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■2008年9月1日号 <vol.113>
書評 ─────────────

・書評   堤 貞夫  『生物と無生物のあいだ』
            福岡 伸一著 講談社現代新書
・書評   渡辺 仁  『忘れ文 ぐずろ兵衛うにゃ桜  忘れ文』
            坂岡 真著 幻冬舎文庫

・【私の一言】新田恭隆 『偉大な思想を待つ』

 


2008年9月1日 VOL.113


『生物と無生物のあいだ』
著者福岡 伸一    出版社:講談社現代新書
    

堤 貞夫  

 福岡伸一先生は分子生物学の専攻で、京都大学からハーバート大學でポスドクをされていたが、京都大学助教授を経て、現在青山学院大学の教授であられる、という型どおりの紹介をするまでもなく、このところあちこちで活躍されている有名な先生である。

 その理由はこの本を読まれるとすぐ納得できるが、最近新書版の真面目な本がよく売れているそうで、この本も最近1年間のベスト4にランクされているようなのである。

 私もある先輩から教えられて、早速、書店で求めたが、文章が実に美しく分かりやすく、科学的で難しいプロセスを、具体的なたとえを使って理解しやすく説明する術に長けておられ、私のような人文的関心から人とは、人の成り立ちとは、を知りたいものにとっては、まことに知的興味を満足させる面白い本でありました。 本の内容は、生命とは何か、についてで、最初に世界に衝撃を与えたのは、1953年科学専門誌「ネイチャー」に発表された、DNAは互いに逆方向に結びついた2つのリボンからなっている、というケンブリッジ大學のワトソンとクリックの論文から始まる。

 福岡先生は、1988年、ニューヨークにあるロックフェラー大學で、ポスドクといわれる大学研究室の傭兵生活をスタートされた。当時、DNAが持つ生命の遺伝子情報の複製のシステムは充分に解明され、DNAの上に記される遺伝情報の意味を調べるための機器開発に向かっていた。分子生物学の発展であり、遺伝子操作により、生命に個々の機能を分子レベルで解析すること、そして生命を部品の集合物として組みたてる試みである。

 この本では、福岡先生のその後の研究生活と並行しながら、この生命のメカニズムのかかわった研究者のさまざまなドラマが語られる。栄光にいたるドラマの背後に存在した、もしかするとアンフェアな情報の漏洩にかかわる推理小説の進行の一部のようなドラマ、研究者の実験を支援する地味な技術者に徹して、かけがえのないパートナーでいる一方で、それ以外の時間はヴィレッジの音楽に没入しているラボ・テクニシャン、など、研究者の生き方、それぞれの運命について、さまざまな感慨が起こり、残る。

 また、私がこの本で最も驚きとともに、なるほどそうであったかと納得したのは、「生命の動的平衡」ということである。すべての細胞の中のDNAは、別々の遺伝子の組み合わせでそれぞれの役割を果たしているのだから、不変のものと考えられるが、実は、原子、分子レベルでは絶え間なく交換が行われている。生命を構成する成分として増殖より高い頻度で分解と修復が行われる。「秩序は守られるために、絶え間なく壊されなくてはならない。」「生命とは、動的平衡にある流れである」。「生物の内部には、不可逆的な時間の流れがある。」「結局、生命は機械的に、操作的に扱うことは出来ない。」

 これが、生きているということなんですね。分子生物学とは大変な学問であることが分かりました。

 


『ぐずろ兵衛うにゃ桜  忘れ文』
著者:坂岡 真    出版社:
幻冬舎文庫   

渡辺 仁  

十手はただの飾り物、やる気のやの字も感じられない。もちろん手柄などあげた験しなし。主人公である岡っ引の三代目、六兵衛。巷の風評は・・・。
・鳩ぽっぽの親分さん〜節分でもないのに、いつも豆を食いながら歩いている。

・ゆるいまわしを付けた相撲取りのような男。
・ぐずだ、のろまだと言われても、平気な顔でのんべんだらりんと暮らしている。
・洟垂れの講釈を真に受けるなんて、おっちゃん、噂にたがわぬ、なけもの(間抜け)だね。/近所の子供評。
・春の野っ原で欠伸をしているようなやつを見かけると、ほっとするぜ。それがな、おめえなのさ。おめえは、牛みたいな平和な面をさらしているだけで、充分他人様の役に立っている。/上司のおっとりした同心評。
・面と向かうと討ち気が殺がれる。摩訶不思議な男よ。/立合った侍評。

 鈍いだけなのか、それとも、生まれつき性根が据わっているのか?どっちにしろ六兵衛は修羅場に立たされても動じぬ男のようだ。
銭形平次のような切れ味の鋭い親分や、性質の悪い親分方とは全く違うほんわかキャラでのらりくらりと事件の真相に迫っていく。
 背後に大きなヤマ(事件)を臭わせながら、それに対する突込みが、多少足らない気がしないでもないが(それも良い)・・・。
 読んでいて思わず、蕪村の「春の海、ひねもすのたりのたりかな・・・」などという句を思い出したりしてしまいました。ほのぼのとした異色の捕物帳でした。

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『偉大な思想を待つ』
新田 恭隆

 私の菩提寺とお墓は、私が生れたある県庁所在地の地方都市からおよそ30キロ離れた農村地帯の真中にある。

 終戦直後の米の買出しを兼ねた墓参から数えると何十回訪れたことであろうか。高校卒業後東京に出てからはなかなか簡単に行く事が出来ず、ようやく年に1回行けるようになったのはここ十数年のことである。

 私の育った地方都市からの交通手段は、昔から国鉄が唯一の方法であった。それが終戦の混乱が少し治まった昭和24,5年頃から地方都市間を結ぶ長距離バスが運行されるようになり、大分便利になった。バスは近くの街角から乗れるし、寺の近くにバス停が設けられたので汽車に乗ると向うの駅に着いてから20分以上かかる夏の日盛り道を歩かなくてもよかったからだ。

 それから何十年経って気が付いたのは長距離バス路線がなくなっていることである。それどころか、一応「本線」の名を残しているJRの運行ダイヤさえも、1時間に一本の気動車が一両ことことと走っている有様である。
そのあたりは昔から有数の米作地帯で、私の中高生時代でも暑い夏の盛りに寺の本堂のひんやりとした空気の中からは向うの山裾まで一面に青畳を敷いたような田んぼを眺め渡すことができた。

 今ではそこには大企業子会社の工場や倉庫が立ち並び、その間には大都市と変らない新しい小住宅が見られる。わが国有数の過疎県といってもここら当りの人口密度はかなり高いと思われる。しかし、公共交通機関は完全にその機能を失ったように見える。最近の新聞にも、全国的な地方バス会社の破綻多発が報じられている。

 こうなった原因を考えてみると、現代社会が自動車社会という新しい文明社会に変換されてしまったという事実に突き当たる。その新しい文明が、今度は環境問題から様々な社会問題に至る極めて困難な事態に直面しているのが現状であろう。

 これは金(かね)で解決できる問題ではない。いわんや単年度の予算レベルの問題などでは絶対にない。

 ブータン国には国民総生産ならぬ国民総幸福という考え方があるらしい。物質的な満足だけで幸福にはなれない。心の安らぎが失われてはいかなる物質的繁栄も無価値になると考えるのである。これから人間の歩むべき道筋が明確に示されているように思われる。

 現代のノアならぬ偉大なる思想の出現が望まれる。






 北京オリンピックが終わり、秋の気配も感じられるようになり、ホッとしています。
 このオリンピックでは、各種競技において、日本は最後の最後に逆転されて負けるというケースがまま見られたように思います。
 これは「油断大敵」とか「攻撃は最大の防御」といった言葉を忘れた最近の日本の風潮にも原因があるのではないでしょうか。今後留意すべきと思われます。
 さて、今号の堤さんご寄稿の「生物と無生物のあいだ」は、8月1日号に掲載した片山さんのご寄稿と同一書籍の書評となりました。よく売れており、読者の多い書籍である証左で、関心のある方も多いと思い、寄稿者お二方のご了承を得て、続けて掲載させていただきました。
 今号も力作揃いの評論有難う御座いました。(HO)








 
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