■2007年11月15日号 <vol.94> 書評 ─────────────
・書評 河西 孝紀 『場 所』 ・書評 佐藤 広宣 『映画の昭和雑貨店』 ・【私の一言】佐藤 広宣 『データ処理がネット上に移る時代』
2007年11月15日 VOL.94
『場 所』 著者:瀬戸内寂聴 出版社:新潮文庫
「場所」は瀬戸内寂聴の数多い作品のなかでも傑作の一つといえよう。 父母の郷里、子供時代から始まって奔放な恋に走った時代を経て出家前の最後を過ごしたそれぞれの「場所」について書いている。 先ず「場所」を示し、タイムスリップして当時の回想や心境を綴り、再び現在に戻って、その土地を訪ねて感慨を披瀝するという手法の私小説とも云えよう。ともかく「作り事」ではない為、瀬戸内寂聴の常人では考えられない恋愛遍歴の中に作者の生き様が迫力をもって読者に迫ってくる。凡人には及びもつかない人生の深淵に何度も遭遇している作者の密度の濃い人生を垣間見ることが出来る。 三歳の娘を持つ二十五歳の私は夫が職探しの上京中に二十一歳の男性と恋愛関係に陥る。 「それは意味や説明のつけようもない理不尽な情熱の所産であった。・・・ 自分の奥にひそむ情熱が、恐ろしい破壊力を持ったものだということを納得したのは、すべての自分の過去の所業を冷静に客観視して振り返ることが出来るようになってからであった。」 「眉山」の章より このようなエネルギーが幾多の小説を生み出す根源となっていたように思われる。 現在、日経新聞の土曜日に作者が「奇縁まんだら」を連載中であるが、「場所」と併せ読むと一層興味深いものとなろう。
ブロード・バンドが進展したおかげで、ヤフー動画やGyaOなど、インターネットで、気軽に古今東西の名作映画を楽しめるようになりました。 他方、嬉しいことに、日本映画の古い名作映画のDVDが幅広に販売されるようになりました。 おかげで、映画全盛期の昭和20〜30年代の日本映画を気軽に楽しむことが出来ます。例えば、森繁久弥、加東大介、小林桂樹、三木のり平ら芸達者が出演する東宝の「社長シリーズ」を楽しく観ています。 昭和20〜30年代の日本映画を見直して痛感するのは、昭和30年代のなかば頃から、日本人の暮らしが大きく変わったということです。とりわけ、昭和39年の東京オリンピックの頃を境に、日本の生活風景は劇的に変わったようです。 昭和20〜30年代の日本映画のなかに、失われてしまった生活道具や習慣を見つけ出した観察ノートというべき本が、「映画の昭和雑貨店」シリーズです。小学館の雑誌「サライ」に7年間連載されたフォト随筆が5巻本で刊行されているものです。著者の川本三郎は、昭和19年生まれで、僕と同い年なので、彼の記憶や観察眼に共感するところが多い本でもあります。 随筆のテーマとして取り上げられている小物や風俗を、予告編風に、ほんの少しだけ列挙してみましょう。 < オート三輪、 電報、 ガリ版、 そろばん、 ミシン、 編み物、 二階借り(貸し)、 下駄、 卵、 銭湯 > *映画の昭和雑貨店シリーズ全5巻(小学館刊、各1500円)* 1. 映画の昭和雑貨店 2. 続・映画の昭和雑貨店 3. 続々・映画の昭和雑貨店 4. 続々々・映画の昭和雑貨店 5. 完結編・映画の昭和雑貨店
今、情報技術の世界で大きな変化が起きています。 情報技術の世界での大きな変化について、ベストセラー「ウェブ進化論」(ちくま新書)の著者梅田望夫氏が、中央公論に寄稿した興味深い論説「情報漏洩の不安が消える日」の要点を、以下に紹介します。 電子メール記録から、音楽や映像のファイルまで、私達は自分のパソコンに溜め込んでいます。パソコンという便利な道具を使ううちに自然にそうなっています。 パソコンの高機能化の一方で、現在起きている変化の本質は、情報を自分のパソコンの中に溜め込むのではなく、ネットのサービス提供者(グーグルとかヤフー)に預けるようになることです。グーグル等が提供するサービス(例〜グーグルのウェブ・メールGmail)を使って送受信した情報は、自分のパソコンの中には溜め込まれません。情報のすべてがグーグル等の超大型 コンピュータに蓄積されて、利用する時にだけネットを介して参照して利用する仕組みになっています。 時代の大きな流れは、情報をグーグル等に預け、パソコンでは所有しないという方向への変化です。 グーグル等の安全性や信用など課題山積ですが、技術は課題克服のため着々と進化しています。 進化の過程は、パソコンのマイクロソフトとネット・サービス提供者グーグルの熾烈な主導権争い=サービス競争という一面もあり、私達が良質なサービスの恩恵を受けられることから、動きを注視しておくとなにかとお得です。(例 グーグルはネット上で呼び出して利用する無料のワープロソフトの提供を開始して、マイクロソフトの有料のワープロソフトのワードの地位を脅かそうとしています)
∴∴∴∴《編集後記》∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴ 先日映画評を頂いた「always 3丁目の夕日」というのが大ヒットしたのに続き、「続always 3丁目の夕日」が上映されて仲々の人気ということです。 これは結局は、最近の世相に欠けるものを昭和30年代に求めているということでしょうか。古い映画には学ぶべき風潮が多いように思います。 急に寒い日々が続くようになりました。お元気にご活動ください。 今号も多様な書評ありがとうございました。 (HO)
2005/03/01
2004/12/01