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■2009年7月15日号 <vol.134>

書評 ─────────────
 
・ 書評  片山恒雄   『朗読者』
       ベルンハルト シュリンク著  松永美穂訳  新潮社
・ 書評  矢野寛市   『画にもかけない』中川一政著  講談社

・【私の一言】クレア恭子 『英国式革命』




2009年7月15日 VOL.134


『朗読者』
著者ベルンハルト シュリンク 訳者:松永美穂 
出版社:新潮社

片山 恒雄    

 本書は、ドイツのフンボルト大学に籍をおく法律学教授が著わした一人称小説である。数年前に日本語に翻訳されたので、お読みになった方もおられると思う。身体の弱い少年ミヒャエルが、学校の帰り道に気分が悪くなって路上で吐瀉したとき、たまたま通りかかった女性ハンナに介抱してもらった。少年は、翌日母親に促されて、花束を持って女性のアパートを訪ねる。それがきっかけとなって、15歳の少年と36歳の路面電車の車掌との交際が始まる。帰校途中に女性の家を訪ねるのが度重なると、女性は来訪した少年の身体をまず洗い、性行為をしたあと、少年は、女性に本を読んで聞かせることが慣わしとなる。これが本書の「朗読者」の題意である。しかし、あるとき女性は、突然少年の前から姿を消す。

 数年後、法学を専攻する大学生に成長したミヒャエルは、ゼミの一環としてナチスの罪状を追及する裁判の模様を見学に行く。そこで、ナチスの親衛隊に属し強制収容所の女看守であった数人の被告人のなかに、少年時代交際していたハンナの姿を見つける。重い判決を受けて服役を続けるハンナに、ミヒャエルは、昔に戻って色々な物語を吹き込んだカセットを贈り続ける。そしてある時期から、ミヒャエルはハンナからたどたどしい文字で書かれた返事を受け取るようになる。後でわかったことだが、ハンナは読み書きの出来ない文盲であり、吹き込まれた小説を刑務所で取り寄せ、カセットテープを少しずつ回しては読み書きの練習をしていたのだった。

 ある日、突然ミヒャエルは刑務所長から手紙を受け取る。ハンナの刑期が近く満了となるが、縁のある者が他にいないので、引き取って貰えないかという依頼であった。彼は、直ちに刑務所に出向き、応諾の意向を伝えるとともに、出所に備えてハンナの住まいと仕事を用意する。しかし、そこには予想もしなかった結末が展開される。絵画的なラストシーンとともに、これ以上の記述は差し控えるが、本書のテーマは二つある。一つは、ミヒャエルとハンナの長い時間をかけて深められていく愛の物語であり、もう一つは、ドイツ人の心に今でも大きな影を落としているユダヤ人大量殺戮に対する魂の桎梏である。

 過ぐる第二次世界大戦終結40周年記念の日、当時のドイツ大統領ヴァイツゼッカーが、国会で行った記念講演の一節は、かつてナチスが犯した罪の十字架を背負い続けなければならないドイツ国民に対する覚悟を促した言葉として傾聴に値する。

 「過去に目をつぶる者は、しょせん現在に対しても盲目となる。」
 同盟国として、同じ戦争体験をした日本の政治家にこれだけ深い発言が出来る人物が見当たらないのはまことに淋しい限りである。
付記;先月封切られた「愛を読むひと」(原題The Reader)は本書の英語版を映画化したものである。



『画にもかけない』
著者中川一政  出版社:講談社

矢野 寛市    

 「何でも習わなければ出来ないと思うのは世の中の悪い習慣だ。先生は教えているつもりで生徒の目をつぶしているのです。一番よい先生とは何も云わない。皆と一緒に仕事をしている先生です。」

 「透明色不透明色、暖色寒色、変色不変色、油の使用法、カンバスの選択、それの選択が定まるまで、それだけでも相当の年月がかかります。人に教わったらすぐ出来ると思う事でも、間に合わせでない自分の仕事をしようとしたら矢張りそれだけの時間はかかるのです。」

 「堅いものが堅く見えれば自然とかけてくるのです。技術は目の後から追いかけてくるものです。」

 「大切なことは画をかく時の姿勢です。腹に力がはいっていますか。手先でかかぬこと。これが画描きと職人のちがいになります。」

☆ 私の遍歴
「計算をたて間違いなくいつも描けたらつまらないだろう。ハプニングが起こるからおもしろいのだ。それをインスピレーションという。自力が他力になる境地だ。」

「私は自分の手答をたよりに画をかいてきた。手答のないものは悪い。手答があったら他人が何といってもよいと思ってきた。それはタッチの生き死にの問題だ。タッチが呼吸をしている。それがよい画だ。形が整然としていても呼吸していなければ駄目だと思ってきた。」

「大切なことは画をかく時の姿勢です。画は芸術ではない。画の中に呼吸し、うごめいているものが芸術なのだ。画はきたなくてもよいのだ。それよりも生きているか死んでいるかが問題だ。」

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『英国式革命』
クレア恭子

 英国には成文化された憲法がない。 何事にも時間をかける‘民主主義’を生み育てたこの国で '変革‘の激震が政治面を襲い 無血大改革が実現しそうである。

 発端は 5月8日から数週間にわたって日刊紙のデイリー・テレグラフが国会議員の経費請求内容を報道、これが有権者の逆鱗に触れた。 昨秋以来英国史上初の一部銀行の国有化始め金融システム維持の為多額の税金が費やされた。日本を見習った諸政策である。ブラウン首相はいち早く欧米各国へ協調を呼びかけ“英国主導’で危機回避を図った。一時 就任以来一貫して低かった支持率が上昇したものの、政策効果は一般庶民へまだまだ 届いていない。倒産・解雇・賃金凍結が続き、不動産もポンド価も下落、多くの人々には 将来の展望がつかめない暗い毎日が続いている。

 そんな時 一部議員とはいえ自分達で決めた規則を都合良く解釈し 私腹を肥やしている実態が暴露された。税金は‘我々のお金’である。 微々たる年金にも容赦なく課税され、脱税には重い罰則付き。 庶民の怒りは測り知れない。 政治音痴の主人まで怒っている。

 300年以上続いている不文律:コンベンションに反して野党下院議員が議長辞任要求に成功:3週間足らずで与野党を問わず、大臣の一部まで多くの議員が辞任に追い込まれた。‘規則に違反していない’‘有権者の妬みにすぎない’と反論したり、‘単なる間違いだった。’とあわてて払い戻しをする議員連。国民は議員更迭の署名集めを展開、各地で抗議集会を開催して、公僕にあるまじき行為を厳しく追及した。 各報道機関は徹底した取材を続け、テレビ・ラジオでは終日庶民を交えた討論が行われる。  

 政府は内閣改造、経費の取り扱いはもとより、下院の選挙体制、上院も投票式にする、憲法の成文化等変革を約束した。いつ実現するのか‘総選挙’という大鉈を光らせながら、庶民は政府と議会の動きを見つめている。

 

 

 ご多忙の中 、多岐に亘る書評・一言のご寄稿をいただき大変有難うございました。
 矢野さんの書評の中の中川さんの、”大切なことは画をかく時の姿勢です。”という言葉が印象的でした。

 所で、陰暦五月の五月雨の頃のどんよりと暗い昼や月の出ない闇夜を五月闇というようです。梅雨時期のじっとりと湿気を帯びた重い闇というイメージですが、現在の日本の政治社会情勢も、この五月闇の状況のように思えます。
 この打開には、改革が必要であり、今度の選挙は、我々選挙民の真摯な姿勢が問われるものになりそうです。(HO)

 

 

 




 
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