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■2008年8月15日号 <vol.112>
書評 ─────────────

・書評 後藤田紘二 『アラブの大富豪』
            前田高行著 新潮新書

・映画評 浅川博道  『山桜』
           (監督:篠原哲雄/主演:田中麗奈)

・【私の一言】濱田克郎 『アメリカ便り(17) スローライフと免疫』

 


2008年8月15日 VOL.112


『アラブの大富豪』
著者前田 高行    出版社:新潮新書
    

後藤田 紘二  

 このところ、原油価格の上昇はひどいものだ。
アラブ産油国王族たちは、日々膨大な富を懐にしてどんな日々を過ごしているのかしら?

 世界経済を牛耳っている彼等の様子に好奇心をもって関心を寄せていたところ、先般本書が、新潮新書として出版された。

 著者は無名のサラリーマンであるが,長年に亘って石油開発会社に勤務し、深く中東ビジネスに関わってきただけに、中東石油情報にはまことに詳しい人である。仕事を通じて、これまで蓄積した自分の知識・経験をまとめ、判りやすく、読みやすく、肩の張らない論調で、タイムリーなテーマを取り上げている。

 そもそもアラブの諸国が形成される過程での国取り物語や大富豪たちの生活ぶり、ベールに包まれた経済活動の様子など、予備知識のまるでない評者にとって、大変興味深く一気に読んでしまった。

 産油国の豊かな経済的現状と、同国の若者たちが、豊かさの中で向上心を欠落させている現状を、サラリーマンを超えた著者の視点から「天然資源と人的資源は全く性質が異なるものである。」と言う鋭い指摘は、なかなか含蓄に富んでいる。

 国全体が豊かな国になった産油国の最大の課題が、現在も将来も人材教育の成否にあるのではないか、という著者の問題提起は、近時の日本の教育貧困化を思い描きながら、発せられたもののようにも思われる。

 


映画評『山桜』
監督:篠原哲雄/主演:田中麗奈
    

桜田 薫  

 今なお絶大な人気を集める藤沢周平の時代小説、その映画化は「たそがれ清兵衛」、「武士の一分」などに続いてこの「山桜」が5作目となる。題名のとおり、一本の山桜がこの映画の重要なモチーフとなっている。庄内の山中の山桜の大樹、黄緑色の若葉と淡紅色の満開の花が見事な光景である。この山桜の大樹の下で、主人公の男女(東山紀之・田中麗奈)が出会うシーンから物語りが展開されていく。

 ここでちょっと映画を離れ、桜の木について触れてみたい。「櫻よ」(集英社文庫)を読むと、数多くある桜の種類の中で、派手な染井吉野より山桜が一番という人が紹介されている。作家の瀬戸内寂徳さん、「山桜の品の好(よ)さと、素朴な美しさは、桜の女王だと思う」。日本を代表する桜守の佐野藤右衛門さん、「人知れず咲く山桜こそ、最高の花見である」。

 少し回り道したが、凛として咲く・気高く咲く山桜のイメージが映画のイメージとぴったりだと思ったからである。映画に話を戻すと、満開の山桜の下で出会った男女は、剣の達人の武士と再婚した家で冷遇されている女性である。武士にはこの女性から求婚を断られた過去があるが、やがて悪事で私服を肥やす藩の重臣を斬り果たしたことから事態は急転する。

 武家社会の傍流ではあるが人間らしく正義を貫く武士、権力におもねて金貸しをする婚家で熱い想いを胸に秘めて生きるヒロイン。映画は現代的音楽をバックに、暗示的に終わる。果たして二人はどんな運命を辿るのか。

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『アメリカ便り(17)スローライフと免疫』
濱田 克郎

 アメリカで地方都市に行く時には途中で飛行機を乗り継ぐことが多い。多少の発着の遅れは珍しくはないが、たまに大幅に遅れて予定していた便に乗れないこともある。フルタイムで仕事をしている頃は、予定通りの便に乗れるかどうか際どくなると、焦ったり、イライラしたりするのが常であった。
ところが、失業後パートタイムでのスローライフを送るようになり 「焦ってもしょうがない」、「遅れたら遅れたなりに対応すれば良い」、「最悪の事態でも高々XX程度だろう」と思えるようになってからはじたばたしなくなった。
 こんなこともあった。嵐の中で機長がアトランタ空港へ数回着陸を試みたが下降気流(ダウンドラフト)で滑走路に叩き付けられそうになり、急上昇した後上空で旋回して機会を窺っていたものの、燃料切れ寸前になりアトランタ郊外の小さな空港に緊急着陸。滑走路が短く滑走路をオーバーランして漸く止まった。ここで給油してアトランタ空港に向け再離陸予定とのことであったが、機内に閉じ込められたまま2時間ほど経ってやっと離陸した。この間、腹が減った、予定通りに着かないと大変なことになる、どうしてくれる、等乗客は喧しく、客室乗務員がかわいそうになるぐらいであった。乗客の怒りや、ストレスは分かるものの、今の状況で乗務員に文句を言ってもどうなるものでもあるまい、墜落を免れてこうして無事であっただけでも有難いと思うことができ、気分は悪くはなかった。

 又別の機会の話。フロリダからアトランタには予定通り到着したが、フィラデルフィアに向かう便の機材の到着が遅れ、出発が1時間遅れるとの案内があった。1時間経つと更に1時間遅れる由。多くの乗客がざわつき文句が出るが、これは長丁場になるかもしれないと思いゲートに近いレストランでビールを飲みながら腹ごしらえを始めた。すると隣の席に一人の紳士が座り、ビールを飲み始めた。彼もフィラデルフィア便に乗る予定とのこと。お互い一人旅であり話は弾んだ。再々度遅れるとの案内があっても私は驚かない、できれば今日中に自宅に帰り着きたいが、無事に着くのであれば明日になるのも覚悟のうち、前述の経験に比べれば何のことはない、と思えばイライラしないのですよ。スローライフを生きるようになってこんな風に考えるようになってからは、風邪もひかなくなりました、ストレスマネジメントが大事だとも思っているなどと彼に話をすると、彼はにっこり微笑んでいる。「なんだか我意を得たりですね、明日からそういう話をする為にフィラデルフィアに行くところなのです」とおっしゃる。自分はジョージア州立大学の医学部の教授と名乗った。明日から、フィラデルフィアで開かれる全米の免疫学会に出席の道中との由。「ストレスは体の免疫力を抑制する働きがあります。その反対に、リラックスできるとか、ストレスマネジメントができる人は免疫の働きが良いのです。」

 案の定というか、飛行機は結局5時間遅れとなり、自宅に帰り着いたのは深夜で日付が変わっていたが、何だかすっきりした気分でありました。






 1945年8月14日、政府はポツダム宣言を受諾し無条件降伏しました。内務省によれば、戦死者は約212万人、空襲による死者は約24万人だったそうです。それから63年たちましたが、この間日本は、若返りにより大きく飛躍しました。しかし、最近は、世界的には存在感が薄れつつあり、国内社会的には無差別殺人の横行する等色々停滞感が漂う社会に移行しつつあるように思われます。これは、目標、希望がもてない時代のためとも言われており、現在の日本はあらゆる面で思い切った若返りによる大変革が期待されているのではないでしょうか。
 立秋を過ぎ、蜩のなく時期になりました。ボチボチ読書・観劇等のはかどる時期でもあります。日本の社会をよりよくするための評論どんどんお寄せください。
 今号も力作揃いの評論有難う御座いました。(HO)








 
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