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■2008年3月1日号 <vol.101>
書評 ─────────────

・書評 桜田 薫  『下山事件ー最後の証言 』 柴田哲孝著
・書評 横山 彬  『波乱の時代(上・下)』  アラン・グリーンスパン著
 
【私の一言と書評】幸前 成隆 『心の若さを』


2008年3月1日 VOL.101


『下山事件ー最後の証言』
著者柴田哲孝    出版社:詳伝社
    

桜田 薫  


  古い事件であるが、私たちはその当時の大きな衝撃を覚えている。50年近く経って新たに戦後最大の謎といわれた事件の真相究明をはかるドキュメンタリーが出てきた。文中に身近の知人が何人か登場することも興味を惹いた一つの理由であるが、本書を読んで魑魅魍魎の権力の世界は現在も残っているかもしれないと改めて感じる。昭和24年7月6日に国鉄総裁だった下山定則氏が常磐線の西綾瀬付近の線路に礫死体で発見された。死因には自殺説と他殺説があり、警視庁内部や法医学者間に意見の対立もあった。松本清張が「日本の黒い霧」でGHQの謀略説を主張し、また何人かのジャーナリストが、他殺説に立って独自の調査成果を発表している。しかし、これらの著作で提供されたデータや証言は矛盾するものがあったりして自殺説を含めて説得性が充分でなかった。柴田哲孝氏は自分の祖父が犯人ではないかという疑問から出発して、肉親や親族でなければ得られない証言を根拠に生存する関係者に会い、また「下山事件」本の著者たちからも情報を集めた。彼の精力的な調査活動の成果が、第59回推理作家協会賞の受賞が示すように一気に読ませる迫力をもった作品になった。著者の祖父は元陸軍の特務機関の一員だったが、戦後その仲間が玄洋社という時の政治権力とつながった影の団体を設立した。そこにはキャノン機関など進駐軍のいろいろな組織から政界の黒幕、末端の殺し屋までが出入りし、そのすべてが下山事件の関係者ではないかと思わせる根拠が提示される。さらに当時の社会状況では国鉄の発電所の利権争いや10万人の首切りを迫られた労働組合も疑惑の対象になる。本著は犯人を特定していないが、関係者を推測できる有力な状況を提示する。生存する証言者も急速に減っていく現在、(他殺であれば)さらなる真犯人の追及を期待したいものだ。




『波乱の時代(上・下)』
著者アラン・グリーンスパン    出版社:日本経済新聞社
    

横山 彬  


  アメリカのサブプライム住宅ローン債権をカタに証券化した投資商品を購入した金融機関は、その住宅ローンの延滞を契機に多額の不良債権を抱える羽目に陥ってしまった。それに端を発し世界同時株安を引き起こしてしまい、世界経済停滞の恐れが出てきている。
 そもそも、住宅ローン債権を高度な金融技術で「安全な証券化」したはずが、その核のアンコの部分が腐ってしまったのだから、いくら皮や包装が良くても商品価値はなくなってしまう。このアンコは、将来も住宅価格は上昇していくことを前提に、借入人の延滞は確率論的に想定された条件で起こるものと考えていたはずだ。しかし、購入後の住宅価格の上昇を当てにしてローンを組んだり、ローン残高よりも住宅価格が上がるとさらに借り入れをして消費に充ててしまうというバブル的消費行動が社会的風潮では、早晩、破綻するのが当然だ。
 多額の財政赤字や貿易赤字を抱えながら、世界一のGDPを誇り消費大国でいられたのは、強力な軍事力にも支えられた基軸通貨の“ドル”の信認があったからで、そのドルの威信も普遍のものではない。ドルの威信が崩れたら、モノ作りを海外に依存していながら一人当たりのエネルギー消費量が突出し、家計消費がGDPの7割を占める「過剰消費」のアメリカ社会は成り立たないのではないか。
 前置きが長くなってしまったが、この本は、東西冷戦が終焉し「市場資本主義」が経済活動での基本理念と目され、世界がグローバル経済化したなかでアメリカのFRB議長を務めたグリーンスパンが書いた「回顧と展望」の書である。グリーンスパンによれば、FRBがアメリカ経済に果たす役割は「物価安定」であるという。共産主義の消滅後、アメリカを中心とするグローバル経済化は覇者アメリカに順風となり、以降、FRBと政府・議会とは蜜月の関係で来られた背景なったと思われる。
 上巻では、この間の金融政策を、交流のあった大統領や政府高官の月旦を交えて語っている。彼のアメリカ大統領に対する率直な評価は興味深い。IT株バブルやLTCM破綻問題を切り抜け、インフレを避けての長期の景気上昇を実現した金融政策の舵取りについては高い世評を得ている。しかしながら、春秋の筆法を持ってすると、幸運の女神が微笑み、経済繁栄と成長を謳歌していたその時期に「サブプライム問題」のタネは蒔かれたのではないかと感じられる。
 市場経済至上主義者とも言えるグリーンスパンが、今後の世界やアメリカを展望したのが下巻だ。ここでの筆致は、過去のデータや先行モデルによる分析・見方でアナリスト的であり、必ずしも洞察力にとんだ素晴らしい展望とはいえない。言質を取られまいとする抽象的な「フェドスピーチ」(FRB的話法)ではなく、深い思索や理念に基づく大胆な展望をして欲しかったと望むのは、望蜀であろうか。とは言え、本書はアメリカのトップ層がどのようにアメリカ経済を考えているのかを知るための好著であろう。

 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『心に若さを』
幸前 成隆

  若さとは、年齢でも。体力でもない。心の持ち方、心の若さをいう。
 「常に新しいものを求めていくところに、若さがある。」(松下幸之助)
「年をとるだけで、老いるものではない。老いが来るのは、理想を失ったとき。希望ある限り、人は若く、希望を失うとともに、老い朽ちる。」(サミュエル・ウルマン)
 心のトシは、心がけ次第で、いつまでも若々しさを保つ人もいれば、逆に若くして老い朽ちる人もいる。
「長安に男子あり。二十にして心既に朽ちたり」「李賀」。若朽なってはいけない。「人の心は、伸縮自在。だからこそ、心に年はとりたくない。常に、青春と言う心持でいたい。」(松下幸之助)
 心の若さを保つためには、終生勉強。日々の精進が必要である。学校を卒業したから、勉強は終わりと言うわけに行かない。「卒業してからも常に勉強し、新しいものを吸収していくことが大事。」「喜んで人々の教えを受け、自ら新しいものを吸収し、勉強する。そういう態度を持ち続ける人には進歩があって停滞はない。一歩一歩、年を経るにつれて着実に伸びていく。」(松下幸之助)
 「壮にして学べば老いて衰えず、老いて学べば死して朽ちず」(言志晩録)
「わが姿たとえ翁と見ゆるとも、心はいつも花の真っ盛り」(牧野富太郎)「老ゆるとも、心に年を寄せるな」(前田孝道)
 いつまでも、心は若くありたいものである。



  “評論の宝箱” 100号で読者の皆様から励ましのメール等多数頂きました。御礼申し上げます。
 いつの時代でも結果には常にその原因がありますが、卒社があったり、卒業があったりまた入学があったりするこの季節に、いろいろな角度からそのことを教えてくれるご寄稿を得ました。有難う御座いました。(HO)








 
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