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■2008年8月1日号 <vol.111>
書評 ─────────────

・書評 片山恒雄 『生物と無生物のあいだ』 
         福岡 伸一著  講談社現代新書
・書評 桜田 薫 『日本人はなぜ無宗教なのか』 
         阿満利麿著  ちくま新書

・【私の一言】福島 和雄『公務員改革法案について』

 


2008年8月1日 VOL.111


『生物と無生物のあいだ』
著者福岡 伸一    出版社:講談社現代新書
    

片山 恒雄  

 例の『爆笑問題』のふたりが、最先端の研究に取り組んでいる学者をつぎつぎに訪問しては話を聞くNHKの番組がある。名づけて『爆問学問』という。ある時、本書の著者が、騒がしい二人の訪問を受けて、生物と無生物の間を分けるものは何かについて物静かに説いているのを聞いて、ある種の感動を覚えた。

 そもそも生命とは何か。著者は、『生命とは、動的な平衡状態にある自己複製システムである。』と定義する。ならば、限りなく増殖するウィルスは生物か無生物か、その論争はいまだに決着していない。著者は『遺伝子情報を持ってはいるが、他の生物に寄生して存在しているので、生物とは言えず、無機的な硬質の機械的オブジェ』と見る。

 全編を通して、著者のニューヨークを舞台とする研究員生活が中心に描かれている。二人の少壮学者によるあのDNAの二重らせん構造解明のドラマの裏に隠された事実は驚きに値いする。二人の先駆的生化学者の研究成果のうえにノーベル賞という果実を手に入れたこの二人は、また構造解明に当たって、ある女性の生化学者の研究から重要なヒントを盗み見る機会があったという。

 また、すべての生物は、原子・分子段階で見ると、半年ないし1年で完全に入れ替わるという。そうすると、半年振りにあった友人は、前に見たときと、物質的に完全に入れ替わった別人ということになる。私自身も半年前と入れ替わっていることになる。「お変わりありませんか。」どころではない。なんというこの若さ!これを読んで、思わず方丈記の冒頭の一節を思い出した。「ゆく河の流れは絶へずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたはかつ消え、かつ結びて、久しくとどまる例えなし。」

 膵臓を構成する細胞の中にある小胞体の中で精製された消化酵素が、細胞膜を通過して消化管に放出される仕組みは、その複雑さと精妙さにおいて神の恩寵をいただいているとしか考えられない。

 そのほか、本書には多くのエピソードが散りばめられている。お札(さつ)になって日が浅い野口英世のロックフェラー研究所における意外な評価。「パスツールやコッホの業績は、時の試練に耐えたが、野口の仕事はそうはならなかった。数々の病原体の正体を突き止めたという野口の主張のほとんどは、今では間違ったものとしてまったく顧みられていない。」ついでに言えば、同時にお札に登場した樋口一葉も「お札からは遠い人だ」と著者は言う。(紙幣発行当局は、どの程度深く登場人物を調査しているのだろうか。)
抑制の効いたそれでいて豊かな感性と快い律動感を伴った文章を味わいながら、しばし至福のときを過ごした。 

 


『日本人はなぜ無宗教なのか』
著者阿満利麿     出版社:ちくま新書
    

桜田 薫  

 米国に住んでいた頃「お前の宗教は何か」と聞かれることがよくあった。オバマ大統領民主党候補が属した教会の牧師の発言が彼の選挙戦に不利になったり、メジャーリーグ野球でも「God bless America」を歌う国のことだから宗教は日常生活と切り離せない。「信じる宗教はない」と言うと印象が悪いようだし、「仏教徒」と称しても、葬式でお寺に行く程度でその信仰も知識もあるわけではないから相手によっては底が割れてしまう。また無神論を論じるほどの学識もない。創価学会の隣人やエホバ信徒の友人は雄弁に道を説いたが、こちらは心のどこかで宗教をうさんくさい存在と感じていた。

 最近になって本書を読んで遅まきながら自分が必ずしも無宗教ではないことが分った。阿満先生によると、宗教には創唱宗教と自然宗教の二つがある。前者は仏教、キリスト教、イスラム教など人が創設した教義のある宗教で、後者は自然に発生した宗教で祖先を大切にする気持ちや氏神を祀る心があればよい。沖縄の大神島などが典型だが、各地でその土地固有の神様への深い信仰と伝統的な儀式が維持されている。自然宗教では教義もなく布教師もいないから別に理屈はいらないが、各地に存在する祖先崇拝を中心とする民間信仰やプロの神主の管轄を受けない村祭りは宗教儀式だ。死者の鎮魂を祈る墓参や村の豊作を祈る祭りなど年中行事に参加し、初詣やお盆に故郷に帰る習慣を守る日本人は本当に信心深い。それでも多くの日本人が自分を無宗教、しばしば無神論という一つの理由は、既存の創唱宗教だけを宗教と考えているからで、本書はその歴史的な背景を解説する。

 宗教という言葉は、明治の維新政府が天皇の神聖を危うくする恐れがあるキリシタンを意識して生まれた。新政府は神の子たる天皇崇拝を国家の維持発展の目的で利用するために神道を国教にする意図を持っていた。神社合祀令すなわち廃仏毀釈を発し、神官を官吏として任命した。それによって仏閣は荒廃し、全国の神社は国家が経営する2000程度を残し10万以上の神社がシステムから外された。しかし神道を国教にすればキリスト教を拡げたい欧米列強との関係を阻害するし、阿弥陀仏のみを信じる仏教側の反対を浴びる。かくて神道を再定義して、宗教ではなく祭りの儀式とする「神道非宗教論」を採用することで政教分離、信教の自由と折り合いをつけた。ところがこの似非宗教は本当の宗教より猛威を振るった。以前の日本の民家ではしばしば仏壇と神棚が同居し、神々にはこの世の安寧を願い仏には来世のことを願う棲み分けができていた。神社を国が政治的に統合することは身近の神々を否定することになり、純粋の自然宗教でもなくなった。

 仏教は当初、出家者を中心とする宗教であったが、在家の人を悟りに導く宗教になり、近世に入って伝統仏教は檀家制度に組み込まれた。しかし多数の民衆を相手にしなくてはならなくなって、民衆教化の過程で日常生活に役立つものに変貌した。世間の秩序と道徳を遵守する毎日の生活や家業が仏教の実践とされるようになり、宗教という認識は薄れがちになった。仏教は江戸時代の儒学者から世の中に役立たない穀つぶしと排斥され、明治政府からも迫害されたが葬式仏教という死者のための儀礼の役割で生き残った。自然宗教は文明開化とともにキリスト教のような創唱宗教よりもレベルが下の位置づけとなり、宗教というよりも柳田國男などによる民俗学の対象になってしまった。

 このような近代日本の歴史から日本人は宗教を商売繁盛や受験祈願など自分に都合の好い欲望追求の手段として考えるような「やせた」宗教観が生まれた。日本人が本当に無宗教なのではない。柳田國男によると、日本人の求める神々は壮麗な教会や神殿を必要とせず、暮らしに密着した神々であり、日本人の理想が「四季朝夕の尋常の幸福」にあった。だからキリスト教や浄土真宗の説くような超越的な力を持つ神や仏を必要としない。私たちの多くが既存宗教の信者でないのは、このような平凡という価値を重視する宗教観に由来するという主張で、私もその説を受け入れたいと思う。

 

 

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『公務員改革法案について』
福島 和雄

 このたび国家公務員制度改革基本法案が成立し、5年以内に新制度に移行するそうだ。キャリア制廃止、天下り一元化などが内容にあるが、その実効性が疑問視されている。現行のキャリア制度は廃止されるが、新たに「幹部候補育成過程」が設けられ、運用次第では現在以上の「エリート官僚」が誕生するという指摘がある。
 私は22歳頃、上級公務員試験に合格すると、ほぼ無条件に65歳くらい迄天下りを含めて、高い地位が保証される現在のシステムは、やはりおかしいと思う。民間会社では東大、京大卒でもプライドばかり強くて、仕事や人とうまく対応できなくて調査部付きになり、課長にもなれない人もいる。
 最近NHKで外部から天下りでなく、民間企業出身の人が会長になったら、初めて高校卒の人が役員になった。日本も少しずつ実力主義の時代になるようだ。
 国家公務員も一部の民間企業が実施しているように、入庁して40歳くらいの時、外部(民間会社の人)の人を含めて管理職試験を実施して、合格した人のみが局長や部長に昇進できるようにしたら良いと思う。国家にとって真のエリート官僚は必要である。とにかく現在のキャリア官僚制度は、改革するべきだと思う。






 今年の夏は殊の外暑く、そのせいか熱中症にかかる人が多いようです。熱中症とは、体温を調節する仕組みがうまく働かなくなるために起こる体の異常で、すべての熱中症は、汗で失われてしまった水分と塩分の不足によって起こるそうです。
 人は普通に生活しても、呼吸や排尿によって1日に2リットル以上もの水分を失っているそうですが、暑いときには、さらに、汗によって多いときには1時間に1リットルに及ぶ水分量が失われるそうです。つまり、予防には、こまめな水分と塩分の補給は欠かせないということです。
塩分摂取の目安量は、水分の0.1〜0.2%程度といわれ、手軽には、麦茶0.5〜1リットルに対し、梅干1個で摂取可能だそうです。
麦茶と梅干をこまめに摂って熱中症対策をしていただき、猛暑を元気にお過ごしください。
 今号も多彩な書評、私の一言有難う御座いました。
(HO)








 
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