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■2012年4月1日号 <vol.199>

書評 ─────────────


・ 書 評   新田恭隆 『方丈記私記』(堀田善衛著 ちくま文庫)                                                    
・【私の一言】岡田桂典 『原発導入のパイオニアの証言』

・【私の一言】濱田克郎 『アメリカ便り(23)米国政情―旧聞』



2012年4月1日 VOL.199


『方丈記私記』
 (堀田善衛著 ちくま文庫)  

新田恭隆    

日曜日夜のNHK大河ドラマ「平清盛」に対してどこかの知事さんが画面が
きたないと言ったそうだ。若き清盛像の設定も相当なものだが、あの頃の
武士の実像は大体あんなものだっただろうと思う。

鴨長明はその頃に生れた。そして20代から30代にかけて平家の勃興から鎌
倉幕府成立までの大ドラマを体験し、同時に大火、M7級の大地震、大飢饉、
強盗、放火など多くの天災、人災にも遭い見聞した。次第に無常観を深めて
58歳、源実朝の時代にあらわしたのが方丈記である。

そして著者の堀田善衛は、昭和20年、彼が20代後半の3月9日夜から10日
払暁にかけて東京大空襲を体験した。方丈記私記の書き出しには、「私が以
下に語ろうとしていることは、実を言えば、われわれの古典の一つである鴨
長明「方丈記」の鑑賞でも、また、解釈、でもない。それは、私の、経験な
のだ。」とある。

ここから方丈記の引用を繰り返しながらこの著者らしく執拗に自らの体験の
上に立って災害論を展開し、人間の実体に迫ろうとしているように思える。
私記と銘打った由縁であろう。また長明を喰えない男とする人物解析も興味
深い。しかし、この本で私が意表をつかれる思いがしたのは、著者の和歌に
ついての関心の持ち方である。和歌は当時文学の中心にあり、しかもそれは
宮廷文化の中心でもあって、和歌で認められることは取りも直さず宮廷にお
ける昇進と直結するものでもあった。家柄がよいとは言えない長明も営々と
作歌に勤しみ日を費やしていたようである。その結果47歳にしてようやく和
歌所の寄人にまでなった。

ところで時代がすこし戻るが、長明30歳の頃大飢饉で死者が多数出て都のあち こちにそのむくろを晒すことがあった。仁和寺の隆暁法印という高僧がこれを悲 しみ、死者の額に阿の字を書いて弔い歩いた。その数が都の中心部だけでも4万 2千3百あまりになったと長明は書きとめた。堀田善衛も30歳は硫黄島玉砕の 頃で、自分の年恰好、戦争の成り行きとこの様子を引き比べあらためて暗澹たる 思いを抱く。
さて、これだけ死者が倒れていればその悪臭は当然宮中にも達していた筈である。

その中で宮廷にいる人たちがやっていたことは歌を作り選びまた歌合を執り行う ことである。それはよいとしても、その歌といえば「現実世界とはなんのかかわりも関係もない」花鳥風月、恋の歌である。現代のわれわれには考えられないこ とである。和歌所で文学のための文学に携わりながら長明は遂に方丈の庵を結ぶ に至る。

かくして堀田善衛は東京大空襲から終戦直後の混乱貧窮期を長明と同様の体験と見做して嘆くが、一方で長明の否定者でありたいとも言う。だが無常観の否定は 現実直視であり、やはりこれはこれでなかなかの難事である。
昨年大災害の後、方丈記が沢山売れたそうである。私も以前買った方丈記私記を 本箱から引き出して読んだのであった。戦災に遭うと方丈記、大災害に向き合うと方丈記、どこまで続くのであろうか。まことゆく河の流れは絶えずしてである。

 

 

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『原発導入のパイオニアの証言』
岡田桂典 




野田敦子さんは永らく九州大学薬学部で研究・教育にあたった方です。
今年1月に福岡市の学士会の月例会で喜寿のお祝いを受け以下の答礼の挨拶
をされましたが、極めて重い内容なのでその要点を絞って此処に紹介させて
いただく次第です。

「ある雑誌に我が国の今日までの150年間を振り返って大きな出来事3つが
あげられていました。19世紀の明治維新、20世紀の太平洋戦争、そして21
世紀は昨年の原発事故です。
さて、3つ目の原発事故につきましては、私たちは子孫のために行動しなけ
ればならないと考えます。私の父井上俊祐は昭和初期の東京大学電気工学科
で学び、昭和27年に九州電力で原子力室長・研究所長を拝命しエネルギー
問題を研究していました。その後我が国原発導入に関する原子炉の機種選定
の調査に電力会社から選ばれた3人の1人としてアメリカのGEとWHへ派
遣されました。帰国後持ち帰った資料は莫大で、家にまで持ち帰って毎晩遅
くまで資料の整理に取り組んでいました。

父が定年退職後福岡大学工学部教授を務めていたある日、自宅に新聞記者の
方々がインタビューに見えて原子炉導入の経緯や原発の今後の展望について
質問されました。父は記者の方々に"これは社命でやったこと、個人的には
ノーコメント"と言うだけでした。しかし、父が母と私に言い残した重い言葉
を私は生涯忘れることは出来ません。"原発はテンポラリーのエネルギー、
このエネルギーは必ず子子孫孫に禍根を残す。人が作るものは頑丈な原子炉
でも必ず壊れる。核燃料廃棄物の処理は困難だ。原子炉が老朽化して廃炉にし ても放射性物質は残存し続ける。原発に頼ると新しい原子炉は未来永刧、別の 場所に建設し続けなければならない。従って代替エネルギーを一日も早く開発 する必要がある“

今日は私の喜寿に当たり初めて父が遺した重い言葉を皆様に披露させていただ きました。学士会は立派な知識人の集まりであり、何事も本音で語れる自由な 場で貴重な存在です。ますますの発展を祈って止みません。最後にここにご出 席の九州大学有川学長にお願いがあります。私達の子孫のために循環型の自然 エネルギー研究の国際的な研究拠点として九大が今後より積極的な取り組みを 進められますことを薬学研究者・母親として切望する次第です」

残念ながら井上さんの予言どおりになりました。日本では原発は“原子力村“ が支配して“原子力安全神話”が形成されたようですが、その主体は学者・ 研究者、技術官僚等で、私が思うにその人達は“畳の上の水練の達人”でしょう。

原発も人と組織が運営するものです。井上さんの様に原子力の本質を理解し、 発電設備の建設・補修に習熟し、ミスを含む運転上の諸問題、電力会社経営の 複雑な人間関係と利害が技術・安全に影響する関係等、理論・現場を知り尽く した方々の意見が最も大事ではないでしょうか。今後の原発のあり方に関して 原発導入時期から現時点にいたるまでの電力会社、その他の実務家の方々の意 見をもう一度堀尽くす必要があると考えます。すべての歴史は人が作ります。 歴史の検証は未来の展望のために必然なのです。

原発が2度と事故を起こしたら日本は終わりです。地震と火山活動が活動期に 入ったと言われる今、この狭い国土に54基もの原発を抱える現実を直視しな ければなりません。原発が今後も必要かどうかは電力需給、コストの問題では なくあくまでも、原発が本当に安全であるかで判断すべきです。井上さんの言 葉をふまえ、野田さんの「(生命を生む)母親が子孫のために行動すべき」と いう言葉を重く受け取らねばならないと思います。

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『アメリカ便り(23)米国政情―旧聞』
濱田克郎 




以下は2010年11月の米国中間選挙の直後に筆者が知人宛に発信したもので
あるが、1年あまりを経た現在においても本質的な部分は同様であると思
われ、最近の事情も若干補足した上でお届けしたい。

引用開始

2010年11月の米国中間選挙で民主党が大敗したことの要因はいくつか考え
られますが、最も大きいことは雇用、経済状況が芳しくないことによるも のでしょう。
失業率は10%付近に高止まりしたまま、更に失業期間が長期化している人 (1−2年以上)もちっとも珍しくないということは今までになかったこと
です。新卒の学生の大多数は就職口のみならず無給でのインターンもなか なか見つからない状況のようです。住宅ローンが支払えずに家を失う人も まだまだ増えており、低所得者層〜中間層は日々の暮らしをやっとのこと でしのいでいる有様です。

オバマ大統領の人気が下降しているのは事実ですが、あまりにも彼への期 待度が高かったことへの反動という面もあると思います。
以下は2008年12月、オバマ大統領の就任直前に私が友人宛に書いたことです。

QUOTE
経済にしろ、人間評価にしろ、あまりに期待度が高すぎると、次にくるの は失望や落胆です。マーケットの一喜一憂もその類いです。 オバマ次期大 統領についても然りでしょう。 彼がアメリカの大統領になれば多くの問題 が解決しそうな具合に期待する風潮が世界中で膨れ上がりすぎているので はないか少し心配で す。
UNQUOTE
さらには、いろいろなレベルでの分断、先鋭化の問題があります。
人種間(いく通りも)、宗教間、リベラル対極右、大きな政府対小さな政 府、ゲイ(ゲイを差別しない)対ストレート等々ありますが、アメリカ便 り20(イデオロギーの時代?)をもっとひどくした状況が至る所で見ら れました。

しかし、その本質は、共和党の選挙参謀、シンクタンク、ロビイスト、PR 会社などが2年前から綿密に計画して仕組んできた戦略〜どんなことをや ってでも政権と利権を取り戻す〜がうまく功を奏したのではないかなと私 は見ています。人々の深層にあるあらゆる種類の差別意識、恐怖感をあお り、人々の不満のはけ口を正当化する口実や、手段を手の込んだやり方で 提供したり、やってみせたりしたことが見事に成功したようにみえます。

アメリカの選挙戦ではテレビの広告に多くの時間とカネが使われますが、 2010年のテレビ広告の時間は例年に類を見ない大量なものであり、かつそ
の中身は反吐を催すほどのネガティブキャンペーンだらけでした。政策提 言は殆どなく、あるのはスローガンと相手候補のあることないこと(殆ど 事実の歪曲)、あるいは平気で嘘をつく類、よくいってもミスリーディン グな情報の垂れ流し。対抗上民主党の候補もネガティブキャンペーンに注 力したため、普通の感覚の持ち主であればうんざりしたことでしょう。

ティーパーティー一派がまるでアメリカ革命、建国の精神を取り戻す動き であるような主張がされ、メディアもそのように伝えるところも多いです が、アメリカの建国の歴史、アメリカ憲法を少しはまじめに勉強した人か らみれば、チャンチャラおかしいことだったでしょう。本質は ”黒人の大 統領がアメリカのリーダーであることはこれ以上辛抱ならない” といった ところでしょう。オバマとヒットラーを結びつけたり、”社会主義者”のラ ベルを貼ったりするのも本質を隠したい気持ちがなさせたことでしょう。

ネガティブキャンペーンは功を奏しているようで、それだからこそ多額の資
金がつぎ込まれているのでしょう。

金儲けが何より大事という価値基準、相手だけが悪くて自分は悪くないと主
張する他責の文化、事実を伝えるより、話題を作ろうとするメディア、一握
りのリーダー風に振り回されて自分で考えることをしなくなった人々、自分
たちの投票行動(あるいは投票しないこと)が実はあとで自分たちに降り掛
かってくるのだということに気がついていない人々。
世界のあちこちで同じようなことが起きているようです。

引用終わり

その後最高裁判所が何と、実質的に選挙資金規正を骨抜きにし、特定選挙運
動団体へ個人、企業を問わず金額の制限なしに選挙資金寄付を可能としたこ
とにより、多額の選挙資金が有力なスポンサーからあっという間に寄付され
るようになった。選挙資金の多寡がまるで選挙結果につながるかのように報
道されている。
この資金の9割以上はTV広告に使われ、しかもその殆どは選挙運動とはほど
遠い、反吐を催すほどのネガティブキャンペーンに使われているといわれて
いる。
今は共和党の候補者同士の足の引っぱりあいに実に効果的に使われているが、 裏を返せば人々がいとも簡単にこのようなことに影響されていることの証左 かもしれない。

事実を歪曲したり、人々の恐怖心をあおったり、一刀両断にラベルをはった
りするさまは、まるでマーケティングのようである。資金を提供して自分の
気に入らない候補を蹴落とさせ、自らの都合の良いように候補者に影響力を
与えるかのようなさまは、ロビー活動と併せ極めて不健全なにおいがする。
ただ、“もううんざりだ”、“我々はイデオロギー論争の時代に生きている訳で はない”、といったような気運がそろそろ出てくるのではないかと思えてなら ない。

事実を伝えるよりも“話題”を作りたがるメディアに影響されず“本当はどうな のだろう”と自分の頭で考え、その場しのぎの取り繕いにだまされず、過去の 言動との終始一貫性をチェックする人々、一喜一憂しない人々が過半数にな れば困ってしまう政治家が多数いることであろう。

 

 

 昨23年度は、日本では東日本大震災の復興問題、円高、株安等があり、
世界的にはギリシャ問題など経済的に厳しい環境が続きました。
さらに本年度は、アメリカ、フランス、中国等で首長の選挙が行われる
等世界的に政治分野の動向も注目されています。
世界的にいろいろな問題含みのなかで、日本は、相変わらず有力政党が
目先の党利党略のみに終始する政治状況にあり、このままでは世界情勢
についていけなくのではないかとも心配される新年度入りです。

目先ではなく、しっかりした未来図を書き、それを実現するリーダーが
必要と考えられる今日この頃です。

今号も貴重なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)





 
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