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2005年9月15日 VOL.42

 

 

『14歳からの哲学』
著者:池田晶子 出版社:トランスビュー社 

片山 恒雄  
 先日の読売朝刊に、「人はどうせ死ぬのに、なぜ生きるの。」と小学4年生の息子に聞かれた母親が、どう答えていいかと相談を寄せてきた旨を報じていた。進化生物学専門の東大の先生は、40億年にわたる生命進化の末端につながる「わたし」を実感させたうえで、幾つかの本を紹介していたが、私なら躊躇することなく本書を紹介する。
 本書の構成は、前半が14歳向け、後半が17歳向けに分かれており、著者が少年に語りかける平易でくだけた文体で貫かれている。主な内容をあげると、「考えるとはどういうことか」から始まって、「自分とは誰か」「死をどう考えるか」「友情と愛情」「将来仕事とどう向き合うか」「宇宙と科学」そして最後に、「人生の意味」「存在という謎」といった哲学的な命題で終わっている。一例を挙げると、「友情と愛情」の章では、「ほんとうの友情、ほんとうの友達が欲しいけどいないと悩んでいる人が多いみたいだ。自分の孤独に耐えられないということだね。しかし、自分の孤独に耐えられるということは、自分で自分を認め、自分を愛することができるということだ。自分を愛することができない人にどうして他人を愛することができるだろう。一見他人を愛しているように見えて、実は自分を愛してくれる他人を求めているだけで、その人そのものを愛しているわけではない。愛してくれるなら愛してあげるなんて計算が愛であるわけがないとわかるね。」ざっとこんな具合である。みずみずしい脳がこの言葉をどう感じ取るか。
 14歳といえば、中学2、3年生。幼少期を漸く脱して、両親の干渉をうっとうしく思いつつも、これから入っていく大人の社会に一抹の不安を感じている。その一方で、異性への憧れ、性への好奇心、いろいろな劣等感、友情についての悩み、進学問題、将来のおぼろげな人生設計などで心は大きくゆれている年頃である。そんな時期にこの本を読んだうえで成人期を迎えるかどうかで大げさに言えば、より深い人生を生ききるか決まってくるのではないだろうか。さりとて、大人でも新鮮かつ興味深く読めるところに、本書の素晴らしさがある。年齢を気にせず、ぜひ一読をお勧めする。




『政治と情念 権力・カネ・女』
著者:立花 隆 訳:岡谷公二 出版社:文春文庫

川村 清 

 文庫版で改めて日本の政治を振り返ってみることとして戦後60年、そのうち50年を占める自民党の政治の本質を究めてみたいと思った。
 その政治を動かしたものは理論、学説、道徳の類ではなく、もっぱら人間と人間との好き嫌いといった情念であったと著者は喝破している。
 戦後政治の特色は、戦前よく見られた井戸塀政治家による政治とは全く異なり、カネを動かすことによって行われたと言ってよい。それを創始者として始めた金権政治家は岸 信介から始まり、池田、佐藤を経て金権の象徴ともいえる田中角栄、および彼をキングメーカーとして誕生した中曽根、中曽根裁定で誕生した竹下、経世会なる田中スクールの橋本、小渕と続いて行く。かって田中が福田と争った総裁選で動いたカネは百億とも百五十億とも言われ、カネこそが権力の根源といわれる時代にあって、田中派という大派閥(最盛期には143人)が日本の政治をほしいままにしたと言ってよい。
 政党助成金の無い時代、財界は膨大な資金を自民党に献金したが、正規の党の活動資金のほか派閥の長は行政への口利き、ユウレイ会社による資金作りによって自らのカネを動かし、自分の政治力の源泉としたのである。ロッキード事件の5億円はそのホンの一部に過ぎない。サントリーオールドなどの堅いウィスキーの箱には丁度1千万円が入るそうで、カネを手渡すのに大変便利だったという。
 本書のかなりの部分が田中の秘書としての佐藤昭子、田中が病に倒れてからの田中真紀子の描写に費やされているが、女に絡む情念の世界も無視することは出来ない。
 総選挙を前に、農政、郵政、道路などの利権が政治と結びつき、いかに日本の政治が歪められてきたか冷静に見極める必要がある。そういう点から改革は絶対に避けられない途と言えよう。





ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

アメリカ便り(6)― ジョーンとリッチ
濱田 克郎
 レストランで一人食事をする時にはバーのカウンターに座ることが多い。気分が向けばバーテンダーと話をすることもできるし、見知らぬ人と話をすることもできるからである。
 フロリダの小さな町のレストランでいつものように食事をしていたら、一つ離れた右隣の席に中年男性が座った。背はそう高くはないががっちりした体格で見事に日焼けしており禿頭。名前はリッチだという。しばらくして、一つ離れた左隣の席に初老の男性が座った。こちらはかなり細身で中背、白の多い胡麻塩頭。名前はジョーンだという。
 リッチはアラバマ出身。フロリダに引っ越してくる前はジョージアでひとかどの事業を経営していたらしいが、離婚し事業もやめて今は一人で小さな家に住んでいるらしい。好きな潜水のインストラクターをしながら糊口を凌いでいると話してくれた。
 ジョーンはコネチカット出身。なにやら大手企業の幹部だったらしいが、退職してフロリダに豪邸を買い求め、移住してきたという。三年前に買った家は今では二倍の値がついているという。何だかアメリカの退職前の多くの人々があこがれている生活の典型である。
 私が定職を失った後フロリダのこの辺にきてから気持ちに余裕が出てきたこと、気分が平和になったことをジョーンに話したところ、温厚そうな彼の顔色が少し青ざめ、“気分の平和なんて信じられない。俺は毎日がつまらなくて仕方がない。リッチあんたはどうだね。”と問いかけた。どうもフロリダに来てから奥さんと離婚したか死別したかで今は一人暮らし、それ故一人でレストランのバーカウンターに来ているらしい。リッチはこう言った。“俺はカツ(私)と同じだね。そして毎日を楽しく暮らしているよ。自分は仕事も一生懸命やった。家族のことも精一杯面倒を見てきた。娘も大学までやった。離婚して寂しく感じた時期もあったが、これからの人生は自分のために、自分で好きなように生きればよいと思ってからは気分が平和になった。確かに経済的には楽ではないがちゃんと食べられるし、健康で自由に好きなことができる。それ以上何を望むかね。”
 ジョーンは、“自分は仕事一筋で生きてきたので趣味がないし、好きなことが何かも自分でわからない。おまけに恥ずかしがりやだからここには知人も少ない。どうしたらよいかね。”と今度は少し落ち着いた口調で聞き返した。
“キーウェストに行きゃ良い。あそこに行けば美しい景色に会える。魚は美味いし酒は美味いしきれいな女性はいるし殆どの人は幸せな気分になれるよ。”とリッチ。道順と泊まり場所の概略も教えた。私はジョーンと時々ここで会おうと約束して別れた。今度会ったらどうだったか聞いてみよう。






 
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