日野原氏には多くの著書があるが、本書は俳人の金子兜太(かねことうた)氏との対談である。日野原氏は99歳、金子氏は91歳、それぞれの道で生涯現役を目指している。対談の進行役を務める俳人の黒田杏子さんの言葉を引用すれば、「世紀の怪老人対談」。まことに妙を得た表現だと思う。
白寿ドクターと卒寿俳人の元気でたっぷり生きるパワーは、いったいどこから生まれるのだろうか。読進むうちに一つの共通点にたどり着く。それは、人生の転機となるような出来事との遭遇である。
日野原氏の場合は、10歳と21歳の時の大病、さらに、乗客として巻き込まれた「ヨド号ハイジャック事件」の体験。金子氏の場合は、大量の戦死者や餓死者を出したトラック島からの「九死に一生」の体験。この体験から自分の命は神様から与えられたものという感謝の気持ちが生まれる。同時に自分の力以外の力があるのではないか、という自信も生まれる。
対談は、上述の体験談をはじめ人生の数々の出会い、いのちの問題、アニミズムと俳句、健康と日常生など、さまざまな話題に広がっていく。人生の達人の一語一語の重さの中に、何歳になっても新しいことを創(はじ)メルコとの大切さや受けた恩に報いたいという強い「気(スピリット)がつたわってくる。
「それでは5年後に、またお会いしましょう」という日野原氏の結びの言葉。すっと読むと当たり前のうに感じるが、よくよく考えると大変なことである。まさに、怪老人である。