この書物は五大 夏夫が編者となった11名の著者の西郷論である。西郷隆盛は多くの人々によって研究されあらゆる角度から論ぜられている。明治維新の最大の主役としての活動と3度の下野、2度の遠島、西南戦争の責任者と桁はずれのスケールの大きい英雄は単純には理解し難い。西郷隆盛の人間像を多面的に捉えてその理解に資するために編集されたのがこの著書である。この図書の巻末に西郷隆盛、西南戦争関係文献目録があるが著書資料は概略千冊に及ぶ。西郷人気の高さと複雑な行動への関心の高さを示すものだろ。
著者とその主題はつぎのとおりである。
井上 清 西郷隆盛の人間像。吉元正幸 西郷隆盛と島津斉彬。山田尚二 西郷隆盛と奄美。芳 即正 西郷と大久保 その大いなる誤算。村野守治 西南戦争中立派および反私学校派の動向。宮下満郎 参議兼近衛都督。毛利敏彦 西郷は征韓論者にあらず。中山広司 大西郷の思想。その他関係資料がある。
私は関係図書千冊のうち6冊を読んだだけであるが、この図書が西郷を良くとらえて全体像を伝えていると思う。ペリー来航より26年前に西郷は生まれている。1853ペリー来航、翌年日米和親条約締結、以頼諸事件があったが1859年吉田松陰刑死、1863新撰組結成、1864年蛤御門の変、1866年15代徳川慶喜将軍就任、同年薩長同盟成立、1867年将軍大政奉還、王政復古内閣成立、1868年鳥羽伏見の戦い、江戸城開城、1869年鹿児島、萩、高知、熊本藩籍奉還、五稜郭開城、1年半の戊辰戦争と事件年譜をみれば明治維新の前半は16年間の間にもの凄いスピードで事態が進んでいる。驚くばかりである。多数の志士は死んだが内戦は1年半であった。
私の読んだ他の5冊につても少しだけふれてみたい
1西郷南州遺訓、山田斉斎編 岩波書店 難解である。現代用語の解説付きをお薦めする。
2器量と人物 立元幸治 PHP新書 この書は動の時期 静の野の時期および西郷の漢詩という3つの角度から西郷隆盛を読み取ろうとしている。
3(抄)史伝 西郷隆盛 海音寺潮五郎 歴史小説名作集10 代々の島津家の殿様の人物評や事跡、鹿児島武士の生きた背景に重点がある。西郷の活躍した時期の記述はない。
4志士と官僚 明治を創業した人びと 佐々木克 講談社 天皇の東京行幸が国民意識を変えるうえで大きな影響があったこと、藩士の中から選ばれた朝臣(ちょうしん)徴士から官僚が始まり官僚の75%は氏族であったが、志士的人物は官僚から離れていく様子を描いている。明治になって志士の起こした反逆事件は16件にものぼった。
5西郷隆盛孤高の英雄全軌跡 新人物往来社 A4判カラー写真入りで雑誌ふうの編集である。なじみやすい編集であるが要点はよく捉えている。気楽に読める1冊である。
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