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■2007年9月1日号 <vol.89>
書評 ─────────────


・書評   堤 貞夫  『平然と車内で化粧する脳』
・書評   前川 彬  『ドイツ病に学べ』
            『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』
           ードイツに学ぶ ー

【私の一言】岡本 弘昭  『月光族と草苺族と太陽族』

 


2007年9月1日 VOL.89


 

 

『平然と車内で化粧する脳』
著者:澤口 俊之・南 伸坊    出版社:扶桑社    

堤 貞夫  

澤口俊之先生は、少し変わった学者として、知る人ぞ知る存在である。
北海道大学医学部教授で脳科学を研究されているが、京都大学理学部で博士取得、京大霊長類研究所勤務、エール大学医学部でポストドクの研究生をやられていたことなど、普通の学者ではなさそうである。この本との出会いは、以前からやっている読書会で認知心理学の勉強を取り上げたところ、物知りの先輩が、認知、脳の働きとの関連で、面白い本として紹介されたものである。

 本にはびっくりするような題がついているが、中身はとても真面目な学術啓蒙書である。
南伸坊という、難しいことをやさしく聞く“生徒の達人”を相手に、イラストを交えて、日本人の脳の特徴と現状における教育の間違い、どうしたらよいかを明快に説明してくれる。

・ヒトはネオテニー化したサルなのだ。
「ネオテニー」とは幼い時期の特徴を持ったまま成熟すること。ヒトは500万年前、サバンナに出てゆくことで、サルと分かれたといわれるが、乾燥や寒冷という厳しい環境に適応するため未成熟で子どもを生み、環境に合せた適応力を教えながら生育させるという戦略をとった。
家族で親が人間らしい行動を教え、集団で生活することで社会性を学ばせたのである。
・ネオテニーにより学習・発達するのは、脳の前頭連合野である。
脳は本能の部分は機能別に分担していて、サルも同じで早期に成熟している。前頭連合野こそ、ヒト独自の、自我、社会的知性、感情的知性を動かしている分野で後から成熟する。
モンゴロイドはコーカソイドから分かれた際、北方へ向かったので、ネオテニー化がもっとも進んでいるといわれる。モンゴロイドの環境は集団生活、大家族制を必要としたからである。
・日本人は戦前まで、この習慣があったが、戦後の欧米化によってこの仕掛けが失われた。
我々は、農耕民族の習俗と思っているが、このような見方もあるかもしれない。いずれにせよ、25歳までかかるといわれる前頭連合野の成熟機会が、大きく悪い方向に変化したといえる。
平然と車内で化粧する娘さんには、人として恥ずかしいという判断をする脳が成熟していないのである。突然、怒り出す若者には、感情を抑制する機能が足りないのである。

この本には、講義:というコラム欄などもあって、理論的な部分を先生が講義しています。
澤口先生には
「HQ論:人間性の脳科学」 海鳴社   上記理論を集大成したもの。
「わがままな脳」      筑摩書房  工業新聞社賞受賞の学術書
「幼児教育と脳」      文集文庫  幼児教育に視点を絞った啓蒙書
などがあります。京大霊長類研助手などというと、つい、力が入ってしまいます。
以上

 

ドイツに学ぶ ー 熊谷徹の二冊の著書から
『ドイツ病に学べ』
           
出版社:新潮新書
『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』 
出版社:高文研

前川 彬  

熊谷徹氏は、元NHKの記者で90年からドイツに在住するフリージャーナリストである。まず、「ドイツ病に学べ」(新潮新書)は、ドイツの社会経済の現状を多角的に分析した力作である。ドイツは第二次大戦の敗戦国でありながら戦後すばらしい経済発展を遂げ、いまやEUの中心国の一つになっている。しかし今世紀に入ってからは、経済成長率が鈍化し、恒常的に失業率の高い状況が続き、高い労働コストと人件費がドイツ経済を苦しめつつあり、また、富の偏在が進行して中間層が急速に小さくなってきており、著者はこれを「ドイツ病」と呼んでいる。それぞれの項目ごとに、データで病状の重さを示し、身近な実例も挙げながら有識者の見解を紹介しているので、たいへん理解がしやすい。日本とドイツの状況は、比較するとドイツの方が深刻であり、それだけに先例として学べることも多い。著者は、少子・高齢化による労働力不足に対する対策や社会保障制度など国民の痛みを伴う対策は、日本も危機感を持って本格的に取り組むべき時期であると主張しているが、そのとおりであろう。
また、「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)は、ドイツが、第二次大戦中ナチスの行った残虐行為を加害者として直視し、今なお周辺諸国からの信頼を回復する努力を続けている姿を詳しく取材したものである。ユダヤ人虐殺で有名なアウシュビッツ収容所とそこへ入る線路を写した表紙の写真は、映画「戦場のピアニスト」で見た場面が想起されなんとも印象的である。著者は、東アジアの歴史認識を巡る状況に危機感を抱いたことがこの本の執筆動機であると書いているが、たしかに日本とドイツとでは、戦時中の問題についての対応の仕方が随分違っている。しかし、両国の戦争に突入した事情や戦時中の行動に違いのあることも事実でありこれを同列に考えるのは無理があり、ドイツに学ぶべきは、戦時中の問題についての対応の仕方ではなく、そうした問題についてのゆるぎのないスタンスではなかろうか。戦後60年余経って、日本も今後、第二次大戦中の諸問題については、確固たる考え方のもとに外交も政治も教育も行っていかなければならないと感じさせられる。

 
 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『月光族と草苺族と太陽族』
岡本 弘昭

中国の「月光族」についての報道がある。
「光」には「売光 (売り切れ) 」の様に「すべて〜し尽くす」という意味がある。月光族とは、「(かなり高所得があるのに)毎月の収入をすべてその月に使い切ってしまう人々」つまり、「入りも多いが出も多く、翌月の給料日前には一銭もお金が残っていない」というライフスタイルを持つ人々を指す。
「月光族」には、持続する経済成長を基に、今後の成長を信じ、節約して貯蓄しようという発想がない。加えて、今を楽しく生きたい、カッコいい生活を自慢したいという虚栄心がある。さらに、いざとなれば両親の元へ転がり込めば何とか生活できるという背景もある。
楽観的で計画性のない生活を送るクセがつくと、後の暮らしが心配であると古い世代からの風当たりも強いようである。
また、台湾には「草苺族」という言葉がある。「草苺」は「イチゴ」と言う意味で、1980年代生まれを中心とする若者の社会風潮を現すそうである。その特徴は、外見にこだわり見栄っ張り、仕事の苦労に絶えられず、何かあるとすぐへこむ…、イチゴの様に押されるとすぐに潰れ、また、くさりやすいことから「草苺族」と呼ばれ、これまた、古い世代から非難されているという。
日本でも、その昔には「太陽族」が生まれ、「ミユキ族」や「竹の子族」、そして最近では「ケータイを持った猿族」等というのがあり、古い世代から非難されていた。
社会が豊かになれば人の生き方も多様化するため、新しい風潮が生まれる。これに対して古い世代は非難を浴びせがちであるが、時間の経過とともに目に付かなるというのが通常のようである。
月光族も草苺族もいずれは目立たなくなるのであろうが、それを吸収した社会はどんな社会であろうか。他人事ながらやはり気に掛かる。


∴∴∴∴《編集後記》∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

今年は本当に暑い夏でした。この酷暑の夏にも皆様から引続き多方面の書評、一言をご寄稿いただきました。心から御礼申し上げます。残暑は9月にも残るとか。一段とご自愛のうえご活躍ください。(HO)








 
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