東京工大の本川達雄教授は、著書『ゾウの時間ネズミの時間』で、ネズミと ゾウの寿命は数十倍も違うが、ネズミもゾウも「心臓が15億回打つ」だけの
時間を生きる。生物によって時間の流れは異なり、主観的にはゾウもネズミ も、ほぼ同じ密度の一生を過ごすのではないか、と指摘された。
これは、同時に、円滑な世代交代を実現し新しい環境に適合し、種が発展す る前提になるものと思われる。この『鼓動15億回分』に、現在の日本人の平
均寿命を当てはめれば、大多数の人が「長い余生」をもち続けていることに なる。
しかし、これは自然を克服して得たものであり、必ずしも幸福な結果をもた らすとは限らない。
わが国は、既に高齢化社会に入ったが、現実の高齢層は、過去に上の世代に 仕えてきたことに拘り、今度は自分の番だと権利を手放そうとはせず、また、
この寿命は、人工臓器類や、環境の絶えざる改善が支えており、その背後に は莫大なエネルギー消費があることを十分には認識せずに暮らしているのが
一般的である。
これは、既往の社会ルールのもとでは、年寄りの長寿への欲望が必要とする 資金は、総じて社会保障によるもので、若い世代が負担することで成り立た
せている。これは世代会計からも明らかである。
さらに、人口の高齢化は、国民の意思決定権である投票権の中心軸を高齢者 に傾け、“老人の、老人による、老人のための”世の中にする可能性が強い。
このため、既往の社会ルールはさらに変更し難い状況になり、年金や社会保 障の充実に予算が振り向けられ、財政状況を一段と悪化させる。
最近の若い層の少子化等の社会現象は、これらの反映といわれている。つま り、日本社会がこのまま進めば、ますます自然に反して、円滑な世代交代は
難しく、いずれ衰退化するという悲劇を呼ぶ。
この高齢化社会は、過去のことは役に立たない未体験の事態である。したが って、この時代に生きるには次の時代を生きる若い世代が、知恵を出し新ル
ールを創り、事態を克服する必要がある。
高齢者は、これを暖かく見守るという姿勢がいる。
つまり、高齢者は、本来の自然のルールを尊重し、如何にすれば、円滑な世 代交代が実現できるかを考え、我を張らずに、若い世代の新しいルール創り
に協力することが求められている。これを自覚すべきといえる。
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