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■2012年3月15日号 <vol.198>

書評 ─────────────


・書評    福島和雄  『貧困大国アメリカ』
             (堤未果著 岩波新書)
        
・書評    片山恒雄  『センス・オブ・ワンダーを探して』
             (福岡伸一・阿川佐和子共著 大和書房)  
 
・【私の一言】クレア恭子 『ロンドン便り プロテスト』



2012年3月15日 VOL.198


『ルポ 貧困大国アメリカ』
 (堤未果著 岩波新書)  

福島和雄    

ヨーロッパで始まった大都会での若者のデモがアメリカでも起きている。
著者は数年前にこの動きを予想していた。
著者は民営化による国内難民と自由化による経済難民を論じている。アメ リカでは世界一高い医療費で破産する中間層、そして競争による効率主義 に追いつめられた医師,破綻していくアメリカの公的医療支援、その結果 株式会社化する病院になっている。そして崩壊する社会保障が高齢者と若 い人を苦しめている。民営化によってすべてが良くなるのは幻想である。
この著書は1、2編から成り立っている。
1の内容は
第1章 貧困が生み出す肥満国民
第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
第4章 出口をふさがれる若者たち
第5章 世界中のワーキングプアーが支える「民営化された戦争」
2の内容は
第1章 公教育が借金地獄に変わる
第2章 崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う
第3章 医療改革VS医産複合体
第4章 刑務所という名の巨大労働市場
から成り立っている。
「教育」「いのち」「暮らし」という、国民に責任を負うべき政府の主要業務 が「民営化」され、市場の論理でふり廻されるようになった時、果たしてそれ が「国家」と呼べるのか?単にアメリカという国の格差・貧困問題を超えた、日 本にとって他人事ではないこの流れが、いま海の向こうから警鐘を鳴らしている。
著者は東京で生まれ、ニューヨーク市立大学大学院卒業後、国連婦人開発基金、米 国野村証券等に勤務中、9・11同時多発テロに遭遇、以後ジャ−ナリスト として発言、講演活動を続けている。
 主な著書として「グランド・ゼロがくれた希望」「正社員が没落する」
「アメリカは変わられるか」などがある。

『センス・オブ・ワンダーを探して』
(福岡伸一・阿川佐和子共著 大和書房) 

片山 恒雄   


「生命のささやきに耳を澄ます」という副題がついている。
時代の最先端を行く生化学者と才気溢れる女流作家の対談は興味溢れる内 容に満ちている。「子供時代が大人になったあなたを支えてくれる」とは 「ノンちゃん雲に乗る」の著者石井桃子氏の言葉であるが、少年少女期を 如何に過ごすかでその人の生きざまが決まってくるという。

福岡氏によれば、少年は機関車・模型飛行機などのメカ系に興味を持つ子 供と、昆虫採集・魚釣りなど生物系に興味を持つ子供に分かれるという。
因みに私は金のかからない生物系それも昆虫系であった。

題名のセンス・オブ・ワンダーは「神秘さや不思議さに目を見張る感性」 と訳される。福岡少年は台風で倒れた巨木の梢で目にした神秘的なまで に美しい翡翠色の昆虫を未発見の新種と信じ、気持ちを昂ぶらせながら 上野の科学博物館に持ち込んだ。その結果ありふれたカメムシの変態の 一過程であると丁寧に説明してくれた昆虫学の泰斗にあこがれ、それが 現在の仕事に結びついたという。氏は機械論的な現代の医学に批判的で ある。人体の脳や肺・消化管などの臓器を機械の部品とみなしてそれぞ れの分野で独自の研究が行われている。

しかし、生命体を「動的平衡(Dynamic Equilibrium)」つまり「めまぐ るしく変動しながらも平衡を維持し続ける統一的な秩序体系」とみる氏 にとって生命体は独立した臓器などの機関の集合体ではない。マウスの なかのあるたんぱく質の遺伝子を切り取って両端を貼り付け、正常なマ ウスと比較してもなんら機能的な変化は見られない。あたかもジグソー パズルの1ピースを外してもそれを取り囲むピースが失われた部分を補 うようにその役割を果たしてくれる。
人間の体はあたかも社長がいなくて平社員だけなのに会社が円滑に運営 されている仕組みに似ているという。

60兆個の細胞はどれも体全体のことは知らない。わかっているのはせ いぜい前後左右の細胞のことだけである。福岡氏は、こうして絶え間な く細胞が入れ替わり生々流転して行きながらも全体として一定のバラン スを保ち続けている生命体、そしてそこに宿る精神や心の問題の解明に 遥かなまなざしを向けている。
 
次に女流作家で評論家の阿川氏に触れる。いうまでもなく阿川弘之氏の 娘である。
毎週月曜日に放映されるおなじみの番組「テレビタックル」で出席する 政治家たちに向けて厳しい批判の矢を放ち、我々視聴者の溜飲を下げて くれる。打てば響く座談の名手でもあり、福岡氏をして「終始彼女に主 導権を握られ、ペースに乗せられた」と言わしめている。彼女は石井桃 子が開設した児童図書館「かつら文庫」に入り浸って、幼児期に読むべ き児童文学に耽溺して知性と情操を磨いた。座談の名手は雄弁家ではな く、相手からうまく話を引き出す人である。

彼女が乗ったタクシーの運転手から聞いた話は傾聴に値いする。

「人間を駄目にしたのは3つのクラである。冷蔵庫と倉庫と金庫。
物にしろ金にしろクラができたおかげで保存が出来、人間を欲張りにし た。冷蔵庫や倉庫がなければ今日食べる量しか手に入れない。金庫も同 じである。現代人はものには限度があることを忘れてしまった」と。そ ういえば、3月11日の東北大震災のとき帰宅難民を支えたのは自らの 脚であったし、停電のとき役に立ったのはローソクであった。将来の人 間の生活を暗示しているようである。

自然に育まれてきたにもかかわらず、自然を克服したと信じた人類が再び 自然に帰依し包摂されるべきときが来たのではないだろうか。
             

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『ロンドン便り プロテスト』
クレア恭子 



私の勤務するロンドンの金融街・シテイには小さな公園があちこちにあって 昼食時は人々で賑わう。ただ 昨年後半からはメタルの柵が張り巡らされ、 芝生部分は利用できなくなってしまった。 聖ポール寺院の敷地内にテント 村ができてからである。 

米国の99%運動に呼応して、世界連鎖不況と貧富の差拡大の原因は資本主義
にあり、と唱える人々゜がロンドン証券取引所前にテントをはろうとしたが
当局の猛反対で撤退。主旨に同調する当時の寺院の責任者が`数日’のつもり
で敷地を提供したのが10月15日(土)。直後は多数の警官に囲まれ、近隣の道 路は閉ざされ緊張した界隈となった。安全確保に寺院は門を閉じたが、1日 約2万ポンド(約250万円)の収入減となるのでテント村の住民と話し合った のか、上手に住み分けている。

 最近では厳戒体制は緩和され、観光客がもどってきた。
 色とりどりの1-2人用テントの間に大テントが立ち、集会場・‘大学’・簡易 食堂等になっている。
簡易トイレに大型ゴミ箱が並び、整然としている。

 ただ 漠然とした現状打破、反資本主義を唱えるだけで、 具体策はもとより、リーダーを欠く自然発生の運動だからマスコミはかなり冷淡。
12月に市当局は裁判所へ立ち退き令申請、勝訴したものの、グループは上告
したので、立ち退きまでに発展していない。英国の悠長な面である。 
一方、この動きを政府がまったく無視しているわけではなく、国会で金融機
関トップの法外なボーナス制度を非難する討論が続き、TVでは特別番組を組
んだりして、マスコミの追及も続いている。特に多額の税金投入で倒産を免
れたRBSの頭取、ヘスター氏は首相公認の100万ポンドのボーナスを辞退、前 任者、グッドウィン氏は‘Sir’の称号を剥奪された。 
鉄道会社の経営陣、製薬会社社長も株主の非難からボーナスを辞退している。 
ただ‘雇用契約’では報奨を支払うことになっているのだから、個人攻撃で辞退 させるのは変だ、‘Executive’は 報酬に見合う激しい仕事をしているのだ、と 経営者の肩を持つ意見はかなり多い。
‘プロテスト’は新しい形の‘デモクラシー’。 
違法かつ非効率だが、国民の声として、為政者は気を使っている。

 

 

 東日本大震災から1年が経過し、被災地は、表面的には落ち着いている とも言われています。しかし、一方では、多くの場所で 「街づくりがなか なかできないし、ひいては人生の設計もできない。」状況にあるとも伝え られています。
これは 国の復興基本方針の決定が、7月下旬であり、主な復興財源を含む 第3次補正予算の決定が11月下旬という対応の遅れが、関係者行動のタイミ ングを遅らせている結果だと言われています。
大災害時には、超法規的な財源の動かし方等を含めて大決断を必要とします。
しかし、現在の日本には、政治家をはじめ大決断ができるリーダーは不在で す。これを考えれば、二度と大災害が起こらないないことを神様にお祈りす るばかりの昨今です。
また、一方で一刻も早いリーダーの育成が必要と考える次第です。

今号も貴重なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)





 
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