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■2009年2月1日号 <vol.123>
書評 ─────────────

・書評   片山恒雄『出来そこないの男たち』 
                福岡伸一著 光文社新書
・書評   矢野寛市『松江藩の財政危機を救え』
                乾隆明著 松江市教育委員会

・【私の一言】  クレア恭子 『ロンドン便り 混雑税』






2009年2月1日 VOL.123


『出来そこないの男たち』
著者福岡伸一著    出版社:光文社新書

片山 恒雄  

 以前この欄でご紹介した同一著者の「生物と無生物」を読んで感銘を受けた私は、本書を見つけたとき中身も見ずに買ってしまった。ミクロの世界において生化学の分野が顕微鏡から発展して遺伝子レベルまで進歩し、ゲノムDNAの全設計図が解き明かされた今、人類の前に大きな世界が見えてきた。

 たとえば、人間の男性と女性はどう違うのか。胎児が母体の中で成長していく過程で明らかになったのは、女性こそがすべての機能を兼ね備えている人間にとっての基本仕様であり、男性の身体は、それを取捨選択して改変されたカストマイズ(作り変え)であるということであった。このプロセスで負荷がかかり、急場しのぎの変更が男性の身体を不細工な仕上がり具合にしてしまったのだと。だから、アダムの肋骨からイブを作ったのではなく、イブが、後になってアダムを作り出したのだという。

 男性の寿命が女性と比べて短いのは、ストレスなどとは関係なく、身体構造から来ている。すべての男性の役割は、母の遺伝子を娘のところに運ぶ使い走りであり、人類の歴史は女性という太くて強い縦糸の間をつなぐ細い横糸にすぎないという。

 また、人間は、考える葦ではなく、考える管(くだ)だという。言われてみれば確かに口から肛門まで一本の管が全身を貫いている。トポロジー(位相幾何学)的にはドーナツやちくわと同じ形態である。そしてそれ以外の耳、毛穴、尿道、膣などすべて行き止まりの袋小路である。それは、人間がミミズなどの下等動物から進化したことの証しでもある。管はいろいろの役割を担わされているが、女性の尿道と子宮・膣・卵管などは、別々の管が用意されているにもかかわらず、(ウォルフ管とミューラー管)男性の精管と尿道はウォルフ管一本で間に合わされている。つまり女性のほうが分化が進んでおり、高等なのである。読んでいてだんだん気分が落ち込んでくる。このあたりまで読んで、本書の題名の意味が解ってくる。

 しかし、最後に著者は、出来そこないの男たちに対する唯一の生の報償として、射精感が加速感と結合することが選ばれたという。そういえば、若い頃思い切りアクセルを踏み込んだときのずしんと来る高揚感を思い出した。


『松江藩の財政危機を救え』
著者乾隆明  出版社:松江市教育委員会
 

矢野 寛市  

 不昧公の呼び名で親しまれている松江藩主の松平治卿は、不昧流という茶道を興した風流人と思われているが、実は財政破綻の危機に瀕した松江藩を建て直し、出雲を日本で一番豊かな国にした大変な名君であった。

 17歳で藩主になった治卿は、家老の朝日丹波と共に藩政の改革に乗り出すが、第一段階として行ったことは、

1、江戸屋敷のリストラにより藩の支出の半分を占めていた奥向きの経費を三割に押さえ込んだ。国許でも御徒組以下968人を失職させるなどの大リストラを行っている。

2、大阪の御用商人から調達していた500万両に上る借入金について、年貢米を一手に取り扱わせる特権を与えて、金利は払わず元金を70年間で返済することにした。(驚いたことに藩民同士の債権債務を全て無効にするという無茶なこともしている。)

等々であり、これらにより藩の収支を均衡させることが出来た。

 第二段階として行ったことは殖産振興であるが、これが並大抵のものではなく、多くの専売事業により莫大な収入を得ることができるようになった。

1、出雲の全域に亘って薬用人参の栽培を行い、長崎経由で中国や東南アジヤに輸出した。後には薬用人参から得た収入が禄高に匹敵するという信じ難い成功を収めている。

2、その他、ロウ,鉄鋼、鍋釜などの専売事業も大いに実効を上げた。

3、木綿は専売とはしなかったが一大産業となり、一式飾りで有名な平田町は木綿の集積地として目覚しく発展した。

 現在の貨幣価値に換算して1,500億円とみられる500万両の大借財は73年掛けて見事に完済された。財政に余裕が出来ると租税負担も軽く出来る。藩民の生活は他藩から羨ましがられる豊かなものとなったのである。





ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『ロンドン便り- 混雑税』
クレア恭子

  ロンドンの金融街シテイーを含む市の東半分に1日5ポンドの混雑税が導入されたのは2003年2月。 渋滞緩和と大気汚染防止を目的に徴収した料金は公共交通機関投資へ還元する - 現代理想論の実現であった。

 5年後の統計では 交通量21%減、7万台の乗用車削減。地下鉄利用者は年間10億人に達し バス利用4%増、自転車利用43%増。 当時のロンドン市長は 「ロンドン市は戦後最大の投資の結果、世界の大都市の先駆けて 車から公共交通機関利用へ市民の足を移動させ、公害と渋滞解消に成功した。」と発表した。

 確かに導入直後のシテイの道路は車両が激減、黒キャブはスイスイと走れた。ただ バスの急増で便利になった反面、多くの路線が重複する繁華街のリージェント・ストリートやボンド・ストリートでは赤い2階建てバスが数珠繋ぎとなる。 また ヴィクトリア時代の下水を近代化させる水道局の工事を始め 悠長な道路工事に渋滞が恒常化。域内の買い物客は激減し、中小の店はもちろん、大手百貨店も抗議運動。母親族は 「3人の子供を別々の学校へ通学させるのに乗用車は必要不可欠。経済負担は不公平。」と非難。

 しかし、2007年2月 市は さらに 約246億円を投入して、西側へ 範囲を拡大する。 結果 域内の住民へは9割引きの恩典がつくので それまで乗用車利用を控えていた人達が これ幸いと利用復活。車両減の効果はほとんど無くなってしまい、翌年5月の市長選では、混雑料見直しが争点の一つとなる。 そして 2008年11月、新市長は 住民と検討した結果西延長域を2010年を目処に廃止の方向と発表。

 このUターンは 英国第二の大都市 マンチエスター市民に影響しないわけがなく、12月初めの住民投票は53.2%の高率で うち80%が混雑料プロジェクトを「自動車利用者への不公平課税」と位置づけて否決。
 ‘混雑料’は‘世界の大都市へのお手本’どころか、ロンドンの名物として 市の一部にだけ 生き残りそうな気配である。






 12月15日号と1月15日号で掲載した岸本新兵衛氏の『中央集権の終焉と自然な生活の復活』はいかがでしたでしょうか。長文でありましたが現在のわが国の諸課題を解決する有意義な提案であったと思います。今号から従前のスタイルに戻ります。今号は最近の世の中の話題に関連する書評一言を頂きました。有難う御座いました。
 所で、27候によると節分を過ぎると東風解凍(はる風凍りを解く)時期に入ります。春が近いということです。お元気にお過ごしの上揃ってご寄稿ください。(HO)

追伸:「評論の宝箱」創刊以来多数のご寄稿をいただいだ後藤田紘二様が先日ご逝去されました。生前のご支援に御礼申し上げます。ご冥福を心からお祈り申し上げます。









 
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