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■2008年1月15日号 <vol.98>
書評 ─────────────


・書評 後藤田 紘二  『新祖国論』
・書評 福島 和雄   『光と影』

・【私の一言】濱田 克郎、雅子 『フィラデルフィア便り』


2008年1月15日 VOL.98


『新祖国論』
著者辻井 喬    出版社:集英社
    

後藤田 紘二  


 近頃の世の中がひどく悪くなっているように感ずるのは、私一人ではないと思う。建築、食品分野での偽装事件や公務員汚職、談合、拝金思想の蔓延など、社会的規範の欠落現象が、あちらこちらで露呈している。
 本書では、このように世の中の流れが悪い方向に向かっている原因が、いったい何によるものかについて、深く議論している。
 80歳を迎えた賢人(著者)の今なお鋭い感性と知性によって実にのびのびとした発想で、自由に現代世相への痛烈な批判をおこなった随筆である。これまで、著者から受けていたさまざまなイメージに反し、この書では余程遠慮の少ない表現をもってストレートに著者自身の考えをあらわしている点、こぎみよい。セゾングループを率いて社会を眺め、世の中の裏も表もわかった現代常識人による、今日のわが国政治に対する批判書でもある。
 取り上げているテーマが多岐にわたるので、ここでは内容の紹介をいたし難いが、主だったテーマに、安易な憲法改正議論の台頭やら、むなしい教育基本法の改正のあり方に、もう一度心を寄せて、真の主権在民、平和思想を武器にした正しい日本の将来のあり方はどうあるべきかを考えようとするものなどがある。
 マスコミなどによる大衆迎合型意見や金権主義、グローバリズムの考えがはびこる中で、真の“良識”とはなにかを悟らせてくれる清涼感のある書物に、ひさびさに出会えたように思う。

 
『光と影』
著者:渡辺淳一
     出版社:文芸春秋社
 
福島 和雄 


 この作品は昭和45年の直木賞受賞作品であり、明治・大正時代に活躍した総理大臣寺内正毅と小武敬介のライバル物語である。この2人は明治3年陸軍の下級幹部養成所の同期生であり、寺内は普通の成績だったが、小武は図抜けた秀才であった。2人は明治10年の西南戦争当時、近衛歩兵の中隊長であった。2人とも薩摩軍の攻撃で負傷して、陸軍病院に入院した。当時の外科部長であった佐藤進(後の順天堂病院長)の手術を受けた。手術は小武、寺内の順で行われた。この順番が後に2人の人生を明暗に分けた。
 小武は手術の執刀で右腕を切り落とされた。次の寺内は、佐藤医師があまりにも切断手術の連続でうんざりして、少し考え直し実験的に砕かれた骨片を腕から摘出する手術をした。退院は小武のほうが早かった。退院後小武は予備役に編入され、将校たちの社交場である九段の偕行社に入社した。退院は遅れたが右腕が残った寺内は、順調に出世し明治27年日清戦争の時、少将になった。小武は妻が肺炎で死に、翌年長男が死ぬという不幸な道を歩む。明治34年偕行社の事務長になった。寺内は桂内閣の陸軍大臣となり、2人の差は大きくなった。偕行社の社長は陸軍大臣が兼務しているので、小武は事務報告に行くことになった。
 明治35年4月15日久しぶりに小武と寺内は会った。身分は大分差がついている。小武は寺内に対し「閣下」と呼びかけた。寺内は「おいおい、そんな堅苦しいことを言うなよ」と言った。小武には寺内が大きく見えた。地位が人間を大きくしたのだ。大正2年小武は60歳になり、偕行社を退職した。そのあと順天堂病院に行き、佐藤院長と会い手術の順番について聞いた。佐藤院長は「カルテが小武、寺内の順においてあったからだ」と言った。その時小武と寺内の人生は決まったのだ。その話を聞き小武は笑い出した。そしてそれ以来小武の行動に異常さが出始めた。そして巣鴨の廃兵院に収容された。
 大正5年寺内は元帥になり、10月大隈内閣のあと総理大臣になり、3年後亡くなった。小武はその2年後死んだ。のちに国民的な人気作家となった渡辺淳一の初期の傑作であると思う。
 ただ私はこの小説を読んで、小武が考えたように、小武と寺内の手術の順番が逆であったら、小武は総理大臣になれたか?私は疑問に思う。やはりトップのポストにつけるのは、知能ばかりでなく人徳も必要であると思う。

 
 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『アメリカ便り(16)』
濱田 克郎

 フロリダの中部の小さな町にあるそのレストランに行った時はいつもカウ
ンターに彼の姿を探すのが習慣になっていた。ああ、やっぱりいないな、ば
ったり再会するというのはそう簡単ではないなと思うようになっていた。何
せこちらはせいぜい月に一回フロリダに行き、そのレストランで食事をする
のは一回あるかないか、なのだから。
 彼の名前はボブといい、このレストランのカウンターで隣り合わせになっ
時に“お前さんは幽霊を信じるかね?”と話しかけてきた老人の男性である。
その時は昔離婚した後亡くなった奥さんの幽霊が時々出てくるという話を私
にしたのだった。機会があれば又ここで会おうと言って別れてからかれこれ
一年半が過ぎていた。
そのレストランに入り、いつものようにカウンターに腰掛けようとすると隣
の席の男性が半身をひねり私に顔を向けた。“ボブじゃないか久し振りだ
ね”というと、“君はカツだね、本当に久し振りだね、会えて嬉しいよ”とボ ブ。話したのは一年半前の一回きりなのに私の名前を覚えてくれていたのに はびっくりすると同時に嬉しかった。ボブは自分の前のカウンターにビール のジョッキを二杯おいて飲んでいる。夕方のこの時間は割引の時間帯であり、 一杯の値段で二杯飲めるのだ。ひととおり久闊を叙した後、“ところで最近は 彼女と会えるかね”と聞くと、“一体何のことだ”という。“以前あなたと話 をした時に確か昔の奥さんと時々会うことがあるようなことを聞いたような 気がするが”とやんわり言っても“一体何のことだか分からないね”と、し らばっくれている。そうか、あまりあのことには触れられたくないのだろう なと思い直し、話題を変えた。
ペンシルバニアの我が家のあたりでは朝の冷え込みが厳しく、今年の秋は一
際見事な紅葉が見られたことや、もう雪が積ったこと等を話すと、ニューヨ
ーク州北部ナイアガラの滝付近の出身のボブは、もう寒いところはまっぴら
だね、俺はこの暖かいフロリダが良いねとのこと。もうすぐ69才になるこ
と、シカゴのずっと北に住んでいる息子が最近訪ねてきて一週間ほど滞在し
ていったこと、自分は日によって異なるレストランで飲んでいるが、料理は
好きで自宅(トレーラーハウス)に帰ってから食事をすることなどを話して
くれた。
暫くすると、ボブは私の二人右隣の白髪の老人に“やあ、元気だったかい”
と話しかけた。ほんの少し会話は続いていたが、その白髪の老人は会計を済
ませ席を立つとボブの方に近寄ってきて、“あんたは俺を知っているのか。俺 はあんたが誰だか知らないのだがね”といっている。ボブは、“前に会ったこ とはあると思うのだが自分の勘違いかなあ”と言っている。私には本当はど うなのか分からないが、少し気難しく見えるが本当はボブは人恋しいのかも 知れないなという気がしてきた。
さあ、そろそろ家に帰って夕食にしようといってボブが立ち上がった。別れ
の挨拶をした後、“今から家に帰って彼女に会うことにしよう”と小さな声で 私にささやき、にっこり微笑んでウィンクをしてみせた。それでお互いに意 味が通じた。その夜は何だか気持ちが少し暖かくなった気がした。


 年初来、株式市場・為替市場など各市場は荒れてのスタートでした。米国の大統領の予備選挙も微妙な動きのようです。
ところで、十二支をあらわす市場格言に、辰巳(たつみ)天井、午(うま)しり下がり、未(ひつじ)辛抱、申酉(さるとり)騒ぐ、戌(いぬ)笑い、亥(い)固まる、子(ねずみ)繁栄、丑(うし)つまずき、寅(とら)千里を走り、卯(うさぎ)はねる、と言うのがあります。
新聞の記事によると、日経平均の年間パフォーマンスを十二支別に平均するとねずみ年は上昇率第一位だそうです。今年は、混乱の中でも徐々に好転し結果としては繁栄するということでしょうか。そのように期待したいものです。
新年早々のご寄稿有難う御座いました。(HO)








 
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