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■2011年7月1日号 <vol.181>

書評 ─────────────

・書 評    川井 利久  『市民科学者として生きる』
                (高木 仁三郎著 岩波新書)
               
・書 評    石川 勝敏  『日本は世界4位の海洋大国』
                (山田 吉彦著 講談社+アルフア新書)

・【私の一言】 岡田 桂典  『平成の覚悟』


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2011年7月1日 VOL.181


『市民科学者として生きる』
 (高木仁三郎著 岩波新書)  

川井 利久   



2011年3月11日の東日本地震による原子力発電所の事故と、それに対する東京電力の経営陣の姿勢には恐怖に近い怒りを感じた。
地域独占企業が事なかれ主義で、世の中や顧客不在の企業風土の上にあぐらをかいて、このような大災害への危機管理能力を持たなかった事に驚いた。
3月30日付朝日新聞の天声人語に、2000年に逝かれた高木氏の講演の引用があり、知人から借りて本書を読むことができた。 

著者は東大の物理学科で核化学を専攻され、日本原子力事業、東京大学原子核研究所、東京都立大学助教授を14年間で経験され、原子力の充分な安全管 理の見通しを欠いた国策や大企業の姿勢に危機感を感じて職を辞し、1975年 に原子力資料情報室を同志と共に設立されて25年間、逝かれるまで、在野で プルトニュウムの危険性を中心に原子力産業の危険性について論陣を張り、世界的に認められていた。 
産業革命以来、木材、石炭、更に石油、天然ガスへと、エネルギー依存はその膨大な需要増加に血迷ったように遍歴して、化石燃料の枯渇見通しから各 国とも十分な安全管理見通しを欠いたまま、原子力エネルギーに飛びついたのが実情である。
日本は明治以来の西欧追随姿勢でみんなで渡れば怖くない式で原子力発電を導入した。使用済み核燃料の処理や天災対応に充分な対策や見通しがないま ま、高度成長行進曲と共に導入し、甘い経営体質の地域独占企業である電力会社に事業が託されたのである。その結果が立地条件、設計基準、操業訓練 など全てに甘い企業風土の中で天災に襲われたのである。

しかし、本書を読んで行くに従って、それじゃあお前はどうなんだと自分自身に対する疑問が強烈に湧いてきた。大学を出て、大企業に勤めて、安穏な家庭にぬくぬくと体制順応で現状肯定にあぐらをかいて来ただけではないか。
世の中の不条理や不幸に目も向けず、企業エゴイズムに無批判に迎合して事なかれベースで定年を向かえ、こたつに入って、辛辣な批判のみに生きてい る嫌みな爺いに過ぎないではないか。

著者は原子力企業に入社して、国策として遂行される原子力利用の危うさと見通しのなさを痛感され、疑問を呈して体制と衝突して職を辞され、野に下って25年、原子力利用の危険性を世に訴えて来られた。彼の人生観のベースは少年時代に読んだ宮沢賢治のヒュ−マニズムが支えている。
著者が逝かれて10年、彼が恐れていた災害が起こった。彼が生きておられたら、何と言われるだろう。連日テレビで繰り返される無責任な評論家どもとは異なった見解が聞かれたであろうと考えると、彼の早死を悼まずにはいられない。
それにしても将来の日本のエネルギ−政策はどうすればよいのだろうか?

 

『日本は世界4位の海洋大国』
(山田 吉彦著 講談社+アルフア新書)

石川 勝敏   



著者は、学習院大卒、東海大学海洋学部教授、経済学博士。
国連海洋法条約では沿岸国の領海、排他的経済水域では資源開発を行う権利を沿岸国が持つ事を認めている。同条約では概ね沿岸の基線から200海里即ち370キロメートルまでを排他的経済水域と認めている。日本は海洋面積では世界第6位である。一方、海洋資源量はその海の海水量に比例する。海水量では日本はアメリカ、オーストラリア、キリバスに次いで第4位である。
海底には石油、天然ガス、石炭などのエネルギー資源が埋蔵されている他数多くの金属類も存在している。マンガン、ニッケル、コバルト、銅は海底資源だけで人類の利用する全ての量を賄うことが可能とさえ言われている。日 本近海の海底にはコバルト・リッチ・クラストという鉄、マンガン、コバルトなどを含む塊が確認されている。
しかも水深300メートル以下の海底にはメタンハイドレードと呼ばれる氷状のメタンが層をなして存在している。海は宝の山である。海洋開発は日本の国家プロジエクトとして大きく推進すべきものである。
海水中のウランの回収技術は日本が先端を進んでいるが、黒潮に乗って毎年日本の使用量の500年分のウランが流れてくる。回収コストは原発と石炭火力との間にまで来ている。
メタンハイドレードの採掘技術は石油掘削技術の応用が利き500メートル位の比較的浅い海域で減圧法で採取できる。3000〜4000メートルの海底油田よりリスクは小さい。
埋蔵量は日本の天然ガス使用量の94年分と見込まれている。2008年までに実験検証を終え現在は量産のための研究に入り今後10年以内に企業化させる計画が進んでいる。
メタンハイドレードの開発では日本が最先端を走っている。
海洋温度差発電でも世界の最先端を走っているが送電技術を解決しなければならない。
尖閣諸島周辺は700兆円即ちイラクと同程度の石油ガス資源があるとされている。外交問題と輸送距離が問題である。
海底熱水鉱床には銅、鉛、亜鉛、金、ガリウム、セレン、テルル、ヒ素等金属とレアメタルも含まれている。2012年中に資源量、環境影響、資源開発技術、精錬技術等の評価を行い2013年から鉱床の把握に入る計画である。沖縄沖の鉱床は海底400〜600メートルで期待も大きい。
風力発電、波力発電は技術的に遅れているし、日本にはあまり適地がない。海藻からバイオエネルギーを作る計画も進んでいる。
漁業の改革も大事なポイントである。漁師は高齢化し、収入の逓減で後継者難である。
近畿大学の完全養殖マグロは3代目である。漁方の改善や養殖漁業で、8時間労働で年収800万円の漁師を出現させることは出来ないだろうか。日本人と魚の関係は今後も長く続くものと思われる。漁師は市価の10%程度しか収入になってないという。
漁港や防波堤の他に、本格的に漁業を考える時期にきている。

この著書には海洋開発の最新情報が記載されている。興味深く読みました。ご一読をお薦めします。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『平成の覚悟』
 岡田 桂典 



平成という年号が発表された時、あるシンガポール大学の先生(中国系の方)が「なんという名を選んだのか。“平”は平和の平ではない、“たいら”を表すのだ。平成(たいらに成る)は既存の権威が崩れ、既得権やモノが失われていくことである。漢字は大切に扱わねばならない」と諭すが様に言いました。

その後まさに“平成”が意味する世になりました。バブル経済の破裂、自民党政治の崩壊、神戸淡路大地震、銀行・証券会社の破綻、平成初期の国際競争力番付世界1位が昨年は26位に落ちました。株価は4分の1、地価は3分の1、税収は65兆円が35兆円(11年度予想)、国の借金が3倍の約1000兆円へ。この間に15人の首相が登場し、この時期に政治の混沌が続くのでは日本政府の信用は国内外で完全に失墜しました。まさに失われた20年、政治も経済構造も“平ら”になったのです。

そこへ未曾有の大地震と原発事故。異常な政界の混乱に加え、原発事故の収束は日増しに困難に、放射能汚染は拡大しています。政治への国民の不安感、不信感が高まる一方ですから、これを収めるためには“平成”の意義に従い、まず脱原発が肝要だと考えます。日本の国土は地球上の0.25%しかないのに、M6以上の地震が世界の20%も起こります。この狭い、災害が多発する地域に52基の原発があるにも拘わらず「安全神話」で批判を抑え、事故対策のシミュレーションさえ作らなかった国、事故が起こる度に今後は安全だと言い続けた政府では脱原発が正義だと思います。

電力不足が指摘されますが、日本の発電能力は原子力1に対し火力が4あります。重要なのは“操業度”で、地震前原子力、火力共に操業度は約50%にすぎません。原子力を全部止めても、火力の操業度を65%にすれば済む(6.11朝日、斎藤進氏)のです。使用済みの核燃料を保管する場所もほぼ満杯でトイレがないマンションと揶揄される原発は当然に自然死するのかもしれませんが。

平成はすべてをチャラにして日本は再出発する時だと考えると、まず世界の信用を取り戻すためにも直ちに脱原発の宣言、更にIMFが15年までに消費税を15%へと勧告しているように財政危機に備えなければなりません。人々は国の責任、国の負担、国の援助・支援と気楽に言いますが、これは“国民の皆様のおカネを使います”ということです。少子高齢化が進む以上、平成の意義に沿って国(国民のおカネ)への依存、甘えと自己責任を厳しく峻別する時で,前回述べたように我々は「大いなる覚悟」が必要なのだと思います。

 

 

司馬遼太郎氏は、著書「 菜の花の沖」の中で、江戸時代の日本社会の上下を貫いている精神は意地悪というものであったと記されている。

「上のものが新入りの下のものを陰湿にいじめるという抜きがたい文化は、例えば人種的に似た民族である中国にはあまりなさそうで、意地悪・いじめる・いびるといった漢字、漢語も存在しないようである。江戸期には、武士 の社会では幕臣、藩士を問わず、同役仲間で新たに家督を継いで若い者がその役についた場合、古いものが痛烈にいじめをつくすわけで、いじめ方で伝統の型があった。この点お店の者や職人の世界から、あるいは牢屋の中にいたるまで少しも代わりがない。日本の精神文化のなかでももっとも重要なものの一つかもしれない。」

この精神文化発生のいわれはよく解りませんが、その後もこれは継承され、現代にも繋がっていると考えられます。菅総理の居座りも国民に対する意地悪なのでしょうか。
本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)





 
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