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■2011年2月15日号 <vol.172>

書評 ─────────────

・書 評    丸川 晃 『ミミズの話 - 人類にとって重要な生きものー』
              (A.ステュワート著 今西 靖子訳  飛鳥新社)
               
              『土の文明史』
              (D.モントゴメリー著 片岡 夏実訳 築地書館)
・書 評    石川 勝敏 『日本の大問題が面白いほど解ける本 …
                      シンプルロジカルに考える』
             (高橋 洋一著 光文社新書)

・【私の一言】 吉田 龍一 『草食男子』


 



2011年2月15日 VOL.172


  『ミミズの話 ---人類にとって重要な生きもの---』
   (A.ステュワート著  今西 靖子訳  飛鳥新社)
 
          『土の文明史』
   (D.モントゴメリー著 片岡 夏実訳  築地書館) 

丸川 晃   



たまたま見付けた『ミミズの話』という本の題名が関心を引いて読んでみたところ、土壌の役割について興味を持つようになり、また、その続編という感じで『土の文明史』という本を読んだところ、両書の意図するところは基本点で共通するようなので、両書を一纏めにして書評を試みることにした。
そもそもという話になるが、国連推計によると、世界の人口は約69億人(2010年10月推計)、内その1/6〜1/8、即ち、約8億人〜10億人という途轍もない人達が飢えているという。この深刻な地球規模の社会・政治・経済問題は、究極的には、人間が食べる食糧の生産、流通、加工および消費を巡る諸問題に集約できよう。そしてこれら両書が取上げているテーマは、それらの主たる内容は違っても、上記食糧の『生産』ないし『供給』面の主要資源のなかでは比較的軽視されている『土壌』を巡る問題について、地球上の耕地、牧草地には物理的限界性があることを前提にして、如何に『土壌』の健康度を維持・向上させて、食糧を増産し、環境を保全するかという課題を巡る考え方では共通している。即ちその一端を、ミミズというムシ(?)の生態・効用から、いわばミクロ的に展開したのが『ミミズの話』で、この問題の成否を、グローバルなスケールでマクロ的、歴史的観点から分析・検討したのが『土の文明史』であるということになる。

なお、前書の著者はガーディナーで、園芸関係の図書が多く、米国園芸協会図書賞を受賞しているという主婦、後書の著者は、Washington大学地球宇宙科学科・地形学研究グループ教授である。
また、ここでいう『土壌』とは、岩石基盤上で風化や生物活動(微生物、ミミズ、森林)などにより蓄積された、農業生産力をもつ表土、という意味に使われている。

先ず両書は共通して、進化論のダーウイン著『(ミミズによる)肥沃土の形成』(1881年)を引用しながら、ミミズの土壌肥沃度向上能力の高さを評価しているのだが、次の段階で前書では、ミミズ自体の生態・能力などに重点を置いた議論を展開しているのに対し、後書では、土壌の肥沃度と侵食という問題に焦点を当てて、これと過去の世界主要文明の盛衰との関係や、ミミズの活動を含む土壌の健康維持向上策などについて分析・提言している。
そして前書では、著者自身がミミズを飼育して、生きた耕器具としてのミミズの生態を観察・解説すると共に、ミミズを巡る様々の興味深い話題を提供している。例えば、現在のアメリカで生息しているミミズの多くは、アメリカ人同様他地域からの移入種であること、ミミズはPCBやメタンさへ分解、無毒化するなどの環境浄化能力があること、他方、ミミズのいない地域にミミズを持ち込むと、一種の環境破壊(既存森林相などが変化する)もあり得る、というようなことである。

これに対して後書では、土壌の基礎的『健康』を無視、ないし利用した結果として生じた過去の巨大文明の盛衰について、チグリス・ユーフラテス(塩害)、ギリシャ(森林伐採、牧畜)、ローマ(奴隷制の大農園)、エジブト(ナイル洪水の恵み)、中世〜現在のヨーロッパ(森林伐採と侵食、植民地利用)、南北アメリカ(森林伐採、機械化、但しベルーのみは、ミミズなどを利用した伝統的土壌管理に成功したとのこと)などを取上げて詳論している。
詰まる所、両書の著者が共通して主張している基本は、如何なる方法であれ、人間が土壌の健康・肥沃度に配慮している限り、土壌は人間を養ってくれるという原則論であって、これを農法から、大雑把に慣行農法(化成肥料、除虫剤、除草剤を使用)と有機農法(堆肥、輪作、休耕の組み合わせ)とに分けると、前者は『作物を養う』のに対し、後者は『土を養う』農法であるという意味で、有機農法に還れというのが両書の共通した主張で、特に『土の文明史』では、北米の農家で急速に採用が進んでいる不耕起農法(水田・畑を耕さないまま農作物を栽培する農法)を奨励している。不耕起農法の主たるメリットとして、慣行農法よりも経済的であり(省力化、化学肥料・農薬などの不使用、強力な自然の鍬であるミミズや微生物の繁殖などにより)、地球温暖化対策にも役立つこと(土壌を耕すと、土中の有機物が酸化してCO2を空気中に排出するが、その結果アメリカでは、過去150年間の耕作により、土壌から780億トンの炭素が排出されたという)などを挙げており、日本でもこの農法は、稲作などで徐々に普及しているようである。

最後に触れておきたいことは、最近、TPP(環太平洋経済連携協定)参加の可否を巡って、久し振りに日本の農業改革が議論されるようであるが、このような問題に関しても、両書は極めて示唆的であるということだ。一例を挙げると、評者も『土の文明史』で初めて知ったことだが、ソ連崩壊後のキューバでは、アメリカからの支援は当然受けられないため、世界で初めて国を挙げての農業改革実験を始め、国家指導の下で、化学肥料低投入、非耕起農法や小規模農場化などを強力に推進して、農産物の完全自給化に成功したという(但し、肉と牛乳とは不足しているとのこと)。現在なお、大規模化だ、奨励金増額だとかいっているような時代遅れの日本の農業政策は、TPP参加問題を好機として、もっと視野を広げて、農業の根本から検討し直されてよいのではあるまいか。 

 

『日本の大問題が面白いほど解ける本
            ……シンプルロジカルに考える』 
(高橋 洋一著 光文社新書)

石川 勝敏   


著者は日本経済学界の大御所。
1、平易な文章で民主党施策の問題点
2、社会保障政策の問題点
3、税の大問題
4、地方分権の大問題 
の4章に分けて自説を展開している。190ページの新書版であり、直接お読み頂いた方が良いかと思いますが、主要部分を紹介します。

*アメリカのフリーウエイは、道路が立体交差になって交差点停止から解放(フリー)されているという意味で、料金がフリーではありません。
高速道路無料化は大方の方が馬鹿げた施策だと気づいているのではないでしょうか。アウトバーンも環境対策のため有料化がすすめられています。お金を取るのが世界標準。いまさら一酸化炭素をばらまく政策が25%削減の目標とどうつながるのでしょうか。

*政権交代とは財源の組み換えである。埋蔵金40兆円は出てきましたが、残りは少ないでしょう。民主党に必要であったのは政策に沿った予算案のシーリングであった。予算組み替えが出来なかったのはシーリングを外したからである。

*子供手当はばらまきか。しかしこれを世界標準でみると、金額は別としてほとんどの先進国でおこなわれている極めて普通の政策です。これこそ予算の組み換えで手当てすべきものです。配偶者控除や扶養控除を財源にするのは間違っています。文部省、教育委員会、学校の予算から捻出すべきものです。

*民主党には成長戦略がない。いまや先進国では産業政策は殆ど行われていません。予算配分は公正中立にし、産業界のことは市場にまかすべきです。
*周波数オークションは儲かるか。アメリカでもヨーロッパでも国家にとって大きな収入になっている。携帯電話やモバイルインターネット等移動通信分の技術は日進月歩でこの競争力を世界的に高める必要がある。このためにも周波数オークションを実施する必要がある。オープンスカイについてやっと重い腰をあげたところである。

*借金返済猶予法案は金融危機を招くか。一時、亀井モラトリアムと騒がれましたが、当初言われていた強制返済猶予ではなく、条件変更への柔軟な対応を努力義務としています。

日本には40兆円のGNPギャップがあるされています。デフレは止まりません。3ないし5%の安全なインフレにする必要があります。中小企業に対する銀行の貸付債権を日銀が買い取るのです。倒産のリスクは日銀が負担するのです。こうしたリスクを取らずに口先だけで貸し渋りや貸し剥しはいけませんと言っても実効はあがりません。日銀はやる気があるのでしょうか。
*公共投資で景気は良くなるか。国民生活に寄与する事業で費用対コストが明らかな公共投資であれば実施すべきでしょう。しかし一般にマンデル*フレミングの法則が働きます。国債を発行して公共投資を行う場合、市中のカネが減って金利が高くなります。変動相場制の下では円高になります。日本の輸出は減って輸入が増えます。これによって公共投資は海外に流れてしまいます。一方金融緩和で市中にカネを増やすと金利が下がるので円安になり、輸出が増えて輸入は減ります。国内景気は回復します。

*借金が800兆円あって大丈夫か。借金をバランスシートでみると借金と同時に500兆円の資産があります。300兆円は消えてしまったことになります。民間の基準でいくと破産状態ですが、国の場合課税権があります。好景気による税収増も期待できます。プライマリーバランスで早くゼロを達成することが必要です。

 以上の様な解説がいくつも出ています。読者の皆様は殆ど既知のことが多いと思いますが読みやすい文章で190ページですから一度お読みになったら如何ですか。お薦めします。

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『草食系男子』
吉田 龍一

最近、台湾の人から次のような話を聞きました。
“最近のことですが、台湾で徴兵制度の廃止が議論されましたが、結論としては徴兵制度は継続されることとなりました。その理由は、徴兵制度を廃止すると台湾の若手男子も日本と同じように草食系になり、活力を失い戦力など衰退化する恐れがあるから”ということでした。
この草食系男子とは、ナイーブである、結構イケてる、淡白、積極的でない、闘争心がない、平等主義者、インドア派といった特徴をもつ男子のようです。

このような男子が生まれた背景には、戦争がない、戦後教育のせいといった点もあると考えられますが、それ以上に、わが国の少子化の進行から一人っ子男子も多く、両親だけでなく、祖父母や親戚のお金がひとりの子に集中するなど、愛情もお金もたっぷりと注がれ、欲しいものはなんでも与えられ、我儘な「優しいオトコ」が育てられた結果だとも思われます。
わが国の少子高齢化は当分続きます。従って、このままでは草食系男子は増え続ける可能性があり、このままではわが国が世界に伍していくことはまず不可能といえます。

日本の衰退化が叫ばれている今日、これを阻止するため、家庭のあり方・教育を抜本的に見直す必要がありますが、オジイチャン、オバアチャンも草食系男子の増殖問題を国家の危機と認識し、その増加を抑えるように努力する必要があると考えますが。

 

 

 

 

 2011/01/26の時事通信は、オバマ米大統領が25日に行った一般教書演説で、日本に言及せず、一方、中国と韓国に関しては、技術革新や教育・研究の分野で先行している国の例などとして繰り返し触れ、その取り組みに倣うよう訴えたこと。
 同時に、大統領は中国について「数学や科学教育に力を入れ、研究や新技術開発への投資を強化している」と指摘。また、「韓国では教師が国家の基盤とされている」と語り、教育の重要性を説いたことを伝えています。
このオバマ米大統領の教育についての姿勢は今の日本では十分に見習うべきと思いました。 
本号も時宜を得た、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O) 






 
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