文庫版で改めて日本の政治を振り返ってみることとして戦後60年、そのうち50年を占める自民党の政治の本質を究めてみたいと思った。
その政治を動かしたものは理論、学説、道徳の類ではなく、もっぱら人間と人間との好き嫌いといった情念であったと著者は喝破している。
戦後政治の特色は、戦前よく見られた井戸塀政治家による政治とは全く異なり、カネを動かすことによって行われたと言ってよい。それを創始者として始めた金権政治家は岸
信介から始まり、池田、佐藤を経て金権の象徴ともいえる田中角栄、および彼をキングメーカーとして誕生した中曽根、中曽根裁定で誕生した竹下、経世会なる田中スクールの橋本、小渕と続いて行く。かって田中が福田と争った総裁選で動いたカネは百億とも百五十億とも言われ、カネこそが権力の根源といわれる時代にあって、田中派という大派閥(最盛期には143人)が日本の政治をほしいままにしたと言ってよい。
政党助成金の無い時代、財界は膨大な資金を自民党に献金したが、正規の党の活動資金のほか派閥の長は行政への口利き、ユウレイ会社による資金作りによって自らのカネを動かし、自分の政治力の源泉としたのである。ロッキード事件の5億円はそのホンの一部に過ぎない。サントリーオールドなどの堅いウィスキーの箱には丁度1千万円が入るそうで、カネを手渡すのに大変便利だったという。
本書のかなりの部分が田中の秘書としての佐藤昭子、田中が病に倒れてからの田中真紀子の描写に費やされているが、女に絡む情念の世界も無視することは出来ない。
総選挙を前に、農政、郵政、道路などの利権が政治と結びつき、いかに日本の政治が歪められてきたか冷静に見極める必要がある。そういう点から改革は絶対に避けられない途と言えよう。
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