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■2011年6月1日号 <vol.179>

書評 ─────────────

・書 評     『この命、義に捧ぐ
          
― 台湾を救った陸軍中将・根本博の奇跡』
            (門田隆将著 集英社)

・書 評     『経済危機のルーツ
          ― モノつくりはグーグルとウオール街に負けたのか』
            (野口悠紀雄著 東洋経済新報社)

・【私の一言】  『フロム ナウ オン』


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2011年6月1日 VOL.179


『この命、義に捧ぐ            
― 台湾を救った陸軍中将・根本博の奇跡』
 (門田隆将著 集英社)  

矢野 清一   



筆者は、社会人となって未だ間もない時期、昭和30年代半ばに当時勤務していた会社の社命により、台湾に駐在を命ぜられ、爾来、昭和54年までの間に3回、合計約15年間の長きにわたって同地に駐在勤務していた。
最初の赴任当時の台湾は、蒋介石率いる国民党政権が大陸から逃れてきて、国民党政権が統治していた時代であり、未だ第二次世界大戦後の影が強く残っていて、日本人駐在員も表面的には見えない監視下に置かれており、かなり窮屈な時代であった。ただ、筆者にとっては、生まれて初めての海外生活であり、又、当時から親日感情の強かった現地の取引先企業の方々や、現地の同僚に暖かく迎えられ、それなりに楽しい駐在生活であった。当時お付合い戴いた方々も、現在では筆者同様、或いは遥かにそれ以上のかなりの年配に達しておられ、半数以上の方々が既に他界されているが、ご存命の方々とは今に至るまで親しくして戴き、台湾と聞くと一入思い入れが深くなり、未だに忘れられない海外の一つである。
昨年末、台湾に同時期に駐在していた仲間から、紹介されて読んだのが、この本である。

著者の門田隆将氏は、ノンフィクション作家として、今までも多くの著作を出しているが、どの著書を読んでも、常に徹底的な事実の調査をしており、あくまでも真実を追求すると言う強い姿勢に何時も感銘を受けている。いわんや、台湾と言う舞台が描かれているこの著作においておやである。
台湾の駐在が長かったために、台湾の表裏の色々な事を知る機会が多く、所謂《白団》と呼ばれている、富田直亮元陸軍少将(現地名:白鴻亮)を団長とする、元日本軍の幹部グループによる蒋介石国民党軍への極秘の軍事顧問団が存在することも、その当時に知り、既に事実上の役割を終了して台北近郊に居住されていた富田氏にも何度か直接お会いしたこともあった。

所が、今回この本を読んで、極秘とは言え半ば公的な《白団》とは関係なく、元北支那方面軍司令官であった根本博元陸軍中将が、全く個人的な立場から密航して台湾に赴き、現在まで続く国共の境界線となっている、金門島・媽祖島の攻防戦で軍事的な支援を行い、その成果は非常に大きなものであったという事実を知って驚いた次第である。

蒋介石指揮下の国民党による台湾統治については賛否各論が存在する所であるが、第二次大戦後、蒋介石の率いる中華民国は、国共内戦の為の策略も或るとは言え、大戦後の中国大陸からの日本軍人や一般居留民の日本への引き上げに多大の理解と支援を与えた事は事実であり、この事に強く恩義に感じた人が居た事も事実である。その恩返しの為に大きなリスクを厭わずに、この種の軍事援助がなされていた事に痛く心を揺さぶられた。
又、筆者の浅薄な知識では、旧日本軍では、海軍は善玉だが、陸軍は悪玉だと一途にステレオタイプな思込みをしていたが、これは大きな間違いで陸軍の中にも今村大将や、この本の主人公の根本中将など、立派な軍人がおられたことを知り、又、海軍関係者も人によるものだと思う。
結局は、民間も軍もやはり組織は人間・人物次第であることを痛感した。

 

『経済危機のルーツ                
モノつくりはグーグルとウオール街に負けたのか』
(野口 悠紀雄著 東洋経済新報社)

石川 勝敏   



著者 東京大学卒、東京大学教授、早稲田大学ファイナンス研究科教授
日本はここ20年経済停滞が続いている。1人当たりGDPでみると、1993年は、1位日本、2位アメリカ、3位ドイツ、4位イギリス、5位アイルランドであったのが、2007年には 1位アイルランド、2位アメリカ、3位イギリス、4位ドイツ、5位日本、になっている。日本では倒産、リストラ、高失業率、就職氷河期で社会に閉そく感が漂っている。
リーマンショック以降金融立国モデルは破綻したという人は多いが、アメリカの金融業界は、回復しつつある。JPモルガン、ゴールドマンサックス等大手6社は危機時に注入された公的資金を完済し、最近の4半期ごとの黒字収益は大きい。

中国、インド等の新興国は急速な経済成長を続けている。これはアメリカ、日本等への輸出に支えられ、今農業社会から工業社会への転換に伴う急成長中である。これは日本でも経験した事である。
一方、日本やドイツの産業立国モデルは破たんに近い。余剰設備の整理は簡単ではない。円安頼り、輸出頼りになっている。新興国市場の開拓が望ましいが、新興国の1人当たりGDPは日本の10分の1以下であり、完成品の輸出品は限られてくる。雇用が確保できない。
日本のGDPは伸びないが、アメリカは1990年以降で2.5倍になっている。日本は1.1倍。

日本の経済停滞の原因は、1990年以降の世界の大変化に日本が対応出来ていないことにある。
第1に、冷戦終結と中国の工業化は、経済的に見れば製造業の労働者が急増
した事であるが、日本の対応は不十分であった。
第2に、金融とIT(情報技術)の面で大きな変革が生じた。アメリカやイギリスの経済活動は一変したが、日本は否定的な態度をとり続けた。
第3に、日本は新しいグローバリゼーションに対応出来ていない。日本では物の輸出のみであり資本と人的資源にについて鎖国状態を続けている。未来を開く推進力となるべき企業が変革の意欲を失い、これまでのビジネスモデルを維持する事に汲々としている。

ではどう対処すべきか。脱工業化社会への道筋を探求すべきである。
第1に、古いもの生き残りや現状維持を支援しない事である。このままでは生き残れないと認識することが変革の最大のインセンテイブになる。
第2に必要なのは21世紀型グローバリゼーシヨンを実施する事である。日本の社会を世界に開く事で、最も有効な刺激は海外からのものであるからだ。ただし、その実行は社会構造の大きな変更を伴うものになる。
第3に、必要なことは教育である。現在必要な事は中国の前を歩く事である。その為には自己の能力を高める必要がある。人材育成について、もっと議論すべきである。

以上が本書の概要であるがグローバル化した世界経済の中での日本の位置づけを確認し、それに対応した経済政策を採る事を主張している。
その他1970年台以降の世界の経済分析や金融技術の解説もあり、大いに考えさせられる著書である。ご一読をおすすめする。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『フロム ナウ オン』
 幸前成隆 


人生は、これからどうするかが問題。
「過ぎたことはいい 大事なことは今日から先(相田みつを)」。「フロム
・ナウ・オン(大屋晋三)」。「人生は今日が始まり(田中真澄)」。「毎
日、毎日、今日が始まり(石垣綾子)」。「いつも今が始まり(織田五二七)」。

人間いくつになっても、常にこれから。
「人生の本舞台は、常に将来にある(小島直起)」。「これからがほんとの
勝負。まだまだこれから(山田恵諦)」。「人生に、余生や残生はない(会
津八一)」。

人生は夢を追い、理想を求めて、一生努力する旅。夢がなくなったら、おし
まい。
「夢みることをやめた時、その人の青春は終わる(宮沢次郎)」。「望み心
に満つれば、人老ゆることなし(鶴見祐輔)」。「自分に打ち込めるものが
あるうちは、まだまだ青春期(平山郁夫)」。
「烈士暮年、壮心やまず(曹操)」。「八十には、八十の夢がある(関牧翁)」。
「明日に夢を持て。夢を持つということが、人生においてどんな大切なこと
か(松下幸之助)」。「夢追い人の生涯でありたい(西岡光秋)」。

「愛宕山入る日の如くあかあかと燃し尽さん残れる命(西田幾太郎)」。
「生きているうち はたらけるうち 日のくれぬうち(相田みつを)」。

 

 

最近の朝日新聞の記事に、復旧が難航している福島第一原発について都内の元技術者が独自に暴発阻止行動隊として60歳以上の高齢者に作業への参加を呼びかけたところ5月23日までに165人の応募があったとの記事がありました。
実現はこれからですが、趣旨は「年齢的にも放射能の影響が少なく、これまで現場で技術や能力を蓄積してきた力を発揮し次の世代に負の遺産を残さない」ためということです。
高齢化社会は、高齢者も年齢相応に社会に貢献することが円滑な社会を築く不可欠の条件です。「人生に、余生や残生はない」(会津八一)のです。
私は、これは近来稀に見る快挙であると思っており、可及的に実現することを祈っていますが。

本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)





 
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