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■2008年1月1日号 <vol.97>
書評 ─────────────


・書評 板井 敬之   『戦艦大和』
・書評 亀山 国彦   『バンカーそして神父』

・【私の一言】岡田 桂典 『シンガポール便り(14)─新年に思う』


2008年1月1日 VOL.97


『戦艦大和』
著者栗原敏雄    出版社:岩波新書
    

板井 敬之  


   久しぶりに“戦記もの”を読んだ。30歳〜40歳半ばまでは阿川弘之、吉村昭、吉田満等作家や旧軍関係者が書いた軍艦や海軍の書物をよく読んだが、その後は遠ざかっていた。
 著者は40歳になる毎日新聞の記者で、“永遠の世界一”とされる大和に大いなる関心を持って取材を続けている由。この本は関連の資料・文献を読みこなした上に、大和の生き残り20人からの取材によって出来上がったもので、恰も子母澤寛が「新撰組始末記」を書くに際して行なった新撰組生き残りへの取材を称して「ギリギリ間に合った」と言ったのと同じ気持ちだとしている。
 著者の取材(申し込みを含め)に対して、大和と共に海に沈んだ伊藤整一司令長官や有賀幸作艦長の遺族には「父が負っていた重い責任を負い続けているように思えた」との記述があって心打たれる。
大和は後世に何を残したのであろうか。嘗て大蔵省の主計官が、青函トンネルの予算要求を「“世界の三馬鹿”云々」と言ったとされるように無用の長物だったのか、鉄鋼・造船・光学機器・建設(先行艤装)等戦後の経済発展に欠かせない技術およびその基礎となっていたのか、守るべきもののために散って行った兵士の象徴だったのか、軍事力増強に国力を傾け亡国に突き進んだ時代の象徴だったのか、著者の言葉を借りるなら「見る者の歴史観を映す鏡」とのことである。これからのわが国のことを考えさせる書物だと思った。

 
『「バンカー、そして神父−放蕩息子の帰還−』
著者:谷口幸紀
     出版社:岩波文庫(上中下)
 
亀山 国彦 


  本書は、大阪生まれのカトリック神父の自叙伝で、自らの信仰來歴、精神に異常を来たした妹との交流、インベストメント・バンカーと山谷での生活に、カトリック教会内部の排他性と包容力を表すエピソードを織り込んだ波乱万丈の人間臭い物語でもある。
 早く母親をなくし、父親は、優秀な内務官僚だったが、戦後、公職追放を受けたため、一家は一転貧困に陥る。著者は、高校生で修道会のリクルート活動で洗脳され、神父への道を歩むが、感じたことを正直にそのまま表現したことが、従順さを求める修道会の指導者に、再三、咎められ、これが延引となり教会から放逐された。30歳から16年間、金融界に身を投じ、ドイツ、米国、英国のマーチャントバンクで、日本企業にファイナンスをつけるため、活動し実績を挙げるが、「お金の神様、マンモン」に支配されるのを嫌い、再び、カトリックの世界に戻り、日本ではなく、直接、ローマに行き神父の資格を52歳で得る。高松の教会で主任司祭となるが、既存の常識を超えた型破りな行動が災いして現在では、組織から外れた宣教活動を力強く行っている。
 修道会での「禅寺での粗末な食事と修道院でのこってりしたパスタや残飯に混じる肉」を対比した家族宛の手紙は、「(会の)恥を世間に暴き立てる」といって問題にされ、また、「お金はただの紙に過ぎないが、行きたいところへは何処へでも出掛けて行く生き物で、最も神聖な場所にも出掛けて行く」、「死者の命日のミサで謝礼の入った封筒を神聖な祭壇に置くのは避けるべきだ」と書いて、隙を突かれた修練院長の逆鱗に触れている。愛の重要性を標榜する教会の世界も問題点を指摘されることを嫌い、組織安泰を願っているように著者は感じているが、逆にピラミッド型世界の典型である教会からの著者への反発も強いのだろう。
 聖書にある「帰って来た放蕩息子を歓迎して大宴会を催したのに対し、まじめに働いてきた兄が怒り、自分の帰宅を待ちかねて始まった宴に、兄は頑なに入ることを拒んだ」のたとえ話をから、自らの人生を重ね合わせ、「地獄とは真っ暗な孤独な空間」との説を副題にするなど、現代の視点での聖書解説も首肯させるものが多い。

 
 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『シンガポール便り(14)── 新年に思う』
岡田 桂典

   シンガポール政府は新規投資、プロジェクト案件の実行に当たっては、「リターンは」、すなわち“儲かるか”と厳しく審査するのだそうです。かくてこの国には財政赤字がありません。国、国民の資産を能率よく使いますので経済成長率も高く、一人当たりのGDPはまもなく日本を抜き去るそうです。
 MRT(大量高速鉄道、市内は地下,郊外は地上)を計画した時の話を聞きました。まず空港、港湾、工場用地、住宅、金融センター、教育研究施設等の長期に亘る展開を検討します。次にMRTの建設・維持コストを道路建設・維持費、バスの費用、道路で削られる土地の失われる効用等と厳密に比べて建設を決めました。国民のカネを使うのは合理的であるべきなのです。
 さて、福岡でタクシーに乗りました。“今走っているのが県道。右に見える国道沿いの新しいショッピングセンターにお客が増えとりますけど、まだ2キロ走らんと道が繋がっとらんとです。あれは市道。その先の市の住宅は入り手がありまっせんけん、クルマは見えんでしょうが。あれは道路公団の道、あそこで分かれているのが市の道路公社の高速道路。途中で金が足らんようになって中途半端ですけん、がら空きですたい”
 日本では疲弊一途の地方経済の再建が叫ばれていますが、何をやりたくても空港・河川・港湾・道路・教育設備・医療等あらゆる分野で県だ、市だ、中央官庁の出先き機間だ、なんとか公団と権限が分かれています。中央の各省、各局が全国一律の基準を押し付けたり、交付金・補助金で権力を発揮し、おまけに代議士先生方の影響力とかもあります。道路の例のように、ばらばらにおカネを使いますから、ものすごい無駄使い、ハンコを集める等の時間のムダをやっています。かくて国の借金が830兆円、国の税収の16年分と途方も無いことになってしまいました。もはや金がない国には頼れません。
 大都会はまだ良いほうでしょうが、地方はどうやって生きてゆくのか。シンガポールのような強力な“一つの行政機関”がないとどうにもなりません。道州制に尽きると思います。外交・国防は国家の責任です。各地方は一つの政府で、自分等の潜在能力、進むべき方向に沿って税収も定め、世界を相手にヒト・モノ・カネを動かすのです。まずは九州から始めると良いと思います。「九州人」で一つにまとまります。「中国(中国地方)人」とか「中部人」とは聞いたことがありませんので、次ぎの段階でよいでしょう。


  あけましておめでとう御座います。旧年中はいろいろ有難う御座いました。
早いものでこの”評論の宝箱”も2004年1月1日に第1号を発行して以来、この2月には100号を迎えることと成ります。
この間大勢の方々にご寄稿を頂き、また読者としていろいろなご意見をいただき真に有難う御座いました。厚く御礼申し上げます。
所で、昨年はアナス・ホリビリス(ラテン語でひどい年という意味)だったと言われておりますが、今年は“子年”で物事が芽生える年ということで、これに因んでの新たな展開が期待されておりますがどうなりますか。
それはそれとして、”評論の宝箱”は、100号を契機にそれなりの展開を図りたいと思います。
本年も引き続いてのご支援を宜しくお願い申し上げます。
(HO)








 
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