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■2008年5月1日号 <vol.105>
書評 ─────────────

・書評 石川勝敏 『高瀬舟、続高瀬舟』
           渡邉貢二著 崙書房 ふるさと文庫
・書評 矢野寛市 『20世紀美術』
           高階秀璽  ちくま文芸文庫

・【私の一言】岸本新兵衛『地方核都市を健康な農芸都市にする』


2008年5月1日 VOL.105


『高瀬舟、続高瀬舟』
著者渡邉貢二    出版社:崙書房 ふるさと文庫
    

石川 勝敏  


一昔前 私は兵庫県西部にある赤穂市内の企業に勤務していた。
赤穂市を流れる千種川の上流にある佐用町に船着場跡地の石碑があることを
その頃知っていた。その町は昔交易、物流の拠点として栄えていたとも聞いた。
しかし 佐用町を流れる川は 川幅も狭く水流も少なく、とても船が就航できそうもない 小さな川であった。岡山県東部を流れる吉井川中流の吉永町の 川岸に 船着場跡地の史跡が設けられている。このあたりの吉井川は、川幅は 300メートル程度あるが 水量は少なく浅い川で 船が就航できるとは とても考えられない状況であった。なんとなく腑に落ちないまま調査する事も無く今日に至った。
本著書に出会って日本の川の厳しい条件に合わせた船や航路が設けられ高瀬船が就航していた事を理解する事ができた。日本の川は一般的に急流で川幅も狭く水深が浅い。高瀬船は大型船もあったが浅い狭い川でも就航できる工夫をこらした船であった。平底縦長の喫水の浅いものに特化した。
必要に応じて浚渫他川底の維持管理をした。著者は高瀬船の船大工や船頭の古老から話を聞いて整理し、関連図書も調査して本書をまとめている。
高瀬舟といえば 森 鴎外の小説 高瀬舟が著名であり、その書き出しはー
高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である−とある。高瀬川は住倉了以(
1554−1614)が保津川、加茂川を開削して造った運河である。
森 鴎外の小説高瀬舟の印象が強いためか私は高瀬舟は高瀬川の舟と思い込んでいた。しかし高瀬船は関西一円、岡山県一円、関東一円その他で広く利用された川船の総称である。水しぶきを避ける高い腰板のある高背船あるいは洪水のたびに砂で瀬が高くなり浚渫が必要になる高瀬がある事から高瀬船の名称がついたものと思われる。船の大きさは500石積(約75トン)から3人乗りまでいろいろである。
高瀬船の源流は884年の三代実録に近江と丹波の国に命じて高瀬船各3船を造らせたという記録があるが実際に造られたかどうか不明である。
四国の南東部を流れる那賀川では千年前から昭和10年まで高瀬船が使われておりこの高瀬船が原高瀬船とされている。
西日本で発達した高瀬船が関が原を越えたのは戦国時代以降である。
江戸時代には利根川、江戸川を中心に渡良瀬川や鬼怒川を結び高瀬船を使った一大物流網に発展した。那珂湊経由の物資や北陸、奥州、信州方面の物資も利根川、江戸川の水運を利用するようになった。江戸100万人都市を支える物流システムであった。著者は利根川流域の河岸、船頭の生活、高瀬船の設計、製作方法まで高瀬船について総合的に記述している。高瀬船の大部分は杉材で製作される。典型的には1寸2、3分の杉板を平につなぎ合わせ船底とし、これに横板をつけ後から船渠をつける構造である。帆柱は1本、風の無いときは 竹竿で水底を押して進む。深いところは櫓で漕いで進む。
明治時代には外輪蒸気船に押され、最終的には高瀬船輸送は鉄道の普及により急速に衰退した。




『20世紀美術』
著者高階秀璽    出版社:ちくま文芸文庫
    

矢野 寛市  


 筆触分割といふ色彩表現のテクニックなどを使って完璧な写実画を目指したモネをはじめとする印象派の画家達の試みは、結果的に現実から遊離することになって失敗したといわざるを得ないが、皮肉にもこの誤算がそのあとにめまぐるしく展開する20世紀絵画の端緒となった。
 感覚のみに依存して描いた印象派の絵に不満をもったゴーギャンは思想的な深みをもった題材を絵にし、印象派の色彩表現のテクニックを学んだゴッホはそれでもって専ら心象風景を描いた。心の奥底を表現しようとする画家は、ルドン、ブラマンク、モジリアーニ、ムンク、シュルレアリスムの作家などで「表現主義」と呼ばれる。
 一方、印象派の絵に頼りなさを感じたセザンヌは、自然界の形を「円筒、円錐、球体」と捉え確固たる絵を描こうとしたが、これがブラック、ピカソの「キュビスム」に繋がり、さらに形,線を純粋に追い求めたモンドリアンによって抽象絵画が生まれるに至った。色が美しいカンデンスキーの抽象画は、モネの「積み藁」の絵が伏線となり、色により心の内面を表現しようとしたドラン、ブラマンクなどの「フオービスム」、絵を単純化し、明暗も奥行きも肉付けもない色彩だけの世界へ移ったマチス、形と色がずれている絵を描いたデュツフイを経て当然の如くして生まれたものともいえる。(「新造形主義」)
 自然の制約から解放された20世紀の絵画は“何を描くか”から“どのように描くか”に変わり「分離」乃至「分化」が進み極端にまで「強調」されたが、第二次大戦後はマリリンモンローの写真を幾つも並べた「ポップアート」のように再び具象により現代を表現しようとする画家も現れている。
 ここで見落としてならないのは、18世紀迄のロマネスクの後にゴシック、ゴシックの後にルネッサンス、のように新しい様式が生まれると古い様式が消滅するのではなく多種多様な様式が併存して混沌とした状態にあるのが近代の特色であるといふことである。
 著者は最後に藝術のあり方に触れ、「感覚的なものを通して表現される美術が、人間全体の存在にとってどのような意味を持っているか、その『意味づけ』こそが重要なのではないか」としている。

 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『地方核都市を健康な農芸都市にする』
岸本新兵衛

 あるデイケアセンターに集まる老人達について興味深い話を聞いた。そのセンターは近郊から来る人達と住宅地から集まる人達とがいる。近郊グループの老人は概して健康で元気だが、住宅地グループは身体、心に問題を抱える人が目立ち、ボケかたにも問題がある。あまりハッキリと分別されるので不思議に思って観察するうち、生活環境が原因らしいと判ったというのだ。
 近郊グループは農家の老人で野良仕事をする人達が多いのに対し、住宅地グループはたいてい家の中でゴソゴソと暮らしている。嫁と同居で仲が悪そうな人は笑顔がすくなく、厄介者を預けるようにされている。どうやらそんな生活の違いが原因らしいという。
 農作業は桁違いの肉体労働をともなう反面、作業量を自分の体に合わせて自由にコントロールできるから、老若を問わず健康維持にはとても効果的だ。栽培する植物が生き物だから世話していると愛情がわいて楽しみの種になり、生き甲斐になる。
 人間生活の因果関係は化学反応のように簡単に示せないが、自然豊かな生活がもつ治癒効果、自然が子供を育てる効能を私達はもっと重視するべきである。人々が生活時間の一部を自然のなかで過ごすことは目に見えない、遠い因果関係の鎖を通じて国民の健全さに重大な意味をもつ。小手先の法律いじりでは健康保険、介護保険、厚生年金、国民年金などの負担と、少子化の進行で、一世代先には日本は行き詰まるほかない。
 地方に環流する人々を迎え入れる生活環境は、もちろん入居者自身の希望が前提だが、農耕・園芸を家庭に取り込んだ都市(地方核都市)の創造を考えるべきだ。その建設にはかなりの投資が必要だが、それはまず居住権つきの地方建設債を起債して応募者がいるか確かめるとよい。実行不能と判ったら応募者に返済し、計画を取りやめることも計画に織り込んでおくことだ。
 その住宅は原則として家の敷地内か近所に小さな畑をもち、そこで各家庭が野菜や花、できれば果樹も育てられるようにすることだ。土に馴染む生活はまちがいなく運動量がふえ、不健康に悩む大都会のストレスを解消し、日々に庭で咲く花を室内に飾れば心がなごむ。化学肥料で大量栽培の野菜と違って、自家産の野菜は安全で新鮮で美味しい。美味しくて新鮮な野菜を常食すれば自然に健康で、免疫力が強くなり、健保や介護保険に頼らなくてすむ。

 余談だがソ連崩壊後あの極寒の国で半年、一年も給料不払いが続いたのに市民が持ちこたえたのは農産物を自留地で自給できたからだという。これに反しておびただしい餓死者がでた北朝鮮では自留地が極端に小さく、しかも作物を選ぶことまで干渉されている。
 日本で似たことが起こるとは思わないが、失業で追い詰め窮地に陥ったときに食べ物を自給できるか否かがどのぐらい大事かが判る。



 先日新聞に人生を豊かで幸せにする6つのフ(富)と言うのが出ていました。
1. ファイナンシャルアセット(金融資産)
2. フィットネス(健康)
3. ファミリー(家族)
4. フレンド(交友関係)
5. ファン(趣味、楽しみ)
6. フィランソロピー(社会貢献)
この6項目を人生のポートフォリオと考え、夫々に投資をしていくことが豊かな道だそうです。この連休に夫々への投資の仕方を考えたいと思いますが、いかがでしょうか。
今号は、3篇ともやや長文のご寄稿ですが、力作ぞろいです。
連休でもあり、じっくり御覧いただければと思います。ご寄稿有難う御座いました。
                             (HO)








 
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