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■2011年12月15日号 <vol.192>

書評 ─────────────


・書 評  今村該吉   『もうすぐ夏至だ』 
             (永田和宏著、白水社) 
           
・書 評  稲田 優   『修羅場の経営責任』
              ー 今、明かされる「山一・長銀破綻」の真実ー
              (国広正 著、文春新書)

・私の一言 川井利久   『世界のリーダーシップ構造の地殻変動』


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2011年12月15日 VOL.192


『もうすぐ夏至だ』
 (永田和宏著 白水社)  

今村該吉    


 歌人河野裕子が亡くなって、もはや1年になる。しかし彼女の人気は一向に衰えない。むしろ静かにブームが続いている。
 俵万智が「サラダ記念日」を発表したのは1889年だった。その溢れるような青春賛歌とわかりやすさが、短歌の世界には珍しくブームを引き起こした。
 それから20年余。今度は河野裕子が短歌界の話題をさらっている。こうして日頃は短歌に無縁な私まで引き込まれている。彼女が死の前日に呟くように口から言葉を出し、傍らの家族がそれを書きとった。
「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」
 この歌が彼女がこの世に残した最後の一首となった。
 またその前日には
「長生きして欲しいだれかれ数へつつついにはあなたひとりを数ふ」
この度ご夫君であり、同じく歌人でもある永田和宏氏がエッセイ集を出した。その前半は亡き妻河野裕子との回想であり、呼びかけでもある。また彼女の死後彼女を偲びながらも必死で仕事をし、歌を詠んでいる日常を淡々と描いている。
「河野裕子はとことんまでを生き抜いた。それならばそれから先はきみに任せると言われた私がその後を生き抜くほかはないではないか。任せられた内容は重いが、私に出来ることは河野裕子という近代以来の傑出した女流歌人を書き残すことと、そのためにしっかり食べて自分を養うこと以外のことではないのだろうと思うのである」と堂々と宣言している。河野裕子は妻として最後まで死後の夫を気遣ったが、夫はその後もしっかりと生き抜いている。彼は歌人として高名であるとともに、分子生物学者としても一流である。本の後半は研究の一端をのべているが、歌人と科学者との二脚をもって生きる様子が伺われて興味深い。最後に彼の一首を
「わたしは死んではいけないわたしが死ぬときあなたがほんたうに死ぬ」

 

『修羅場の経営責任』
ー 今、明かされる「山一・長銀破綻」の真実ー
(国広正著、文春新書) 

稲田 優   


 弁護士である著者が、旧山一證券の社内調査委員会の一員として実態解明と公表に 心血を注いだ話と、破綻した上に粉飾決算の罪で訴追された旧長銀の副頭取の弁護人 として最高裁まで争い、無罪を勝ち取った二つの物語で構成されている。
どちらも修羅場に於いて経営責任を果たそうと踏ん張った旧山一の社内調査委員会の 委員長と、弁護を引き受けた旧長銀の副頭取を主人公に据えている。
 旧山一を破綻に追い込んだ「飛ばし」の原点は、バブル景気をバックにして手数料 収入の増大をもくろむ証券会社と、それに群がった大企業の財務部門の安易な錬金術 指向だった。しかし、そのツケが大きくなりかかり山一社内でトップにあげようとした直前、 経営トップが国会で「損失補てん契約はない」と言明してしまった手前、損失を飛ばして 隠し続けることを決断した会議の模様は貴重だ。
岐路に立った会社の経営判断のケーススタディとして徹底研究の対象として今後の 財産にすべきではなかろうか。
処理不可能なほどに膨らんだ損失を、海外に隠せと婉曲に示唆した当時の証券局長の 話は、未確認事項として淡々と述べられている。
 一方、旧長銀の副頭取の事件は、殆どこの副頭取と弁護人との関係を中心としつつ 長銀事件全体が理解できるように配慮されている。なにしろ第一審、第二審とも有罪 判決で、最高裁で逆転無罪判決を勝ち取った難しい事件、それを平易に説明してい る。この明快な語り口は著者の真骨頂かも知れない。
また著者の社会正義追求の基本姿勢は、題名「修羅場の経営責任」にも表れている が、依頼人である元副頭取には終始敬意をもって接しているのが印象深い。
著者が敬意を払う源の一つとして、主任弁護人として一審裁判所に提出した最終弁 論書の結び近くに、ある次の記述が参考になりそうだ。
『決算は適正に行われた。しかし、長銀は破綻した。そして、被告人は粉飾決算の責 任はないが、破綻に対して経営者としての責任がある。では、被告人はどのような責任 の果たし方があるか。「粉飾の罪を認める」ことでないことだけは確かである。
なぜなら、罪を認めることは「虚偽」だからである。被告人はこの裁判で「ありのままの事実」を隠すことなく明らかにしてきた。金融・経済の再生に役立つかどうか確たる自信はない。しかし、亡友に代わって説明責任だけは真剣に果たしてきたつもりである。
(以下略)』

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『世界のリーダーシップ構造の地殻変動』
 川井 利久 



第2次大戦から30年間のアメリカの溌剌とした政治、経済、文化に渉る世界支配が 徐々に翳りを見せ、ベトナム敗戦頃から,製造業の国際競争力のゆっくりとした敗退 によって、アメリカ社会のゆがみが顕在化して,一時的にはソビエト共産主義体制の 崩壊によって資本主義の優位性を誇示したものの、金融資本主義のひずみがいろい ろ負の現象を発生させ、失業の増加、中産階級の没落、国家財政の深刻な赤字の 泥沼から抜け出せない。ヨーロッパ諸国も程度の大小はあるものの同じ傾向にある。

日本も同じ方向にあると言わざるを得ない。
これは世界経済のグローバル化によって、労働コスト競争力ミニマムの国乃至地域 に製造業がシフトして中国が世界のメーカーと化して、その他の国々の製造業を衰 退させ、大量の失業者を発生させ、国家規模の財政破綻を起こしつつある。

中国に対抗出来る国は唯一、資源保有国である。
G7をいくら開いても何も決まらないし、アメリカの号令に従うのは日本ぐらいである。
300年続いた欧米中心主義は明らかに曲がり角に来ているようだ。
世界史は何時も経済力の勝敗で大半動いて来た。ここしばらくはリーダー不在の混迷 した国際情勢が続くだろう。大げさに言えば人類史上の転換点に来ているのではない か。長い間、世界史の中で無視されてきた,中国、インド、ロシアが徐々に国力を蓄え て、経済力を増して世界史を動かす時代に入りつつある。

長い間世界をリードしてきたユーラシア大陸西部から世界の中心は東部にシフトして くるだろう。ヨーロッパの洗練されたノーブルなキリスト教文明から土埃と草の匂いの する東部ユーラシアのバイタリティに世界の文化の中心をシフトさせて再活性化する のも歴史の必然かもしれない。
島国日本はアメリカの尻の下でのんびりと惰眠をむさぼって居ると、徐々に世界の端 に沈んでしまうだろう。このボーダーレスの時代に日本外交は感覚を磨いて現在もあ るユーラシア東部に軸足を徐々にシフトさせて新しい世界の脇役を目指す時期に来て いるのではないだろうか。

 

 

来年は辰年です。この辰は架空の動物で、もとは「蜃(しん)」だそうです。
この蜃は一説によると龍のような姿をした妖怪だとされています。
その誕生は非常に奇妙であり、雉と蛇が交わり産まれた卵に雷が落ち、
地中深くにめり込んだ後、300年の時を経て再び地上へと現れたモノが
蜃になるとされています。
また、別の説によれば蜃は雉が海に入り変化した、巨大な蛤の妖怪だと
もされています。どちらの蜃も吐き出す息に不思議な力が有るとされてい
ます。
いずれにせよ来る新年が妖怪の不思議な力でいい年になることを
祈念いたしております。

今号も多面的なご寄稿をいただきありがとうございました。

皆様がいい年を迎えられますようお祈り申し上げます。(H.O)





 
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