このサイトでは書評、映画・演芸評から最近の出来事の批評まで幅広いジャンルのご意見をお届けしていきます。
読者の、筆者の活性化を目指す『評論の宝箱』
意見を交換し合いましょう!

 
       






■2011年5月15日号 <vol.178>

書評 ─────────────

・書 評     『昆虫未来学ム4億年の知恵に学ぶ』
            (藤崎憲治著  新潮選書)

・書 評     『公家さま同心 飛鳥業平』
            (早見 俊著  コスミック出版)

・【私の一言】  『いい人』について


既刊のメルマガはこちらから見れます

 




2011年5月15日 VOL.178


『昆虫未来学ム4億年の知恵に学ぶ』
 (藤崎憲治著  新潮選書)  

丸川晃   



日本人は、『昆虫』が好きだといわれている。そして、昆虫の採集者も多い。評者の恩師、福岡正夫慶大名誉教授は、88才の現在でもなお、インターネットや旅行でチョウの新種を収集されているという。そのような日本人が読んだ昆虫に関する著書としては、ファーブルの『昆虫記』が最も有名であろう。評者の経験では、大昔に岩波文庫の林 達雄訳で読み始め、途中で止めた記憶があり、また2005年暮れから発行された、奥本大三郎訳の『ファーブル昆虫記』は、注や絵なども至れり尽せリの本だったが、第6巻下まで読んだところでギブ・アップしてしまった。非常に面白いのだが、延々と続く観察結果は詳細過ぎ、かつ情緒が豊か過ぎて、いい加減でいやになったのが、その原因だった。

今から考えると、『ファーブル昆虫記』は、彼が18年間にわたり極めて綿密・詳細に特定の昆虫の生態を観察した記録であり、現時点で評価すれば昆虫の生態に関する文学的、情緒的な作品だったともいえよう。しかしその後、昆虫に関する研究は、約4億年前に誕生した極めて特徴的な6本足の節足動物に対するあらゆる角度からの研究が進み、今では精々700万年程度の歴史しかないヒトが、生物学上の大先輩である昆虫類の知恵・能力を学んで、その基本的な役割としての食物連鎖の外、環境保全、情報処理や医薬品などにも続々と活用されつつあるという実態は、進化論に否定的だったファーブルは恐らく想像さえしなかったであろう。

本書は、京大農学部教授で『昆虫生態学』を専門とする著者が、昆虫に関する研究はここまで進んでいるということを、素人向けに関心を惹くテーマを中心に、分かり易く概論した上で(特に、昆虫の変態化、配偶システムの合理性などが面白い)、それを前提として、ヒトと昆虫との係わりについて、特に現在の人たちが悩み苦しんでいる自然との接点を巡る難問につき、昆虫の能力や行動などに示唆を得ながら(例えば、食物連鎖の支持、温暖化の指標、遺伝子組み換え植物との関連など)、解決の途を探りつつある現状を展望している。従って、この本の前半分はやや『題名』の趣旨から外れた内容となっている。しかし後半は、昆虫とBiomimicry(『生物の天分を意識的に見習う、自然からinspirationを得た技術革新』)という形で、現状および今後のこの種研究テーマ(例えば6本足のロボット、トンボの翅を模倣したプロペラ、スズメバチから脂肪燃焼ドリンク、癌の進行を遅らせるヤママユの休眠物質など)について言及している意味で、『題名』の『未来学』に相応しい内容となっている。
 時には、このような自分にとっては全く未知の分野に係わる本を読むのも楽しいものである。

 

『公家さま同心 飛鳥業平』
(早見 俊著  コスミック出版)

渡辺 仁   



相変わらず時代小説を中心に読んでいます。主人公は、戦国武将、天下の将軍、匠の世界を究めた人々…それぞれの舞台で様々な感動を与えてくれます。
今回紹介するのは、楚楚とした所作、明晰な頭脳、そして身分の上下に関係なく人と接する公家の話…です。
時は今から160年【注】ほど前の江戸時代天保年間、公家の飛鳥業平は水戸徳川家藩主斉昭に請われて「大日本史」の編纂の手伝いに京より江戸に出て、同家の蔵屋敷に逗留中…実は、従三位権中納言である。(【注】今年は大正100年だそうで…。)

水戸家では物見高い暇人だと思われている業平だが、ある時、街中で殺人事件に出くわし、南町奉行所定町廻り同心、和藤田三次郎(ワトサン)、岡っ引の寅吉と出会う。
烏帽子をかぶった神主のような格好の業平、好奇心の塊である<麿の旦那>が、一風変ったものの見方/恐るべき推理力、意表をついた行動で、面白い事件の探索にハマっていく。

携帯もインターネツトもない時代、武家や世間の常識にとらわれぬ、まさに、江戸時代の名探偵が事件の隠された謎を解き明かしていく。
麿の旦那が事件を求めるのか、事件が麿の旦那を引き寄せるのか? 
やはり、腕が立つ/京八流の流れを汲む鞍馬流剣法で優美に舞う…だけど弱みは「虫嫌い」…京から出てきた業平の江戸職人とのふれあいなど、なかなか面白い展開の作品でお奨めです。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『いいひと』ということ
 岡本弘昭 

男性も女性も「いい人」と称されるタイプは、都合のいい存在として扱われモテないといわれています。このためか最近「いい人」についての議論が増えつつあるように思われます。
「いい人」の特質として次のような点が挙げられているようです。
・ 自分の意見をいえない
・ 自分の気持ちがわからない
・ 自分よりも誰かを優先させてしまう、自分を粗末にしてしまう
・ 頑張りすぎてしまう
・ 「うん。いいよ」が口癖
・ 自分に自信がない
・ 我慢していることが多い
日本では長らく「謙虚さの美徳」があり、控え目であること、我慢強いことが、大人の必須条件とされてきました。そのため、日本人にはこの「いい人」と称されるタイプが少なくないと思われますが、近年、さらに増える傾向にあるようです。

これは、人間関係が複雑になり、空気を読むとか、人の心を読む事が必要不可欠といわれる時代となり、これも原因の一つと思われます。また、少子化のもとでの子育てで、親が過剰に子どもに接するため、自分の意志よりも親の意志を優先する、自分の意志を持たない、自分の気持ちを表現することが苦手な「いい子」を作る要因となり、長ずれば「いい人」に育つ可能性が高いということです。

しかし、世界では意見の衝突はざらですし、主導権を奪い合う場面も日常茶飯事です。日本が世界に伍するためには、否定や反発ばかりでは立場を悪くする可能性もありますが、時には自分の意志を明らかにし、強く主張することも、成功や評価につながるといえましょう。
昨今の世界情勢は、 日本人が「いい人」からの脱却を目指すことを必要としているといえます。また、国内の社会もそれなりの個性派を必要としています。このためには、躾や教育の段階から人を育てるということを改めて考えていく時代であるといえます。

 

 

関東では計画停電が遠のき生活のペースも落ち着きを取り戻しつつあります。ただ、今夏の15%節電は必死のようで今から節電に相つとめている昨今です。
東京都知事は節電の一環として自販機の自粛を指摘していましたが、いわれてみて、その気になって道を歩くとその設置台数の多さには驚くべきものがあります。便利といえば便利ですがそれ程必要があるとも思えません。従ってお説の通り自粛対象のように思いましたが、いずれにせよ我々は、これを機にあまりにも便利になりすぎた生活を原点に戻って見直すべき時期だと思います。
本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)






 
バックナンバー
2012/12/15
2012/12/01
2012/11/15
2012/11/01
2012/10/15
2012/10/01
2012/09/15
2012/09/01
2012/08/15
2012/08/01
2012/07/15
2012/07/01
2012/06/15
2012/06/01
2012/05/15
2012/05/01
2012/04/15
2012/04/01
2012/03/15
2012/03/01
2012/02/15
2012/02/01
2012/01/15
2012/01/01
2011/12/15
2011/12/01
2011/11/15
2011/11/01
2011/10/15
2011/10/01
2011/09/15
2011/09/01
2011/08/15
2011/08/01
2011/07/15
2011/07/01
2011/06/15
2011/06/01
2011/05/15
2011/05/01
2011/04/15
2011/04/01
2011/03/15

2005/03/01

2004/12/01

 
 
 
 
 
Copyright(c)2001-2009 H.I.S.U.I. Corp. All right reserved.
□動作確認はMac OS9.2 + IE5.1にて行ってます。
□当サイト内コンテンツおよび画像の無断転載・流用を禁じます。










SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送