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■2011年9月1日号 <vol.185>

書評 ─────────────

・書 評    前川 彬 『気骨の城山三郎』 (植村鞆音著 扶桑社)
              
・書 評   石川勝敏 『デフレの正体』  (藻谷浩介著 角川oneテーマ21)

・【私の一言】幸前成隆 『なすべきをなす』


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2011年9月1日 VOL.185


『気骨の城山三郎』
 (植村鞆音著 扶桑社)  

前川 彬   

本書は、平成19年に亡くなった城山三郎氏の評伝として書かれた本である。氏の生涯をデッサンし、その生き方を書き、巻末には年譜と参考文献が付いているので評伝としての体裁は一応整えている。

著者は、第1章にあるように、晩年の城山三郎氏と付き合いが深く、氏の人となりに心酔し生前は親父に近い存在であったという。純粋で曲がったことが大嫌い、お金にはきれいで聞き上手であった氏の身近にいて、ともにゴルフや旅行を楽しみ人生相談にまで乗ってもらったようで、人見知りの強い城山氏が心を許すほどにこの著者とはフィーリングが合ったと思わ れる。ちなみに、植村氏は、直木三十五の甥で、(株)テレビ東京常務から関連会社の社長を経験したエッセイストであり、城山氏とはテレビ番組の制作を通じて親しくなったという。

第2章は城山氏の小伝で、少年時代から出征し終戦を迎え、戦後の青春時代(一橋大学時代)、容子との結婚、文壇デビュー、人気作家になるまでを駆け足ではあるが書いており、氏の履歴書として楽しく読める。

著者が最も力を入れているのは「第3章城山三郎の生き方」である。小説家の評伝ならば、その著作の軌跡をたどりそこから作家の本質を探っていくのが普通であるが、著者は城山氏の生き方に焦点を当て、氏の家族、日常生活、趣味、読書、尊敬する人物、箴言などについて、自身の観察を中心に、家族の証言や城山氏本人の書いていることも織り交ぜながら紹介して、氏の人物像を浮き彫りにしている。確かにその側面では成功しているのであるが、私はやはり、城山氏がその時々の社会を背景としてその著作によって読者に何を伝えようとしたのかについての見解、そしてその著作に対する世の評価や反響という側面も書いてもらいたかったと思うのである。そうすれば、本書の評伝としての価値はもっと高まった筈である。

あと、「第4章容子の死」、「第5章城山三郎の死」と続くが、つまるところ、本書は、著者の尊敬してやまない城山三郎氏の追憶の書という色彩が強い。城山氏のフアンならば、新たな事実やエピソードを知ることができて面白く、楽しい読み物であることには間違いはない。

 

『デフレの正体』
(藻谷 浩介著 角川oneテーマ21)

石川 勝敏   


著者 東大法卒 (株)日本政策投資銀行地域企画部参事役
著書副題(経済は人口の波で動く)

著者は景気さえ良くなれば大丈夫という妄想が日本をダメにしたという。経済問題を語ればデフレだ、不景気だと意味曖昧な言葉で括られているが、何が原因で、何が起こっているのかという事実が分析されていない。誰も本当の問題が何なのか良く解らず不安になっている。生産性向上だとか、成長戦略だとか具体性に欠けるスローガンに惑わされてはならない。実態の数値をよく確認すべきだ。GDPという総合景況判断指数だけが一人歩きしている。
重要な個別指数は無視されている。以下著者の概説を紹介する。

バブル崩壊後に輸出は倍増している。中国の台頭や原材料の高騰があっても日本の輸出競争力は維持されており、外国の景気不景気に連動して変動しているがその水準はバブル前より高い。世界同時不況下でも過去20年以上前から日本の貿易黒字は平均10兆円の水準を維持している。08年はさすがに3カ月連続赤字の時もありましたが、09年には貿易黒字は4兆円の黒字になりその後は黒字幅が増えている。また日本は世界から莫大な金利配当を受けており所得黒字もバブル期の4倍から5倍になっています。13〜16兆円になりま
す。

国地方併せて1000兆の長期債務は殆ど国内で消化されていますから、10兆円超の利子も日本人が受け取っています。01年から08年までで経常黒字は138兆円になりました。
韓国、台湾、シンガガポールには日本は貿易黒字です。三角貿易とブランド力です。中国が発展すれば対中黒字も大きくなるでしょう。日本に対して黒字国は産油国資源国とフランス、イタリア、スイスです。
このヨーロッパ3国の資源は高級ブランド品です。食品、繊維、皮革工芸品、家具のブランド品です。アジアが伸びてきた時にフランスやイタリアに軽工業で勝てるブランド力を日本が持てるかが問われます。パリやカリフォルニア、スイスの様な高級住宅街ショッピング街が作れるか、世界中の金持ちの上品な投資が見込めるかが問われます。
日本経済の停滞は国際競争に負けた結果ではない、国際競争に勝ってもそれとは無関係ににすすむ内需の縮小こそが日本経済の直面する恐るべき事実です。

若者の車離れか話題になり車の販売台数の減少がみられます。小売販売業は08年から始まって12年間減少が続いています。この12年間に実質GDPは十数%伸びましたが国内の小売業の売上は下がり続けたのです。書籍雑誌の販売数、国内旅客輸送量,酒類販売量も減少が続いています。この原因は生産年齢人口の減少、高齢者増です。総人口減少を上回る生産年齢人口の減少、高齢者の激増が続いています。高齢者は将来の医療福祉サービスの先買いつまり貯蓄を選択し国内消費に金を回しません。前段に記載した外国から日本に入ってくる利子配当や輸出企業の配当も一部の富裕層に吸収され貯蓄や国債に変わり消費に回りません。
日本は団塊の世代で急成長し、今は団塊の世代の影響で急速な国内消費の減少に悩まされているのです。マクロ政策ではインフレ誘導もデフレ退治も実現不可能です。日本の生き残りはモノ作りとよく言われますが、内需不足には対応できない。外国人労働者の受け入れも今後5年間に1000万人を超える生産年齢者減に対応出来ないでしょう。生産性を上げても内需振興には至らないでしょう。ではどうすれば良いのか。

第一は高齢富裕者層から若い世代への所得移転の促進、
第二は女性就労の促進、
第三に訪日外国人観光客や短期定住客の増加
が望ましい事である。
団塊の世代の退職で減少する人件費を子育て層に配分し人件費総額を維持しないと内需は維持出来ない。今後25%も生産年齢人口が減少するのですから企業が本気で考えないと内需は維持出来ない。生前贈与の促進、高齢者需要の開拓が出来れば効果は早い。

現役世代の専業主婦の4割が働くだけで団塊世代の退職は補える。男女共同参画をこの面で進め女性経営者と就労の増加が望ましい。江戸時代まで日本人は武士を除き共働であった。外国人労働者増加に比べてはるかに問題は少ない筈だ。外国人観光客を増やし国内消費を増やす方法も副作用が無い。数兆円の増加は見込める筈である。ここまで高齢者の医療福祉、年金の問題は触れられていない。著者は船中ハ策と称する提案をしているが基本的な方向だけを示している。

年間200万人だった学生新卒が110万人になっている。租税収入の倍の国家予算を組む時代に成っている。ここは基本的な考え方の国民的合意が必要なときである。この本に会えて良かったと思う。是非ご一読をお薦めします。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『なすべきをなす』
 幸前成隆 



なすべきをなす。「為当為(道徳三字経)」。

人、それぞれ果すべき務めがある。
「あなたには、あなたの役目がある(池口恵観)」。
「籠に乗る人、かつぐ人、そのまた草鞋を作る人。どれも欠くことのできない大切なお役(青山俊董)」。
「花咲かせ、実をなす見れば、草も木も、なべて務めはある世なりけり」。
「人生各々なすあり(良寛)」。
各人、その務めを果さなければならない。
「その位に素して行う(中庸)」。
「職分の当然を務む(言志録)」。
務めを果さないのは、職務放棄。なすべきことをしないで、月給を受け取るのは、月給泥棒。
古人は、「一日作さざれば、一日食わず(百丈懐海)」、
「働かざるもの、食うべからず(パウロ)」と言った。
仕事をしない者は、月給を返上すべきである。
なすべきことは、避けてはならない。急いでやらなければならない。
「およそ事吾が分のやむを得ざるものにおいては、まさにこれを為して避けざるべし(言志録)」。「まさに務むべきをこれ急となす(孟子)」。
また、仕事で「あぐらをかくな(松下幸之助)」。
地位や立場にあぐらをかいて、なすべきことをなさないと、周囲に迷惑をかける。
「指導者の要諦とは、「なすべきをなす」ということにつきる(松下幸之助)」。
「為すべきを為すべき時に為せば、則ち従(揚雄)」。
なすべきことを、なすべき時に、きちんとしよう。

 

 

「くれない指数」という言葉があるそうです。
曽野綾子さんの 『老いの才覚』に 出てくる、老化度を図る指数ということで、「主張しないことは損だ」 という意識から、「○×してくれ」「やってくれ」が強くなる度合いを示すそうです。最近の様子をみると、この風潮は老人だけでなく、世の老若男女に波及しているような気がします。みんなが、他人に依存
して自分の才覚で生活しない、つまり成すべきをなさない時代になりつつあるということでしょうか。
自らも反省しきりです。

本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)





 
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