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■2011年11月15日号 <vol.190>

書評 ─────────────

・書 評    青陽道幸 『アメリカが畏怖した日本』
             (渡部昇一著 PHP新書)

・書 評   船渡尚男 『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り』
             (坪内祐三著 新潮文庫)

・【私の一言】幸前成隆 『人相は自ら作るもの』


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2011年11月15日 VOL.190


『おいしい患者をやめる本(医療費要らずの健康法』
 (岡本 裕著 講談社+α文庫)  

矢野寛市   


著者は、長い間インスリン治療を受けていた数人の患者を、”食べすぎや運動不足“が病気になった原因であるとして患者に自助努力を促したところ、インスリン治療の必要がなくなりましたが、これに対して"日本の医療の行く末を決める、名誉教授などの肩書きをお持ちの医学界の偉い先生方”からどうしても納得がいかないといちゃもんをつけられたことがあるそうです。

 またある時は、厚労省の幹部の人から"元気なお年寄りに治療するとはどういうことなんだ“といちゃもんをつけられたことがあるそうです。人は生まれてから直ぐに”病気が始まる“と考えている著者からすれば、"未病”の状態にある高齢者に“発病”しないための予防策を講ずることは当然のことなのですが。

 今、日本の大半の医師は、生活習慣病など食事と運動で自分で簡単に治せる「ウソの病気」の治療に追われているためがんを始めとし数々の難病など「ホントの病気」に十分な対応ができないので士気が低下し、しかも「ウソの病気」の治療を止めると生活が成り立たないという身動きができない状態に置かれている。この結果年々嵩む医療費が国家財政を悪化させる一大要因ともなっている。

 著者は抜本的な解決策として、「ウソの病気」を保険の対象から外すとか、診療報酬大系の改定とか大胆な提案をしているが、これには製薬会社はもとより、厚労省,医師や患者さえも抵抗勢力となることが予想される。このため著者は医療改革には国民の理解と後押しが不可欠と感じているようである。

 最後に、「元気で長生きするための五つのヒント」が書かれているが、これは著者ががんサバイバーなどの意見も取り入れて作った究極の健康法ともいうべきもので、元気で長生きすることを願っている人には必見である。

 

『国家は破綻する ー金融危機の800年ー』
(THIS TIME IS DIFFERENT
ーEight Centries of Finantial Folly
C.M.Reinhart&K.S.Rogoff 著  村井章子 訳 日経BP社)

丸川 晃   


2011年7月から8月にかけて新聞を賑わした国際財政・金融関係の話題に、ギリシャのデフォルト救済(EUが120億ユーロを融資)や、アメリカの政府財政借入枠拡大問題(まさかアメリカがデフォルトするとは思えながったが)などがあった。2007年に発生した『サブプライム金融危機』の余韻も、未だどこかで燻っているようだし、また国、地方合わせて900兆円に迫るという借金大国日本では、大震災でやむを得ないとはいえ、更に借金を増やして、何時デフォルトが宣告されてもおかしくないような水準に達しており(国内債中心で助かっているが)、財政危機、金融・銀行危機は、今なお地球のどこかで、現実の問題として猛威を振るっている。

たまたま、この種問題を歴史的に総括するような著書が登場した。本書は、何と西暦1200年頃(実質的にはほぼ1800年以降)から2008年までの、世界六十数ヶ国について収集した莫大なタイム・シリーズ・データを駆使して、これら各国が歴史的に経験した財政デフォルト、銀行デフォルトを巡って、マクロ経済学的・統計学的に分析するという、いわば世界各国で発生してきた財政・金融危機を網羅した歴史書と評価され、翻訳書で本文414頁、原注訳34頁、巻末資料96頁、参考文献・用語索引、その他計44頁、合計588頁という大冊である。

なお、本書の著者であるレインハルト氏はメリーランド大学教授、ロゴフ氏は国際金融専攻のハーバード大学教授、また本書の題名は、日本語ではえらくエキサイティングな言葉が使われているが、見てのとおり原書では『今回は違う』という本書の主張そのものを表現しているのに、はっきりいって日本語の題名は、売らんかなを目指した悪質(?)な表題だといえよう(但し、本文の翻訳は、専門用語も含め、比較的正確、かつ分かり易い)。

そして、 かくも膨大なデータを駆使した分析の結果、『現在、先進国の多くは、公的債務のデフォルトや高率のインフレを繰り返す状況からは卒業したとはいえ、現状では、銀行危機からは卒業できていない』という結論をだしている。
しかし,上記の通り、今でもギリシャ、更にスペインやイタリアまでもが、公的債務危機問題が深刻化していると騒がれているにしても、ギリシャの場合は国際協調により、アメリカでは、議会の妥協により、おのおの最悪の事態は避けられているという意味では、本書の主張する『公的債務のデフォルト』は、甘い卒業制成績というべく、厳密に採点すれば、留年になりそうである。

『公的債務のデフォルト』については、現在進行中の問題もあってデリケートなので、ここでは落第生と称される銀行危機の問題に絞って、著者の分析結果を極く簡単に追ってみよう。本書で銀行危機というのは、銀行の閉鎖・合併、国有化、買収に繋がるような『取り付け騒ぎ』の発生を指すものと規定されている。

本書の『巻末資料』には、何と1800年から2008年間にわたり134ヶ国で発生した『銀行危機の国別一覧表』が、簡単なコメント、危機発生年、引用文献付きで、42頁にわたって掲載されている。歴史上記録が残っている銀行危機の嚆矢は、1802年に起きた『フランス銀行』の危機だそうだが、この資料によっても、また本文でも強調しているように、銀行危機は、例外なくどの国でも、何時でも起きている『機会均等の脅威』である。そして本書では、諸データの分析結果、過去に銀行危機の発端になったのは、経済成長の鈍化、資本自由化および金融規制緩和の進展(金融イノベーションなども含む)、国の経常赤字の巨額蓄積(他国資金の大量流入)、資産価格(株式、土地、住宅価格など)のバブル化およびその崩壊などの要因で共通しているとする。

従って、本書の著者が主張するところは、これら銀行危機の前兆となるような標準的な指標を注視していれば、かなり前から危機の赤信号の点滅を認識できる筈なのに、2007年に発生したサブプライム金融危機をはじめとして、どの国でも、どの時代でも、金融制度・同政策の高度化、国の支援、金融イノベーション等に対する依存心、楽観的な思い込みなどから、『今回は違う』シンドロームが蔓延して、悲劇が繰り返されてきたとし、この『今回は違う』が本書英文の題名になっている。
 なお、上記『銀行危機の国別一覧表』の中で、日本の最新の銀行危機は1992~97年にかけての危機であったとし、『株価、不動産価格の急落で、銀行が経営不振に陥った。95年の不良資産は4.690億~1兆ドル(GDP比10~25%、)、銀行7行が国有化、金融機関61社が閉鎖、28社が合併した。』(P.476~478)として、77年のスペイン、87年のノールウエイ、91年のイギリス、スエーデンと共に、戦後に起きた五大危機の一翼を担うという不名誉賞が与えられている(米国の2007年に起きた『サブプライム金融危機』は、本書執筆中のため入っていない)。

このようにみていくと、本書の分析は多少いい加減な所もあるのでは?、という疑問を感じる人もいるかもしれないし、本書の『銀行危機は、何時、どこでも起きている』という結論と、『今回は違う』シンドロームとの間の理論的・実体的関係について、納得できる根拠が展開されていないのではとみられる外、マクロ的視野からのデータ分析といっても、数十ヶ国を単に先進・新興市場国に二分類して分析するという手法などは、やや大雑把過ぎるのではあるまいかという印象を持った。

しかし上述の通り、過去200年間にわたる世界の数十ヶ国のデータに基づき、『今回は違う』シンドロームに反する共通点を中心にして、マクロ的視野から、最大公約数的に、難しい理論も、分りにくい数式も使わないで、財政・銀行危機について、共通要因を求めて淡々と実態分析を行なった結果は、今後、財政・金融危機発生の可能性について、『今回も同じ』ように、何らかの示唆を与えるのでは・・というところに、本書の意義が求められると考える。
      

 

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『ロンドン便り(13)ーロンドン2012』
 クレア恭子 


トラファルガー広場に建つ時計が10月2日‘332days’を表示。ロンドン・オリンピック開会式までの日数である。ロンドン市内と郊外計34箇所に分散された会場はすべて完成、中心となるオリンピック村近くには超大型のショッピング・センターが開業し集客力を発揮。
オリンピックに向けて市内の開発も急ピッチに進んでいる。Oxford Circusは渋谷を見習って歩行者が縦横に歩ける。Piccadilly Circusは車線が減って中央の エロス周囲が広がった。2007年の火事で損傷したグリニッジのカテイー・サーク号はほぼ復元され、レスタースクエアは1550万ポンドをかけて1874年以来初の衣替え。ロンドン・ブリッジにはthe Shardと呼ばれる超高層ビルが出現し、一角にあるホテルは 近々開業予定。

一方で批判が噴出している。開催期間中は1日100万人の訪問客を予想。市長は’公共交通機関利用のオリンピック’を提唱、観戦切符に地下鉄・バス用のオイスター・カードを付け‘歩こう!’と徒歩中心の地図を作成し駅で無料配布。ただ 既にパンク寸前のロンドン地下鉄である。開催期間中は通勤者の利用削減が必至と企業宛職員の休暇推進、通勤は徒歩か自宅勤務にと協力を呼びかけている。さらに会場関連の道路にVIPや関係者が迅速に移動できるよう‘ゲーム用レーン’を設定、路上駐車は極度に制限し 違反者へは高額の罰金を課す、となると一般市民は平静でおられない。ロンドンの新聞で痛烈な批判を見かけた。

‘真実はブレアとコーはオリンピック・ゲームのロンドンへの影響を無視して、誘致の為にIOC役員へ物品や便宜を計った。-- 安価で庶民中心のオリンピックのはずが、急速に極一部の特権階級用のエリート.・イウ゛ェントへと様変わりしている。オリンピック企画で大儲けする人がある一方で 損する人が出てくる--’(by Simon Jenkins9月27日付)ジェンキンスの批判はIOC関係のVIPが会場近くのホテルを利用せず市の反対側に位置する5星ホテルを陣取ることである。交通渋滞から劇場・レストラン共に客足が遠のく可能性がある。オリンピックの会場跡地利用企画は暗礁に乗りあげ解決の目処が立っていない。 
こうした批判は正しくとも、物価・失業者・光熱費軒並み上昇で暗い毎日の庶民にとって スポーツの祭典への期待は プラスの効果と思われる。


 

 

読書の秋も終わりつつありますが、読書についての名言のいくつかを記し
てみます。
ある本はその味を試み、ある本は呑み込み、少数のある本はよく噛んで消
化すべきである。(ベーコン)
読書は充実した人間をつくり、会議は覚悟の出来た人間をつくり、書く事
は正確な人間をつくる。(ベーコン)
書籍を学ぶより人を学べ。(ラ・ロシェフコー)
読書を廃す、これ自殺なり。(国木田独歩)

本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)





 
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