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■2010年11月1日号 <vol.165>

書評 ─────────────

・書評     前川 彬  『法隆寺とパルテノン』
             (田中英道著 祥伝社)


・書評     石川勝敏  『日本外史』
             (頼 山陽著 長尾 剛訳 PHP研究所)

・【私の一言】 クレア恭子 『ロンドン便り(10)ボリス・バイク』


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2010年11月1日 VOL.165


『法隆寺とパルテノン』 
(田中英道著 祥伝社)

前川 彬    


本書は、サブタイトルに「西洋美術史の眼で見た新・古寺巡礼」とあるよう
に、できるだけグローバルな視点から日本人の作り出した「美」を見て、そ
の真価に迫ろうとしている。具体的には、奈良・京都の古寺(36寺)を純粋
に美術作品として近代の眼で見直して、そこに優れた人間的価値を見出そう
としている。

まず最初に、法隆寺をとりあげ、この寺の回廊の内側の空間は、アクロポリ
スの丘にあるパルテノン神殿(アテネ)、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖
堂と並ぶ世界の三大宗教空間と評価している。また、本書でとりあげた仏像
の数々は、すべて世界的レベルでみて一級品、それも四つ星、五つ星にラン
クされる美術品であるという。

著者は、西洋美術史が専門の東北大学名誉教授であるが、近年は日本美術の
世界的価値に着目した活動もしている。著者によれば、世界の中で日本ほど、その「美」のすばらしさに比して知られていない国はないと言い、また、それが本書を出した理由でもあると言う。

特筆している作品をいくつか挙げると、法隆寺金堂の壁画は「アジャンタや
中国の壁画と比較しても世界最高の絵画」であり、中宮寺の弥勒菩薩(半跏
思惟像)は「考える人のさきがけともいうべき彫刻」であり、薬師寺東塔は
「後世の追随を許さない階調美」であり、そのほか、東大寺三月堂の日光・
月光像や興福寺北円堂の無着・世親像もそれぞれの時代の白眉の彫刻である
と絶賛している。

一方、思い切った見解や直裁な表現も目立つ。学会で論争のある法隆寺の再
建・非再建問題について、いまの法隆寺は再建されたものではないと断定し、竜安寺の石庭は偶然的な庭であってそれを禅の思想を表現しているとするのは言いすぎであるとし、また、作者不詳となっている作品のいくつかについて著者の推定する作者を提示している。

「古寺巡礼」というと、古くは和辻哲郎氏の著書が有名であり、井上靖氏に
も紀行文・随筆を集めた著作があり、また、最近では辻井喬氏にも同名の著
書があるが、本書は、西洋美術史家が日本の古寺を巡ってその美しさを評価
している点でユニークであり、日本人として誇らしい気持ちで楽しく読める
一冊である。


『日本外史』 
(頼 山陽著 長尾 剛訳 PHP研究所)

石川勝敏   

頼 山陽:1781〜1832江戸時代後期の歴史家、文人。
日本外史がベストセラー

長尾 剛:1962年東洋大学大学院修了、ノンフィクション作家。
日本文学・思想史を研究。

この本の副題は《幕末のベストセラーを超現代語訳で読む》と付けられてい
る。
我々の世代は漢文を読めない。全く残念な事である。高校の歴史で日本外史
の言葉も、頼山陽の名前も聞いたことがある。日本外史は漢文で書かれてい
て私には読めない。

この著書のように完全な現代語に翻訳されると楽しく読める。幕末の志士の
必読書であった。木版印刷されてから爆発的に売れ幕末明治のベストセラー
である。武士の歴史である。

日本外史は全22巻の大著であるが、歴史的事実の部分を除いて歴史事実に対
する頼山陽の論賛を主として翻訳されている。気楽に読める歴史書である。
是非一読をお薦めしたい。

頼山陽の論旨は明確で、1つは名分論、東洋的な道徳観、親と子、主君と臣下
は絶対であること。2つ目は尊王である。論賛部分の概要は次の通りである。

第1章 源氏前記  平氏     武家の政界進出の功と罪
第2章 源氏正記  源氏     武家は朝廷の忠実な僕であれ
第3章 源氏後記  北条氏    罪深い政権だが、国防は秀逸
第4章 新田氏前記 楠氏     もっと評価されていい楠公
第5章 新田氏正記 新田氏    戦は下手だが、尊王の志だけは貫いた
第6章 足利氏正記 足利氏    国を混乱させた大義なき支配者
第7章 足利氏後記 後北条氏   大軍を向こうに奮戦した結束の力
第8章 足利氏後記 武田氏上杉氏 洗練された兵法の確立
第9章 足利氏後記 毛利氏    義を通じた者にこそ天意がかなう
第10章 徳川氏前記 織田氏    我が国の礎を築いた英雄
第11章 徳川氏前記 豊臣氏   一代ですべてを得、すべてを失った傑物
第12章 徳川氏正記 徳川氏    時代に選ばれていた天下泰平の立役者

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『ロンドン便り(10)ボリス・バイク』
クレア恭子

ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏は大の自転車好き。2年前‘市営レンタル自転車制度’導入をマニフェストの一環に掲げ市長戦を勝ち抜いた。健康・エコ促進・公共交通機関の混雑緩和が理由である。以来、彼が自転車通勤している姿をたびたび新聞やテレビで見かけた。

ここ数年 ロンドンでは自転車利用が急増。歩道は利用禁止だから、自転車用レーンもずいぶん整備された。最近では自転車の移動修理屋が開業し、パンク等、困れば電話一本で飛んできてくれる。

7月下旬、セント・ポール寺院に近い私の勤務先の前の歩道にアレヨアレヨという間に自転車立てが30台並んだ。少し歩いたホテル前にも20台程。 翌日にはバークレー銀行の青いマークが華やかな、ガッチリとした新品の自転車が搭載された。市長に口説かれたバークレー銀行は 2500万ポンドの寄付をしたそうで7月30日‘バークレー・サイクル・ハイヤー’と呼ばれるレンタル制度が開始した。民意に沿った導入だが、市長の熱意の成果である。財政逼迫時14000万ポンド(約182億円)をかけて、計6000台の自転車を市内400箇所に分けて設置。
30分以内の移動なら無料、指定置き場で乗り捨て可。パリ・ブラッセル・バルセロナ・コペンハーゲン等欧州諸都市並に新しい市民の足が確立したのである。
ただ、年間登録料の45ポンドはモントリオールに次いで高額、欧州では無料提供の都市もありベラボウに高い、と批判されている。


導入初日には9千人が登録。ところが ソフトウェアの問題で料金徴収がうまくいかず、初日の費用は払い戻し。さらに76の設置箇所で住人が混雑・騒音を理由に反対運動を起こし、1000台が設置できていない状況が発覚。たとえ市が認めた制度でも、地域住民の意思を無視できない民主主義国家の底力を見たように思う。1カ月を経て、登録者は7万人を越え 毎日平均2万回利用。完璧ではないが予想以上の反響に一般旅行客への利用拡大は、年末まで延期となってしまった。

政治家が、明確な目的に向かって熱意を持って積極的に説得にあたれば、新制度が実現できる好事例。微笑ましく見守っている。

 

 

成功体験という言葉があり、教育やスポーツの場ではこの重要性がよく指摘さ
れています。
これは、何らかの成功体験があると、同じような行動をとるとき、脳の中でそ
の結果をもたらす原因となった行動にさかのぼりその回路を強化する学習が起
こるためだそうです。これにより、同じように成功を得る可能性が高く、それ
を積み重ねる事で自信と意欲が育まれると考えられているからです。
企業等でも、社員が成功体験を積み重ねて「勝ち癖」をつけることが重要な課
題ともいわれてきましたが、いまや社会や企業ではこの成功体験が失敗に終わ
る危険性が高いそうです。
これは、今は変化の時代であり、成功体験の耐用年数は決して長くはないから
で、むしろ『昨日の最高は、今日の最低』と考えて変化し続ける必要があるそ
うです。
イギリスのボリス・バイクではありませんが、日本の政治・経済等あらゆる面
で、変化を呼び社会を活性化する必要があるように思われます。
今号も多面的なご寄稿有難うございました。(HO)






 
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