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■2010年3月1日号 <vol.149>

書評 ─────────────
 
 ・書評    丸川 晃  『印象派はこうして世界を征服した』
             (フイリップ・フック著 中山ゆかり訳 白水社)

 ・映画評   川井利久  『キャピタリズム』 


 ・【私の一言】クレア恭子 『ロンドン便り 結婚する人、しない人 』


 

2010年3月1日 VOL.149


『印象派はこうして世界を征服した』
著者:フイリップ・フック   訳:中山ゆかり  出版社:白水社
丸川 晃   
  Change、changeという言葉もやや聞き飽きた感があるが、1860年代以降の印象派絵画の出現も、当時のフランス絵画界にとっては極めて大きいchangeであったといえる。

 印象派絵画の齎したchangeの内容は、それまでにフランスで長年にわたり培われてきたアカデミックな雰囲気の伝統的・古典的絵画に対するchangeを意味すると共に、絵画市場が、それまでの教会や王侯貴族層を主体としたものから、当時急速に勃興しつつあったブルジョアジー、更に一般市民層を対象とするものにchangeする契機になり、またその供給システムも、過去の受注生産から画商・画廊の誕生やオークション、展示会など多様化していったことは、周知の通りである。

 ところが前者のchangeにつては、印象派画家の伝記、作品などは、浜の真砂ほど出ている『印象派』絵画関連図書で詳細に解説されているにも拘わらず、後者のchangeについて検討した本は、今まで殆ど見当たらなかったようである。

 本書の特徴は、上記のような溝を埋め、印象派の成立からほぼ20世紀末までのフランス、アメリカ、ドイツ、英国、ロシア、更に日本に至るまで、主として印象派絵画コレクター層、即ち、印象派絵画市場の推移を巡るコントラストを巡って、豊富な資料に基づき、主に歴史的、経済的観点から、鋭い皮肉を交えながら分析しているところにある。

 周知の通り『印象派』絵画は、その発祥の地フランスでは、保守。既存勢力から『革命的』として反発・忌避されたので、南北戦争後の産業革命期にあったアメリカ絵画市場に投入したところ、新興ブルジョアジーが飛びついて、虚栄心、保有によるステイタスや投機目的で、値段が高い程よく売れたというようなバカ景気は1930年代まで継続したという。

 第一次世界大戦前のドイツでは、印象派絵画は、アメリカよりもやや知的感覚で受け入れられ、特にユダヤ系の人達に愛好されたようである。またロシアでも、革命前には、少数の資産家を対象として、市場が開拓されていた。これに対してイギリスでは、当初はその保守的嗜好やフランス人嫌いもあって拒否されていたが、1920年代以降は理解者が次々と現れて、市場は拡大して行った。

 第二次世界大戦後、特に株式市場が停滞した70年代以降は、投資ファンドなどが完全に投機対象として絵画市場に算入した結果、印象派絵画は天文学的に急騰し、なかでも日本からの『劇的とも言える』市場参画があり、入手した絵画は、応接間の壁にではなくて、銀行の金庫に保管されていたと、皮肉交じりに書かれている。

 そして世紀が変わった後の特徴としては、絵画市場競争激化によるオークション会社の利幅減、ロシア、中国、インド、中近東など印象派絵画新規市場の拡大、ピカソの絵のようなモダン・アートの方がより高価になったことなどを挙げている。しかし、それでもなお印象派絵画は、絵としての本質を備えた絵画であるため、今後とも希少価値を持ち続けるものと、著者は強調している。

映画評『映画”キャピタリズム”を観て』
  

川井 利久   


 先日、ムーア監督の”キャピタリズム”を観て時代の移り変わりを強く感じた。

 メイフラワー号から200年余りでピューリタ二ズムとフロンテアスピリットの新世界がかくも気の毒な制度不良を起こしてしまって自国民のみならず世界 中に不幸を撒き散らしてしまったとは! 20年前共産主義社会の崩壊で資本主義社会の勝利と悦に入っていたアメリカが今、金融資本主義の毒牙によって、中産階級の壊滅を起こし、富の95%を僅か1%の金持ちが独占する異常な国になってしまうとは。

 第2次大戦の勝利のあと、甘い製造業環境で徐々に戦敗国の日本やドイツに国際競争力を奪われて金融業のみの経済構造となって、雇用は縮小し、失業者が増加して、ローン社会となり今回のような事態になった。
 古代ローマや中国の歴代大国もハングリー精神をなくして欲に目がくらむと崩壊の道を辿った。永遠に栄える国など存在しない。諸行無常が世のならいである。

 日本は戦後アメリカのお陰で順調に復活をしてきたが、現在の世の風潮を考えると中国などの追い上げで製造業の国際競争力に陰りが見え、労務コストの上昇から製造業の後進国移転による産業の空洞化が進行している。金融業のみの国になれば、アメリカの2番煎じになりかねない。
 アメリカは今チェンジの時代に入り、懸命に再生の道を模索している。
日本はどうだろう。世の中が暗い。若い人は懸命に努力しているが先が見えない。

 なんとかして日本を未来に希望が持てる国にしたいものだ。
額に汗して日の糧を得る喜び、国民のすべてが食えて、楽しい家庭を持ち、平和に暮らせる社会の実現がそんなに難しい事だろうか。

 戦争や流血革命に拠らずに社会を変える事ができるのが、民主主義の良いところである。それを機能させるには個人の質の向上が必要である。
自由の精神、公平の意識、助け合いの気持ち、欲望の抑制できる忍耐心などを持った個人の集合体が民主主義の原点である。特定のイデオロギーでは長期に人間社会を安定させることはできない。民主主義をベースにして柔軟な政治手法を創造してこの救い難い人間社会を再活性化して行くことが大切である。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『ロンドン便り』結婚する人・しない人
クレア恭子

 トレーニーのM君が2年の研修を終えて帰国することになった。真面目な銀行員と思っていたら、「デキチャッタんです」と衝撃の連絡。さらに、彼女の家財道具を一緒に搬送したい、身重の彼女にはビジネスクラスを利用させたい、と要求が続く。

 日本から赴任したばかりのM君の上司は「未婚では――」と硬い返事。M君は日本の両親に懇願し 代理入籍で諸費用の会社付け替えに成功した。
考えてみると 私の周囲には非婚者が多い。長男はもちろん、中学校で教鞭を取る姪も‘パートナー’と家を共同購入しているが結婚の気配はない。隣家のドーンさん、同僚のキャシーも‘パートナー’という言葉を使っている。個人の自由だから 周囲が結婚を勧めることはしない。

 総選挙を控えた英国では、保守党が最近‘結婚制度’の維持・奨励を唱えて政府批判し、支持率を上げている。結婚こそ安定した家庭の基盤である。非婚だと子供が5歳になるまでに3割余別れるが、結婚家庭では別れる率は1割に満たない。崩壊家庭の子供の成績は悪いし、薬物、アル中に走る確率が高く、非行や社会不安に結びつく。

 これを受けて、労働党は安定した家庭が子供の成長に重要であることは認めるが、非婚・未婚を差別する制度は好ましくない。父親の産休とか、両親が協力して子育てできる社会環境を目指すと反論。 

 政府は1999年に高齢者を除き結婚補助を廃止、欧州で唯一、税制上結婚制度を無視している。又、‘公平な社会’を目標に、この12年余、単親家庭への補助を続けた結果、子持ち結婚組は非婚カップルに比べ、年に1, 336ポンド/約20万円余損、と、日刊紙のデーリーメールは報じる。保守党は、週20ポンド/ 約3000円の結婚補助を復活して結婚制度を奨励するらしい。
ただ、税制が、安定した家庭作りや離婚防止をするわけではない。結婚の基盤は経済効果でなく‘愛情’: 愛があれば、結婚・非婚にかかわらず、家庭は安定する と私は考えたい。

 

 

  アジェンダセッティングという言葉があります。これは、「具体的に解決すべき課題(アジェンダ)をあらかじめ設定(セッティング)してから議論を進め、政策決定へとつなげる」という手法です。具体的には、「議論の方向性をコントロールできるよう課題設定をすること」、「出したい結果を明確にすること」。そのうえで、その結果にいたるプロセスを組み立てるというもので合理的かつ効果的な政策推進方法といわれています。このような手法は、色々なところで活用されているようです。それだけに現代は、色々な角度からの評論が一段と重要と認識される時代になっているといえるように思います。
今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)




 
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