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■2010年4月15日号 <vol.152>

書評 ─────────────

・書評   今村該吉   『独楽園』
             (薄田泣菫著 ウエッジ文庫)
 
・書評   堤 貞夫   『幸福の方程式』  
         (山田 昌弘+電通チームハピネス著 ディスカバー携書)
                              
・【私の一言】クレア恭子 『ロンドン便り(8) ---- トニー・ブレア近況』


 



2010年4月15日 VOL.152


『独楽園』
著者:薄田泣菫   出版社:ウエッジ文庫
今村該吉   
これまでアンソロジーとしてその一部しか読めなかった随筆集「独楽園」が
このほど文庫本として刊行された。喜ばしいことである。
今の季節を記した「春の譜」の書出しを、少し長くなるが引用してみよう。

「また春が帰ってきた。
病にかかってこのかた、暑さ寒さが今までになく体にこたえるので…まだ冬
至も来ないうちからどれほど春を待ちかねたことか。とりわけこの三四年、
病気と闘ふ気分のめっきり衰えてきた私は、自分の病苦に和やかな、触りの
よい春を見つけるか、また秋を迎えることができると、その度ごとにほっと
して、『まあ、よかった。一年振りにまたこんないい時候に出会すことが出
来て・・・』と、心のそこより感謝しないではゐられなかった。」

詩人であり、随筆家の著者、薄田泣菫は1877年(明治10年)生まれ、1945年
(昭和20年)没。20歳台から詩人として名声を得た彼は1900年に大阪毎日新聞 社に入社し、コラム「茶話」を書き続けた。これは今の朝日新聞「天声人語」 のようなものだが、当時圧倒的な人気を得たようだ。ほとんど独学でありな がら、漢、洋の知識を交えた話題は豊富で、世事、人物評それに自然観察、 とまさに才気煥発、今読んでも一向に古さを感じさせず、興味が尽きない。

ところが40過ぎからパーキンソン氏病にかかり、1928年には毎日新聞を退社 せざるを得なくなり、自宅での療養を余儀なくされた。この著はその間の56 歳のときに刊行(ほとんど娘さんの口述筆記)されたものである。
病弱の彼の楽しみは「猫の額ほど」の庭と、周囲数百メートルの往き来に
限られていた。それだけに自然の移り変わり、草花、小鳥、小動物などへの
観察は鋭く、精妙であった。若い頃の才気は影を潜め、その代わりに温かい
目と耳、鼻とが増した。彼の見る目はあくまでも暖かく、優しかった。たっ
た1匹の蓑虫、1滴の滴りにも限りない愛情を注いでいる。薄田文学は一言
で言えば、その香気さと品位にある。

この本を読んで、自然、静寂の美しさを改めて感じ入り、それを知りえた
ことの喜びを感じる。とりわけ周囲数百メートルの世界であっても、生きる
ことの充実を感謝したくなる。 

『幸福の方程式』
 著者:山田 昌弘+電通チームハピネス   出版社:ディスカバー携書

堤 貞夫   


「物質的豊かさと幸福は結びつかない」と頭では分かっていながら、それ
でもなお、わたしたちが物質的豊かさを求め続けるのはなぜか?
「希望格差社会論」(ちくま文庫)や、「新平等社会」(文芸春秋)で
社会や家族関係の新たな問題を、独自の切り口で示している山田昌弘先生
が、電通袖川皮芳之氏のチームハピネスがまとめた「新しい幸福の物語」
について説明を加え、文字通り新しい幸福の道を考えさせるご本である。

私は、産業カウンセラーの知識として、心理学者マズローの「人の欲求
5段階説」が示している如く、欲求の最終段階は「自己実現」であること、
生産性合理化追求のために米国の経営学者が行った有名なホーソン実験の
一つの発見が、人は自分の働きを「承認」してもらった時に最高の働き方
をすること、「物質的豊かさは不満を軽減する要因」ではあっても、本当
の心からの喜びをもたらすものではないことを、よく理解している。

この本の面白いところは、上のような原理を現代の消費と結び付けて考
えている所である。これまでの幸福物語は「家族消費の物語」であり、次
いで「ブランド消費の物語」であったが、本当の幸福はモノを買うことや、
モノの向こう側にある幸福を手に入れるのではなく「幸福そのものを直接
得るという回路の物語を皆で共有してゆくこと」であると考える。

 その仮説として、3つの「新しい幸福の物語」があげられる。
?自分を「極める」という物語。 「はまる人」が消費を牽引する。
個人の中にあるテーマを追求、自分の「手ごたえ」の基準で消費を楽しむ。
?社会に「貢献する」という物語。 社会をよくするための消費。社会に
サステナブルな視点で自分が消費すれば社会がよくなる実感が楽しめる。
?「人間関係の中」にある物語。 自分の居場所を見つけ、仲間とのつな
がりのために消費する。家族、友人、地域、職場の人からの「承認」が目的。

そこで、この3つの物語が幸福を直接得る新しいモデルと考えられるわけ
だが、もう一度この内容を見直してみると、ここには「消費」ではなく、
『仕事』というすべての要素を包含している活動があることが分かる。
自分の居場所と役割を与えてくれ、働く手ごたえを感じ、他者から承認さ
れ、お金ではなく将来の夢と希望が持て、人に囲まれる幸福を感じる。
これらは、やりがいのある「仕事」の中から生まれるものである、という。
こうなってくると、正にわれわれが『キャリア・カウンセリング』の中で
目標としている「生きがい・働き甲斐のあるキャリア」を開発することに
幸福の方程式がある、と我田引水したくなるのである。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

ロンドン便り(8) ---- トニー・ブレア近況
クレア恭子

 前首相トニー・ブレアの回顧録が9月発刊の予定、5百万ポンド稼ぐ、
との新聞報道があった。前首相は2007年引退後 中東平和特使、シエラレ
オーネとルワンダの特別顧問、地球温暖化対策、年収50万ポンド(約7千
万円)とかのJP Morgan Chase の非常勤顧問、‘信仰とグローバル化’
の講義を米国エール大学で開始、本年からシンガポールと英国は母校の
ダーラムへ拡大。夫人に従ってか、カソリックへ改宗し、世界宗教をまと
めて平和に貢献したいと遠大な目標を掲げている。

2008年秋の新聞では、ブレア氏は世界一高額のスピーカー。90分で25万
ポンドの講演料でも予約は2年先まで詰まっているとか。昨秋のカナダで
は180ポンド(約2万5千円)を徴収して写真撮影に応じたところ、長蛇の
列だったそうである。昨秋のユーロ大統領選では確実との情報が飛び交
った。蓋を開けてがっかりしたのは本人と労働党上層部くらいであろう。

高額所得の主人を持ち、自身も法廷弁護士として世界的に活躍するチェ
リー夫人は かねてから不動産獲得に執着し、ロンドンで7軒目の家を
長男用に購入。金に糸目をつけない備品入手、改装・改築計画で場所を
問わず、近隣の人達から抗議を受けている。その上 ほとんど利用して
いない家屋でも武装警官5人で警護させているのだから評判は良くない。
イラク戦争公聴会はチルコットで4度目、昨秋から開始された。開戦一
年前から ‘サダム打倒’をブレア氏が勝手に米大統領と決めていたり、
石油会社と営利関係にあるという証拠が浮上している。ブレア自身1月
末に招請され米国追従・議会軽視、誤解を招く資料で開戦したと非難を
浴びたが 本人は「正しい事をしただけ。」と反省の色を見せず。

ブレアの回顧録の反響は如何ほどか、世界舞台で超人的活躍を続ける人
気者ではあるが、英国庶民は冷え切っている。 労働党は総選挙にブレ
ア氏再登用で票集めを期待しているが マスコミの描き続ける‘地位を
利用して個人財産備蓄に努める夫妻’の姿では あまり多くは期待でき
ないこと、と思う。

 

 

 

 『君子官に入るに、六者を有せば身安く誉至りて政従わん。君子官に
入りて六者を除かば身安く誉至りて政従わん』という孔子の教えがあり
ます。
仕官に当たっては、「手柄を独占しない、手を抜かない、人の悪事を暴
かない、失言を追及しない、悪事をしない、事務を停滞させない」の六
事を行い、入官したら、「怒りにまかせない、諌言を拒まない、人を馬
鹿にしない、怠惰にふけらない、贅沢をしない、独断専行をしない」の
六事に気をつけるべしという教えです。
 道徳心が問われる時代だけに、新年度を迎え、この『六者を有し六者
を除け』という言葉を思い出しました。
 
 今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)




 
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