明治の作家で後世に残るのは先ず漱石と云われている。
そこで誰もが一度は読んだと思われる漱石三部作の一つでストーリー性のある「三四郎」の読み直しをお奨めしたい。
「三四郎」は近代的で官能的な女主人公美禰子に対する野々宮と三四郎との男女関係と若い三四郎の心の揺れを描いた青春小説、心理小説と云われている。また、推理小説の様に伏線が随所に張り巡らされており、これを読み解くのが面白い。
例えば、冒頭に近い部分の「池の女」美禰子が池のほとりに登場するドラマチックなシーンは物語の展開から結末に至る迄の大きな伏線となっている。
一方では鋭い社会批評も行っており、漱石がモデルと云われている登場人物「広田先生」に「日本は滅びるね」と日本の将来を予見した過激な発言をさせている。(「三四郎」は日露戦争
の直後、明治41年 朝日新聞に掲載)
漱石は優れた英文学者の顔を持ち、絵画、建築に対する造詣が深く、漢籍に長じ、江戸趣味の人で落語にも精通していたと云う博識を余す処なく発揮している。
歳をとって改めて丁寧に読み込んでみると,若い頃見えなかった物や、行間,紙背にある漱石の思想や哲学が些かなりとも読み取れ、底知れない深みを感じさせられた。
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