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■2009年6月1日号 <vol.131>
書評 ─────────────

・書評  浅川博道 『ロシア人しか知らない本当のロシア』
          (井本沙織著 日経プレミアシリーズ)
・書評  堤 貞夫 『あの戦争から遠く離れて』
          (城戸 久枝  情報センター出版局)
 
・【私の一言】佐々木菜穂子 『介護待機老人をゼロに』



2009年6月1日 VOL.131


『ロシア人しか知らない本当のロシア』
著者井本沙織     出版社:日経プレミアシリーズ

浅川 博道    
 著者は、モスクワ生まれ。ソ連崩壊直前の1991年に中央大学の研修生として来日し、02年に日本に帰化。現在は大和総研のビジネス開発部に籍を置くエコノミスト(経済学博士)。
 ソ連時代末期のモスクワ。スーパーマーケットにあるガラスのショーケースにはほとんど何も入っておらず、わずかしかない食料品を買うために、毎日長い行列に並んだつらい思い出。
 それから10数年を経た今、モスクワは消費社会の誕生パーティの真っ最中にあるかのようで、高級外車が街を走り、不動産ブームに沸く。07年には東京を抜いて、生活費が世界一高い都市になった。ロシア経済がここ数年7%程度のGDP成長を続けている最大の要因は、石油価格の高騰。ロシアは、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の石油大国である。
 次に関心を引くのが、平均寿命。05年の統計によれば、男性が58.98歳、女性が72.40歳(日本は男性78.53歳、女性85.49歳)。特に男性の平均寿命は西アフリカのガーナと同水準で、工業国としては例をみない短命さである。ウオッカなどの大量摂取が、寿命を縮める大きな要因と分析されている。
 さてロシアでは、多くの女性が家庭と仕事を両立させている。とりわけ企業では、女性会計士が圧倒的に多い。それ故か、ロシアで長いビジネス経験のある日本人商社マンは異口同音に「ロシアでビジネスを成功させるためには、ロシア企業の女性(会計士)と仲良くする方法しかない」。
 最後になるが本書の良さは、悪名高い官僚汚職の深刻さについても詳細に触れており、いわば影の部分にもスポットを当てていることである。


『あの戦争から遠く離れて』
著者城戸 久枝  出版社:情報センター出版局

堤 貞夫    
 私は、先の戦争の時代、父の仕事の関係から3歳から10歳まで満州で育った。

 戦争が終わったのは、小学校4年、9歳のときで、私達が住んでいた奉天(現在、瀋陽)の郊外までソ連軍の戦車が迫っていた。あと1日でも終戦が遅れていれば、どのような混乱になったか、良くぞ、停めていただいたものと昭和天皇には、常々感謝している。

 それでも、それからソ連軍が日本人住宅街に侵入し、我が家も9回も略奪に会ったし、その後八路軍(中国共産軍)、国民党軍(蒋介石)が支配した中で約1年を過ごし、無蓋貨車と貨物船の船倉に乗って1ヶ月以上かかって昭和21年10月に引揚げるまで、どうして家族5人が無事に生活できたのか、今考えてみても、大変な経験をしたものである。

 城戸久枝さんの「あの戦争から遠く離れて」は、私のこのような感慨を遙かに超えて、戦争、日本人、中国人、家族、友人、など、われわれ日本人が持っている基本的な問題について、よくも、これだけの内容のあるレポートが出来たものであると感服する。

 中国残留孤児だった父といっても、1976年、父の帰国後に愛媛県で生まれた城戸さんには、戦争も文化革命も遙か遠い離れた世界であった。大學で第2外国語に中国語を専攻し、アジアの言語文化研究コースを選んだ娘に、父親は大連の友人宅への夏休みのホームステイを提案する。「中国に行けば、きっと考え方が変わるぞ」。

 それから、吉林大學に国費留学生として生活し、父の中国の「家族・友人」と出会い、文化大革命の残した傷あと、中国人の持つ反日感情の深さ、日本における残留孤児2世の生活支援問題など、城戸さんの経験の広がりが、この本の内容を根源的なものとしている。

 この30数歳の若い女性が10年の歳月の間、自分で経験し、自分の父親、祖父の残した痕跡を、このような素晴らしい感性のもとに調べ上げた事実に感動せずにはおれない。

 この書籍は大宅荘一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞を受賞し、テレビでもドラマ化されるようであるが、やはり「本」として、あの戦争について、わが民族について、隣の大国について、家族や友人とはどういうものなのか、について、考えをめぐらせながら読んでほしい。特に、軽薄な「受け」「乗り」だけを狙いとした生き方がもてはやされる、あの戦争を知らない若い世代の人たちに、是非読んでもらいたいものである。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『介護待機老人をゼロに』
佐々木菜穂子

 群馬県渋川市で起きた老人施設の死亡事故を福祉立国を目指す契機に
して欲しい。「おくり人」の映画でその優しさに誇りを感じた矢先の事
故。現代版姥捨て山のような現実を放置できない。そこで、待機児童ゼ
ロを目指して文京区が取り組んだ公設民営の保育園の例など財政の厳し
い自治体でも取り組める方法を考えたい。

 勤務していた小学校の図書室部分に保育園建て替え期間の対策として
保育園が臨時に設置された。リフォームにより快適な子育て空間に変わ
り、校庭の利用時間を分けるなどして共生する心が児童や職員に育って
いった。その後、再度の手直しを経て民間運営による保育園がオープン
した。

 教育と福祉は行政上の垣根も多いが、関係者の努力が実った事例と感
じる。少子化問題と高齢化問題は切り離せない面が多い。空き教室や退
職教員等、活用可能な資産とスキルを持つ教育と福祉は手を結ぶ必要に
迫られている。施設空間の共有という問題解決のために住民が知恵を出
し合うことで「譲り合う心」や「分かち合う喜び」につなげることが、
地域の教育力という心の財産となるだろう。

 心の壁を取り払うのは少しの勇気だ。保育園のお遊戯会に楽器を貸し
てあげたご縁で、私は退職後も園の方々と声をかわしている。一区民と
して私も子ども達の成長に関わっているという絆を感じる。

 従来は行政が担っていた分野をNPOや民間団体が受け持ち、利用者の
ニーズに対応していく社会的起業が注目されて久しい。私も5年前1円
株式の制度を活用して福祉や教育現場への音楽療法技術の提供を目的と
する株式会社音あそび教室を始めた。現在は保育、学校、介護など様々
な職種の方々と交流している。

 中でも熱心なのは介護施設のスタッフである。「私の勤める施設は恵
まれている方なのです。それでもスタッフは韓国や中国出身の方々の比
率が増え、言葉や文化の違いから不安を募らせる高齢者も多い。専門家
によるリハビリプログラムは不可欠なのですが、スタッフ研修費も計上
できません。先生の活動をお手伝いをしたいのですが、私は何をしたら
良いのですか?」このような現場の声に私も励まされている。情熱のあ
る現場の声が制度に反映されることを願うばかりです。研修は福祉を高
度な日本の技術産業に発展できると確信している。

 

 

 日経紙によると、2008年の書籍(雑誌を除く)の発行部数は13億1756万冊で前年度比増加傾向にあり、また、全国の公共図書館の貸出数は前年度比2.4%増の6億5656万冊だそうです。さらに、中古本の売上げも順調とか。
いずれにしろ、最近は書籍の活用者が増えているようであり、この観点から書評の重要度も高まってきているのではないでしょうか。

 ご多忙の中 、大変有意義な書評、一言のご寄稿有難う御座いました。
(HO)





 
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