この本は昭和48年に文芸春秋社から「ある神話の背景」の題で発刊されて、その後PHP研究所で文庫本化されたがいずれも絶版となり、今回ワックから改題されて再び文庫本化されたものとのこと。当時、渡嘉敷島に駐屯していた日本軍は赤松嘉次大尉が指揮する海上挺身隊第三船隊、ベニア板製の小型舟艇に爆雷を積み、敵艦に体当たり攻撃を行う特攻部隊だったが、出撃の機会がないまま終戦を迎えようとしていた。そもそも渡嘉敷島の防衛を任務としていた駐屯部隊本部は、特攻部隊の赤松大尉に指揮権を預けて那覇に引き上げてしまっていた。“定説”では、赤松大尉の命令により住民329名が集団自決したとされていた。著者はこの定説に向かって丹念に取材を繰り返し、定説とは異なる真実の可能性に近づく。その熱意と情報に対する冷静な評価が胸を打つ。そのうえで最後まで断定はしない。その理由は「新版まえがき」に書かれている。「人を裁くな。そうすれば、あなた方も
裁かれることがない。」(ルカによる福音書6.37)という聖書の記述を引き、その意味を解説している。パウロの「ローマの信徒への手紙(3.10)に決定的な簡潔さで述べられているという。「正しいものはいない。ひとりもいない。」
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