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■2007年9月15日号 <vol.90>
書評 ─────────────


・書評  新田 恭隆  『国語元年』
・書評   渡辺 仁  『捨て童子・松平忠輝(上・中・下)』

【私の一言】濱田 克郎  『アメリカ便り(14)』

 


2007年9月15日 VOL.90


 

 

『国語元年』
著者:井上ひさし    出版社:中公文庫    

新田 恭隆  


 10年ほど前になるが、津軽地方の温泉に行ったことがある。夕方弘前駅からバスに乗りそろそろ到着すると思われる頃運転手さんに降車するバス停を尋ねたのだが、運転手さんの云う言葉が何度聞き返しても全く分からない。とにかく適当なバス停で降りたら外はすっかり暗くなっていて途方にくれたことであった。私自身推理小説の謎解きに使われる程キツイ方言を使う地方の出身者であるが、知らない人が聞くとこんなことになるのかと驚いたことを思い出す。
 地方出身の私はいつも地方の問題(逆に云えば都市の問題)が通奏低音のように心の中でかすかに鳴り続いている。最近は、環境という制約条件を抱えた経済成長の限界に対するひとつの解決手段として地方を捕らえるべきではないかなどと考えるようになり、地方の問題は必ずしも「低音」とはいえなくなって来た。
 そのような時に偶々読んだのが「国語元年」である。明治初年新政府は権力を集中して欧米に急速に追い着く政策を全国に徹底する手段として、話し言葉の統一を喫緊の急務とした。この本は、時の文部大丞、南郷清之輔が話し言葉統一の壮挙に取り組み奮闘の挙句破綻をきたす物語で、テレビドラマの脚本として書かれたものである(その後戯曲に書き換えられ劇場で上演されている)。読者は、井上ひさしの巧みなドラマメークでこの少し変った話を一気に読み通して仕舞うだろう。南郷家は使用人、食客、居候など含めて13名の大所帯であるが、生国を異にするそれぞれが全国様々な方言を話す(ことしか出来ない)から日常会話でさえもなかなか話が進まない。しかも登場人物の旧身分も様々で行き違いや誤解も生まれ、はらはらさせられることも多い。しかし、それぞれは自分の与えられた仕事に対しては忠実に励む。何気ない言動の中にも明治の日本人の平凡ながら真摯な雰囲気がよく出ていて、名も無い人々のこのような生き方には感銘を受ける。
 清之輔の壮大な努力は水泡に帰し悲惨な結末を迎える。それぞれの登場人物も幸せとは云えないその後の人生を辿ったことが知らされ、維新前後の大変動期に直面した人々の懸命な姿を思うと胸が熱くなる。
明治も後年になって次第に現在の標準語(今は共通語と云うらしい)が形成された。現在でも方言を多用する地方もあるが、テレビ普及のせいか標準語を話す人が非常に多くなった。中央集権的な意志疎通には都合がいいかも知れぬが、なにか不気味なものも感じられる。多様な文化こそが人生をいきいきとして拡がりのあるものにしてくれるのではないかと、この本を読みながらあらためて考えた。

 
『捨て童子・松平忠輝(上・中・下)』            著者:隆 慶一郎    出版社:講談社 
渡辺 仁  


 先日テレビにブッシュ大統領が映っていた。なぜか「元気!!」に見えた。
61歳になり、以前より髪が白くなってきたが、元気だ。
大統領を目指し40歳で酒をやめた由。現在もホワイトハウスの地下室で夕方1時間程、軍隊式エクササイズで健康管理を行なっているそうだ。また、夜9時にはベッドに入り、朝5時には起きる規則正しい生活らしい。任期も残り少なくなってきて、支持率も最低になってはきているが…。)
それにしても、容姿・言動が元大統領の親父さんに、何とよく似ていることか…。
 さて、先日、本屋で見かけたのが本書。10年以上前に読んだものだが、著者 隆 慶一郎(りゅう けいいちろう)さんを懐かしく想い、早速、自宅の本棚から探し出して読み直してみた。やはり、おもしろい!!
 秀吉が亡くなって頭上に重石がなくなった57歳の徳川家康が、恒久平和を図りながら75歳で亡くなるまでの 人生後半を、第六子忠輝とのやりとりを通して描いている。【人生齢(よわい)50年の時代】
 主人公松平忠輝は、容貌怪異なため生まれてすぐ家康に「捨てよ」といわれたという想定。剣の師奥山休賀斎との出会い、雨宮次郎右衛門・武田忍者の裔才兵衛主従、傀儡子(くぐつ)一族との 付き合いなどにより、さわやかな若者に成長していく。また大久保長安(キリシタン・・・)の目論見、兄である将軍秀忠&柳生一族との確執・・・などなど。
(家康は僅か2年で秀忠に将軍の座を譲り大御所に、徳川の世襲にした。)
 ロマンに溢れ完成度の高い珠玉の作品である。
時代小説ファンに限らず、まだ読んでおられない方には、是非お薦めです。
筆者の隆氏は、還暦を迎えて文筆活動に入った。
 66歳で病に冒され惜しくも亡くなられたが、長編小説5編、短編小説集1編、随筆集を1編、を世に出した。
 何れの作品も、その時代への切り口、登場人物・ストーリー等さわやかで、読了後の満足感が得られます。

 
 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『アメリカ便り(14) リッチとリサ』
濱田 克郎

 その日はとても天気が良く美しい夕日が楽しめそうだったので、フロリダの海辺に望むレストランのカウンターで一人食事をとっていた。
 そろそろお終いにしようかなと思った頃、一人の初老の紳士がとなりに座り、にこやかに話しかけてきた。フロリダに来るとき同じ飛行機に乗り合わせて、しかもこの町外れのレストランで再会するとはなんという奇遇と仰るのだが、どうも小生には実感がわかない。それでもできるだけ怪訝な感情を抑え、にこやかになるほどなるほどと相槌をうちながら聞いていると、問わず語りにいろいろなことを語ってくれた。
 いつもはカリフォルニアに住んでいるが、フロリダに別荘を持っており数ヶ月に一回は訪れていること、昔は教師をしていたこともあるが不動産で大もうけをして今はリタイアし自由な生活を送っていることなど。いつも一人で来ているとのことだから奥さんはいないのかもしれない。
 暫くして暇乞いをしようとすると、まだまだ話足りないから場所を変えて会おうと言う。自分は今から別荘に帰ってシャワーを浴びるので8時にこの場所で会おうと言ってそばにあったナプキンにパブ兼レストランの地図を書いて私に渡した。ずいぶん強引な人だなと思ったものの一人では淋しいのかもと思い直しつきあう約束をした。
 約束の時間の10分ほど前にパブの場所を探しあて、カウンターで待つことにした。バーテンダーと話すうちペンシルベニアの我が家とそう遠くないところに昔住んでいたとのことで話が弾み、待つこと自体は苦痛ではなかった。そのうち私の左側の3つ4つ離れた席に一人の女性が座りカクテルを飲み始めていた。年の頃40代後半に見えるがもちろん実年齢はわからない。
遅いなあと思いながら時計に目をやるともう8時半になっている、と、やっとリッチがやってきた。彼は、私にやあというなり件の女性と私との間に座り、ずっとその女性と話し始めた。人を呼びつけた上待たせておいてすまぬの一言もないばかりか殆ど無視したような態度に会い、いったい自分は何をしにここに来たのだろうと思ったものの、まあいいかと思い直し、二人の会話に聞き耳を立てることにした。
 リッチがしきりに彼女に質問している。会話の内容はわからないが、時折ルーザー(負け犬)という言葉が聞こえる。穏やかではないことばなので、押っ取り刀で“私も会話に入っていいですか”といって参加した。聞くと、件の女性はリサといい、彼女の離婚した元夫のことをリッチがルーザーと罵っていたらしい。
 “そんなルーザーのことなどは早く忘れるべきだ。自分のような人生の勝利者といる方がずっと幸せになる。彼女に人生の忠告をしていたのだ。”との由。
 “自分の悩みや、困っていることを他人に話す時には、必ずしもアドヴァイスを求めているということではなくて、わかってもらいたい、ただ聞いてもらいたい、そのままそっと受け止めてもらいたいという時もあるのじゃないかな。”と私がいうと、彼女は隣に座るよう私に勧めた。しばらく私に質問したり会話をするうち、怪しい人間ではないと思ってくれたらしい。リサが堰を切ったように話し始めた。
 自分は看護婦をしていること、離婚した夫はとても優しい人だったがまともに働くことが長続きせず麻薬に手を出していたこと、離婚した後自殺したこと、自分がついていてあげるべきだったと悔やんでも悔やみきれないことなど、ハンカチを目に当てながら話してくれた。
 話し終わった後、“さぞつらかったでしょうね。”というと“ずっと胸につかえていたものがすっと軽くなったような気がする。話を聞いてくれてありがとう。”といって少しの笑顔を見せてくれたのが嬉しかった。
 今夜は君と話足りなかったから、明日の昼食を一緒にしようとリッチは言い、またまたレストランの場所と時間をきめた。
 次の日の昼前にリッチから連絡があり、ほかの用事があるのでいけないかもしれない、でもいけるかも知れないので現地で待っていてくれとのメッセージをオフィスの受付の女性からうけた。受付の女性から“友人なの?誘ったのに自分はいけないかもしれないのにどうしてあなたに待つようにいうのかしら。”と怪訝そうにいわれ、そのとおりと思ったものの、約束した手前、車で20分ほど運転して現場に行ってみた。
 30分程待って、リッチに連絡したら、“今日は都合が悪いから行けない。一人でやってくれ。明日は都合が付けられるがどうか。”と宣う。私は、半ばあきれながら“こういう人もいるのだなあ”と思いつつ謝辞するのでありました。


∴∴∴∴《編集後記》∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

最近、当メルマガについて、次のお便りを頂きました。『いろいろな方の幅広いご意見等を掲載して頂きまして有難うございます。自らすすんで探さない(?)ジャンルの本の書評、健康に関する話題など毎号楽しみに拝見させていただいております。ほんとうに、いい仕事をされていますね。』
皆様方のおかげです。有難うございました。(HO)








 
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