦の「国家の品格」が出版されて以来、武士道という言葉が一種の流行になっている感がある。彼は主に新渡戸稲造の”Bushido”の日本語訳「武士道」を下敷きに、わが国の理想的な倫理思想だと主張している。現在、多くの人が武士道という言葉で連想するイメージの殆どはこの本に因るだろう。

 だが、武士の歴史を遡ると、明治以後に一般化した「武士道」とは相当違っている。菅野は、新渡戸武士道は、武士の思想とは何の関係もないと主張している。

 彼によれば、武士道の第一義は戦闘者の思想である。武士道もある種の道徳はもっているが、命のやりとりという極限状況を生活の場としている武士の道徳は、明治武士道の説く「高貴な」忠君愛国思想とは極めて異質なもので、一般人の道徳とは全く異質のものだという。その本来の形は、「武者(いくさ)は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候事。」(朝倉宗滴話記)というもので、勝つことがすべてであり、武士の実力とは、自己の持つものすべてを力に換算し、腕力、武芸は勿論、知識、才覚、身体能力、財産、家族、肩書き、容貌、性格、気質から、はては運勢まで、自分に属する全てのもので他を制する力として使い、その合計がその人の実力であった。

 明治に入り武士の時代が終って、軍事は帝国陸海軍の軍人の時代となった。初期の帝国軍隊は、統制確保が最大の課題となった。理由は、武士の時代には国家の軍隊という概念がなく、人々がイメージできる全国規模の軍隊とは、徳川、毛利、島津といった各藩の私的武装集団の連合体であった。兵士達は、軍隊とは何かについて殆ど理解がなかった。初期の軍指導者達は、外形的な軍事技術は整っていったが、軍の「統制」とそれを支える「精神的原理(軍人精神)」をどこに求めるかに悩んだ。結局、旧幕藩体制における殿様に対する忠義と大和心と合体させ、天皇に対する忠義に擬制したという。

 軍人精神の拠り所となった天皇は、一個の人格であるという点で主従関係を構成する主君=殿様と類似している。

 これで天皇をかつての殿様のような「忠」の対象としつつ、「大元帥」という軍人達を超越した殿様とは異質の存在として彼等に受入れさせるべく武士道を構成したというのが、著者の主張である。

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『マニュアル人間』
川井 利久

  先日ホーム・コースでゴルフをしたときのキャデイさんでなかなかてきぱきとしていてコースの解説やプレーの進行など立て板に水なのだが、肝心の芝目が読めない。新人かと聞くと何年もやっていると言う。

 デパートで売れ筋の靴のことはよく説明できるのに、少し売れない靴については全くわからない。

 病院の医者も専門外の医療には常識的なことも分からない。電気店の店員にヒーターの修理を頼むと新品を買った方がお得ですよと逃げる。裁判所の裁判官は法律にはくわしいらしいが、人間学が乏しく血の通った判決を導き得ない。

 近頃、人間の幅が狭くなってきたような気がする。
 子供の頃から自然から隔絶され、交通や不審者のために外でも遊べず、受験競争で友達もできにくい。

 おもちゃはファミコン、読書は漫画、テレビは低俗番組。核家族で食事の大半は一人で食べる。

 これでは栄養が足りて、勉強もそこそこ出来て、外見は立派な人間らしいが、中身が空虚なハリボテ人間である。

 子供は太陽と清らかな空気と水のなかで自然に親しみ、友達と暗くなるまで遊び惚け、本を読んで世界や人間を知り家族と食卓を囲んで、絆を感じて成長していく生活の実現がそんなにむずかしいことだろうか?

 社会を安全で住みやすく、人生が楽しいと誰もが実感出来る世の中に変えて行くには国民の意識の高さと政治の指導力が 必要である。

 東京一極集中を排除して地方の中核都市を育てて人口を分散させて、若者の三分の一といわれる契約社員制度を改正して、まじめに働けば飯が食えて、家庭が持てて、2人ぐらいの子供が育てられる世の中にする。

 便利なもの、軽薄なものの誘惑を排除して、考える人間、視野の広い人間、他人の痛みが分かる人間を創る教育を国民的規模で目指していくことこそ焦眉の急ではなかろうか。

 少子化、自殺者3万人対策、不審者対策、学力低下対策、いじめ対策、これらはこれらだけでは解決出来ない。

 長期政治課題として早く対策を実行すべき時期は過ぎようとしている。二世ばかりのマニュアル議員ではこの日本の危機を乗り切れるだろうか。高齢者対策より若者対策を優先すべきである。消費税は5%のままでは大きな手は打てまい。

 よい日本を子や孫に残してあげたい。日本丸が沈没を免れる時間的余裕はあと短くなってきている。






 山本一力氏の小説”峠超え”に、『小人は縁(えにし)に気づかず、 中人は縁を生かせず、大人は、袖すり合う縁でも縁とする、』という言葉がでてきます。この小説は、この言葉と『情けは人のためならず』という精神がテーマのような小説です。
 無差別の事件等が多い殺伐とした昨今だけに強く印象に残り、評論の宝箱を軸とする縁も大切にと考えています。
 今号も有意義な書評、私の一言有難う御座いました。(HO)








 
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