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■2009年5月1日号 <vol.129>
書評 ─────────────

・書評    稲田 優 『ドナウの叫び −ワグナー・ナンドール物語−』
            (下村徹著 幻冬舎)

・【私の一言】川井利久  『春を待つ』

・【私の一言】クレア恭子 ロンドン便り(4)  
            『クレジット・クランチ下の女王陛下』






2009年5月1日 VOL.129


 

『ドナウの叫び  −ワグナー・ナンドール物語−』
著者下村 徹     出版社:幻冬舎

稲田 優    

 これはハンガリーの孤高の天才彫刻家ワグナー・ナンドール(1922ー1997年) の一生を綴ったノンフィクションである。
第一次大戦後、オーストリア・ハンガリー帝国は解体されトリアノン条約によって独立したハンガリーは、領土の三分の二を失った。
その終戦4年後に生まれたワグナー・ナンドールは、幼少の頃から祖父や父母に日本の武士道や日本の倫理観のすばらしさを教え込まれ、日本人女性千代と再婚し、日本に移住してアトリエを建て、日本に帰化して75歳でその生涯を閉じた。
波乱万丈の冒険物語であり、ソ連共産党支配の東欧の国々の悲惨、われらの親の時代まで大事に培ってきた日本人の倫理観、また彫刻鑑賞眼の国民性の相違などが自然に盛り込まれた、珠玉の本である。

 ワグナー・ナンドールが彫刻の才能を発揮するのは首都にあるブタペスト国立美術大学に入学して彫刻を専攻したときからだが、折しも始まった第二次世界大戦の時局に誘われて軍隊を志望して戦場に出てゆく。
戦場では数々の戦功をたてて、軍人最高の勲章まで受賞してしまう。
戦後はハンガリーの美術館の設計、改築、新築の仕事や、彫刻の制作活動に打ち込むが、1956年のハンガリー動乱の際は反政府運動の最高指導者12人の一人に推されて活動し、ためにソ連共産党に追われることになり、妻子を連れてスウェーデンに亡命する。

 スウェーデンでは経済的に困窮するほか、結婚当初からソリの合わなかった数学者の妻と別居する不幸が重なるが、逆に多くの絵画、彫刻を創作する。その後スウェーデンのルンド大学に教えに来ていた日本人教授の夫人、千代との出会いがあり双方苦労して結婚にこぎつける。

 1969年、ワグナー・ナンドールと千代は日本に移住し、栃木県益子町にアトリエを構えることとなるが、最初にワグナー夫妻に住居、アトリエ用地を斡旋した地元民の詐欺的商売に引っ掛かり、小さいころから畏敬の念を抱いていた日本人の倫理観の荒廃に少なからず落胆する。

 彼の死後、その彫刻はハンガリーの国民的賞讃の的となって各地に建立されたが、日本人の間ではまだよく知られていない。
彼が、「21世紀中には理解されることはないだろう」と予告したとされる数体の彫刻群、「哲学の庭」を是非一度鑑賞してみたいと思う。
世界の中で日本人が一番早く理解できる彫刻かも知れないという予感がする。


 





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『春を待つ』
川井 利久

 夏の日にあんなに茂っていた、木々の葉っぱが一枚残らず散り果てて久しい。来る日も来る日も骨に沁みる寒さ。曇り空。

 身も心も低温のためか、鈍重になって、無感動に時が流れて行く。鳥たちや虫たちの歓びの声はどこに行ってしまったのだろう。雲の輝きや心地よいそよ風は?地面は冷たく凍りつき、去年からの枯れ葉に覆われている。少し暖かい日があった後の戻り寒波のこたえること。暦と現実の気候のギャップに腹をたててみたりする。まどろみのなかで、日の光や小鳥の囀りを夢想する。いい季節の時間の経過に較べて、この季節ののろさにいら立ちを感ずる。しびれをきらして、コートの襟を立てて外にとびだしてしばらく歩くと、思ったほど寒くはなくて、ほっとする。どこからともなく、いい香りがして、白梅が一二輪ほころんでいるのが見える。つややかな緑の葉っぱの陰にあざやかな紅の山茶花が咲いている。寒さにいじけていた気持ちが恥ずかしいような凛とした風情だ。桜の蕾はまだ堅い。しかし心なしか少しふくらんだようにも見える。沈丁花の蕾はもうすぐにはじけそうにふくらんでいる。

 3月にはいると日の出がすこしずつ早くなって自然は動き出す。梅が香り、柳がほんのり緑色を帯び、笹啼きしか出来なかった鶯がけきょけきょと鳴き始め、桜の花が開くのも近い。

易経に易の三義、つまり変易、不易、易管というのがある。
変易というのは、森羅万象ひと時たりとも変化しないものは無いことを意味し、不易とは変化には必ず一定不変の法則性があること、易管はその変化の法則性を人間が理解すれば天下の事象も知りやすいし分りやすいということを教えている。

 宇宙も、自然も人生も必ず不変の法則性をもって変化している。冬来たりなば春又遠からじである。
世界も日本も刻々変化している。春は近いか。早く春よ来い。

 

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ロンドン便り(4)『クレジット・クランチ下の女王陛下』
クレア恭子

 “女王は皆様をガーデンパーテイーへ御招待!” 大きな見出しが目に飛び込んだ。

 4月から6月までバッキンガム宮殿の庭が有料公開されることになったのである。大人料金は20ポンド。事前予約で15人から20人位のグループにエスコートが付き 宮殿の裏庭を約1時間半散策できる。庭の広さは約40エーカー、バラ園に 350種以上の花 150種以上の木々 中央の池では、多くの水鳥が見られる。 もちろん ロンドンで一番大きな裏庭である。

 昨年9月、屋根の補修や各種費用の増加を政府に申請したところ、銀行国有化第一号の発生した折で‘国民が経済不安に陥っている。節約するとか自己努力で収支を改善するよう。’と政府は一蹴、メデイアも‘女王は戦時中の倹約精神を御存知のはず’と冷たい反応だった。

 思えば 夏のロンドン観光の目玉のひとつに宮殿見学が定着して久しい。これは1992年にウインザー城の教会が火事になり、その復興費用を捻出する為に開始された。 だが 好評に応えてか 費用回収後も継続し、土産物店に各種グッズを置き 立派な事業に成長している。労働党政権下、女王といえど国民の血税をあてにできない。 裏庭公開もこの延長のようである。
 女王はスロヴェニア公式訪問の際に20年前にもらった生地の夜会服を召された、又 アン王女は1981年製作のドレスと帽子で27年後の公式行事に参加と倹約の写真が並ぶ。体型がふっくらとしているものの 確かに 同じ服である。私もこれにあやかり クリスマス・パーテイーには手持ちの服で出かけた。 古さにヒケは取らない。

 ただ 最近になって政府は内需拡大の大号令。消費を控えると小売店がやっていけず、製造業に影響が出、一次産業へも余波となり国の経済が停滞すると解説。倹約家で かつ 投資資産の価値が37%も目減りした、といわれる 女王陛下。 国のために 今後 如何に対応されるのかしら、と 新聞に注目している。






 雑節のひとつに八十八夜があります。これは立春からかぞえて88日目に当たる日で、春から夏に移る節目の日、夏への準備をする決まりの日、縁起のいい日とされています。
 「八十八夜の別れ霜」というように、遅霜が降りる心配もなくなって安定した気候となり、茶摘み、苗代のもみまき、蚕のはきたてなど一般に農作業の目安とされています。
 今年の八十八夜は5月2日。私たちを取巻く諸環境も、この日を境に好転すればいいのですが。
 ご多忙の中 、多様な観点からのご寄稿有難う御座いました。ゴールデンウイークを元気にお過ごしください。(HO)








 
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