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■2010年12月1日号 <vol.167>

書評 ─────────────

・書評    石川 勝敏 『不安を希望に変える経済学』
              岩田 規久男著 (株)PHP研究所

・書評    桜田 薫  『小室直樹の中国原論』
              小室直樹著 講談社

・【私の一言】 川井 利久 『ミドルエイジ・クライシス』


 




2010年12月1日 VOL.167


『不安を希望に変える経済学』 
(岩田 規久男著  PHP研究所)

石川 勝敏   


著者は学習院大学経済学部教授。この図書の副題は{日本はまだ成長できる。}と付けられている。1990年代から続くデフレの中で日本経済は経済成長率が低迷し、不況、円高、労働力減少、高齢化等将来への不安が高まっている。著者によれば日銀が2〜3%のインフレ目標を設定し、国債の日銀引き受けを実施すれば2〜3%の経済成長は達成できるとしている。同時に政府が生産性向上のための競争政策をとれば経済の活性化を得ることができる、とする。

橋本、小泉内閣以来日本は規制解除、国営企業の民営化等規制改革を数多く実施してきたが、国全体の経済は活性化されていない。デフレが続くなかで規制改革を進めても大きな効果は得られない。経済が成長する中でこそ改革は効果をあげ得る。日銀の国債買い入れは原則禁止事項である。ただし、国会の議決を経た範囲内では可能である。(日銀法34条)
昭和恐慌から日本が早期脱出できたのは高橋是清蔵相の国債日銀買入れ政策によるものであり、日本で既に経験済みの事である。いろいろと経済対策や規制撤廃を実施してきたが、この長期にわたるデフレに対して実施していないのは日銀による国債買い入れである。デフレを止める事がまず第一に必要なことである。

世界でインフレ目標政策と競争政策を実施して、経済成長に成功している国はニュージーランド、オーストラリア、サッチャー政権以後のイギリス、カナダ、スエーデン、ノールウエイである。アメリカも一時期成功したが銀行の暴走で失敗した。各国とも異常なインフレは起こっていない。
国債残高の膨張、十数年続くデフレ、低経済成長、労働力人口の減少、高失業率、高齢化、年金財政、不毛の農業林業政策、産業の空洞化等、日本の抱える問題は緊急の課題ばかりである。これ等の非常に困難な諸問題は経済成長抜きでは解決できないであろう。     
日銀の不作為が問われている。著者はその他に、都市再生と女性労働の活用、高齢化にふさわしい税・財政と年金改革について多くの提言をしている。一気に読める本である。ご一読をお薦めする。


『小室直樹の中国原論』 
(小室直樹著 講談社)

桜田 薫   

中国について情報は有り余るほどある。豪華な高層ビルが立ち並ぶ街には広い高速道路が広がり、ベンツやBMWが多数走っているのを見ると旅人はこの国のエネルギーに圧倒される。 しかし矛盾に満ちた社会や政治制度から国の先行きを不安視する声もある。一党独裁の政治、格差社会の拡大、地方での暴動の多発、水不足や環境問題などが存在することは事実だが、これからの中国の行方を考えるには、その歴史から学ぶことが多い。
奇矯の天才と称されて今年亡くなった著者は、華麗な学歴から読めるように古今東西の文献に通じ、中国史の科学的な分析によって現代の中国と中国人の正しい理解の仕方を説いている。それは時代や状況を問わず通用する理論で、共産革命があっても中国の歴史を貫徹している社会法則は不変であるとして、外交や商売で中国と向き合う人が知っておくべき本質が提示されている。日本人には簡単に理解できない人間関係、法律に優先する仲間内の規範、賄賂の意味など中国に進出する事業者が心得ておくべき常識がある。特に契約についての誤解がある。中国では契約は交渉の始まりであり、それから深まるであろう人間関係のスタートにすぎない。中国人は契約を守らないという話はしばしば耳にするが、資本主義社会の契約とは意味が違うということであって、この国では契約違反をしても罪悪でもないし、社会的制裁も受けない。

このように特異な慣習や規範をもつ中国を理解する鍵はその歴史にある。 それは先ずタテの共同体たる「宗族」(そうぞく)とヨコの共同体たる「幇」(ほう)で構成される中国社会、その軸になる人間関係を理解することだ。中国では人間関係がすべてである。人間結合の段階によって知人ー関係ー情誼―幇 の4レベルがあり、その段階によって契約の意味も変わる。単純化すれば、情誼のレベルでは「管鮑の交わり」、さらに幇のレベルになると三国史の「劉邦と関羽」の関係のように人間結合の度合いが深いので契約など必要がない。口約束だけで安心できるというわけだ。中国を徹底的に理解するには「幇」を理解するのが基本と著者は断言する。
このほか市場経済といっても「一物一価の法則」が成立していないこと、自由主義経済の特徴である「破産」が起きにくい仕組みになっていることなども紹介されているが、出版から15年経って変わったこともあるかもしれない。国有企業が大半だから赤字が続いていても国家権力が発動され、これも大多数が国有の銀行が金融支援をする仕組みは変わっていないのではなかろうか。いろいろと我々には不可解なことが多い国だが、この本を読むと幾らか理解が進むことは確かだ。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『ミドルエイジ・クライシス』
川井 利久

日本社会が成長路線から大きく方向転換をして停滞を余儀なくされた1990年代に社会に出された現在の30〜40歳代の就職氷河期の3人に1人は臨時雇いか失業者で塗炭の苦しみの中で人生の盛りを迎えようとしているのに正規雇用も結婚もできずに苦しんでいる実情は社会問題だ。

現在の日本社会は人間を生鮮食料品扱いで採れたてでなければ採用されない因習が根強い。彼らを放置すれば今後半世紀に渉っていろいろな方面で負の問題が発生するであろう。この問題は高齢者対策に優先して国家プロジェクトとして対策を早期に実行する必要がある。

今までのように競争社会の敗者扱いで糊塗するべき問題ではない。大きな時代の変革の中の社会災害として取り上げるべき問題である。
製造業の大規模な海外移転が時代の趨勢となってサービス業、金融業など第3次産業しか成立が難しい時代に突入すれば大量の中産階級は失業を余儀なくされる。

アメリカは今それで苦しんでいる。金融業のモラルを失した金融ゲームがリーマンショックとなって、世界経済を混乱させた。
健全な中産階級が夢を持って生活できる社会がよい社会と言える。
早急にこれらミドルエイジを救うには国家プロジェクトとしてすべての求人先の10%をミドルエイジに振り当てることを義務化することである。
長期には製造業の求人減は農業、林業、漁業、自衛隊にシフトする必要がある。

食糧自給率を上げ、国土の緑を守り、養殖技術によって漁業を活性化させ、自力で国を守れる国にするために若者を鍛え上げて健全で夢のある社会を再生する必要がある。

 

 

今年も師走を迎えました。今年の日本は、政治的にも経済的にも洋上を漂流する難破船のようで方向性を失った1年であったように思えます。
来年は、辛卯(かのと・う)ですが、辛は辛苦、辛酸などに使われ、この干支の年には過去には辛亥革命、辛酉革命など下克上があった激しい年でありました。さらに、卯年には暗殺、自然災害が多いということです。坂本竜馬が京都において殺されたのは慶応3年、ケネディ大統領が暗殺されたのは昭和38年、いずれも卯年でありました。

来年こそは希望の年にしたいものですが…。

今号も多面的な時宜を得たご寄稿有難うございました。(HO)






 
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