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■2009年9月1日号 <vol.137>

書評 ─────────────
 
・ 書評 岡田 桂典 『経済を動かす単純な論理』 
           桜川昌哉著    光文社
・ 書評 石川 勝敏 『丸腰国家 軍隊を放棄したコスタリカ 60年の平和戦略』
           足立力也著  扶桑社新書

・【私の一言】吉田 龍一 『高齢化社会』





2009年9月1日 VOL.137


『経済を動かす単純な論理』
著者桜川昌哉  出版社:光文社

岡田 桂典    
 著者は慶応大学の教授で、世界経済は複雑そうに見えるが、物事の本質は意外に単純で、2つのキーワード「リスク」と「バブル」を理解すれば経済の本質が明快になると主張します。

 まず、金融に伴う「リスク」です。リスクが分かるためには「大数の法則」を理解できれば良いと説きます。サイコロの目が確率どうりに出るためには多くサイコロをふる必要があります。同様に一件、一件の投資にはリスクがあっても投資件数を増やして平均を取ればリターンの計算が出来るという考えです。かくてなるべく多くの会社に貸す、投資する、対象の地域,業界も増やすというリスク分散は究極的には「証券化」に進みました。

 しかし、リスクの真の把握は相手方の正確な情報が得られないという「情報の非対象性」のために、いかに金融技術を屈指しても完全には不可能です。今回のサプライムローンの破綻も予想外の不動産価格の暴落という「バブル」が紛れ込んで来たために起こりました。それ故「バブル」の理解が必要になるのです。

 著者の「バブル」の話は大変ユニークです。驚くのはまず「貨幣」が最たるバブルだそうです。一万円札の印刷費は10円以下でしょう。一万円の価値は日銀(国家)の信用から生まれます。人々が将来もその価値があると信じることが現在の価値を決めているのです。不動産、株式等の「バブル」も実力価値以上に「将来の価値がある」と人々が期待を持つことで生じます。

 「バブル」の特徴は「金利」が「成長率」より低い場合に発生します。人々は預金金利より有利なものにおカネをまわすからです。次にショッキングなことは一国のバブルの「総量」は“決まっていて”経済成長に比例するという事です。さらにに驚くべき指摘は“バブルの総量は決まっている”ので不動産・株式等の“一つのバブルが崩壊する”と、他の物によって“バブル”は代替される“という論理です。

 07年初頭アメリカの不動産価格が崩落し始めるとおカネは原油に向かいました。現在、住宅価格はまだ底を付けていませんが、金融情勢の落ち着きと共にコモディティー価格が上昇し始めたのを見ると“バブルの代替”が生じていると頷かざるをえません。

 大変興味があるのは、日本のバブルの総和は1993年以来GDPの5−5.7倍(2500兆円強)で、安定しているという事実です。そうして、衝撃的なことは90年にピークを打った“土地、株式バブル”に代わって日本のバブルを担ったのは「国債」だったという事です。

 金融緩和政策にもかかわらず、貨幣への供給以上の需要(預金が大好き)が“貨幣バブル”をもたらした結果「デフレ」が続き、“国債バブル”による国債需要超過が「低金利」を生んだという土地バブル崩壊後の日本経済の特徴が“資産選択”という“バブル代替”によってよく説明しうるのです。

 日本のGDPは当分増えないでしょう。重要なことはGDPに比例するバブルの総量は決まっているのです。問題は政府が財政規律を失って“国債バブル”が急膨張しそうな事です。そのために土地の価格が下がれば企業・個人の資産内容を悪化させて不況を深めます。この“国債バブル”も高齢化で貯蓄率が下がれば金利が上がり“貨幣バブル”に移るかもしれないし、世界的インフレになれば“土地・株式バブル”に代わるかもしれません。政府の財政・経済運営は大波乱必至です。この本は「バブル」を切り口に、経済を“単純”に観察しつつも、明快に理解しうるユニークなものだと思います。



『丸腰国家 軍隊を放棄したコスタリカ 60年の平和戦略』
著者足立力也  出版社:扶桑社新書

石川 勝敏   

  著者は1973年福岡市生まれ。日本唯一のフリーランス、コスタリカ研究家。

コスタリカは2008年12月1日軍隊廃止から、60年を経過し、国家として軍隊廃止60周年記念式典を開催した。ここにアメリカの裏庭といわれる中南米小国国家の運営の一つの典型がみられる。

 コスタリカは面積5万平方キロ(日本の13%)、人口450万人、公用語スペイン語、スペイン人および先住民との混血95%、1502年コロンブスが発見、1921年スペインより独立、1948年コスタリカとして独立、1949年軍隊保有禁止の憲法制定、識字率95%一人当たりGDP5709ドル、GDP26,128百万ドル(2007年)の小国である。

 コスタリカ憲法は12条で恒久組織としての軍隊保有は禁止している。
 コスタカの憲法は軟性憲法で80回以上改憲されたが12条は変更されていない。1889年に初めて選挙による政権交代が行われ、以後民主的歴史の積み重ねが軍事的文化を衰退させたとされる。軍備放棄について一般国民は、国家資源を教育、福祉、医療等に配分せざるを得えず、軍隊に配分する政府の金が無かったとからだとしている。1948年大統領選挙にからみ、内乱が起こった。内乱に勝ったフイゲレスが政府軍を解体するため武器を取り上げ、自軍も武器を捨てたことが軍備放棄の大きな契機と考えられる。武器の無い事が最大の防衛力だと国民は確信している。

 軍隊を廃止して以降4回の軍事的危機に晒されたが、たくみな外交、米州機構の利用そしてなによりもアメリカの軍事力を利用して危機を切り抜けた。
コスタリカの人々は民主主義に従うなら軍備は認められないという。民主主義は話し合いによる問題解決を目指すものであり、軍備は話し合いから遠ざかる手段であるからである。

 コスタリカは経済的には途上国、社会制度は先進国、積極的非武装中立を宣告し、国際問題調停に尽力する、民主主義輸出国である。コスタリカは近隣国に投票立会いに出かけて投票の正当性を保証しコスタリカの選挙には多数の国から見学者が絶えない。

 日本の憲法9条と自衛隊をかんがえる際、日本の国際的な戦争の歴史、経済規模、人口、世界における日本のいろいろな意味での位置ずけを考察するとき、コスタリカの状況はあまり参考になるとは言えないが軍隊を放棄した国があることまた国際紛争調停に功ありとして同国のアリアス大統領がノーベル平和賞を受賞(1987)したことは記憶に残しておきたい。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『高齢化社会』
吉田 龍一

 東京工大の本川達雄教授は、著書『ゾウの時間ネズミの時間』で、ネズミと ゾウの寿命は数十倍も違うが、ネズミもゾウも「心臓が15億回打つ」だけの 時間を生きる。生物によって時間の流れは異なり、主観的にはゾウもネズミ も、ほぼ同じ密度の一生を過ごすのではないか、と指摘された。
 これは、同時に、円滑な世代交代を実現し新しい環境に適合し、種が発展す る前提になるものと思われる。この『鼓動15億回分』に、現在の日本人の平 均寿命を当てはめれば、大多数の人が「長い余生」をもち続けていることに なる。
 しかし、これは自然を克服して得たものであり、必ずしも幸福な結果をもた らすとは限らない。

 わが国は、既に高齢化社会に入ったが、現実の高齢層は、過去に上の世代に 仕えてきたことに拘り、今度は自分の番だと権利を手放そうとはせず、また、 この寿命は、人工臓器類や、環境の絶えざる改善が支えており、その背後に は莫大なエネルギー消費があることを十分には認識せずに暮らしているのが 一般的である。
 これは、既往の社会ルールのもとでは、年寄りの長寿への欲望が必要とする 資金は、総じて社会保障によるもので、若い世代が負担することで成り立た せている。これは世代会計からも明らかである。
 さらに、人口の高齢化は、国民の意思決定権である投票権の中心軸を高齢者 に傾け、“老人の、老人による、老人のための”世の中にする可能性が強い。 このため、既往の社会ルールはさらに変更し難い状況になり、年金や社会保 障の充実に予算が振り向けられ、財政状況を一段と悪化させる。
 最近の若い層の少子化等の社会現象は、これらの反映といわれている。つま り、日本社会がこのまま進めば、ますます自然に反して、円滑な世代交代は 難しく、いずれ衰退化するという悲劇を呼ぶ。

 この高齢化社会は、過去のことは役に立たない未体験の事態である。したが って、この時代に生きるには次の時代を生きる若い世代が、知恵を出し新ル ールを創り、事態を克服する必要がある。
 高齢者は、これを暖かく見守るという姿勢がいる。
 つまり、高齢者は、本来の自然のルールを尊重し、如何にすれば、円滑な世 代交代が実現できるかを考え、我を張らずに、若い世代の新しいルール創り に協力することが求められている。これを自覚すべきといえる。

 

 

 

選挙も終わりました。景気の問題、憲法9条の問題、社会福祉の問題等が争点
であったと思います。

復習を兼ね夫々の問題について参考になる書評、一言を掲載させていただきま
した。貴重なご寄稿有難う御座いました。(HO)

 

 




 
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