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■2010年7月15日号 <vol.158>

書評 ─────────────

・書評    丸川 晃  『シリーズ日本近現代史』全10巻 
                          岩波新書  
                  
       船渡尚男  『寺田寅彦全集」新書版16巻書簡集』
                          岩波書店
              
・【私の一言】 クレア恭子 『ロンドン便り(9) 小象のパレード』






2010年7月15日 VOL.158


『シリーズ日本近現代史』全10巻 
( 岩波新書 )

丸川 晃    

 ここで云う『日本近現代史』とは、幕末の開国時代から現在迄150年にわたる日本の外交、政治、経済、社会、文化などの分野を網羅した『通史』である。そして『通史』とは、本シリーズ第10巻の『終章 なぜ近現代日本史を学ぶのか』成田龍一氏(日本女子大教授)によれば、政治とか経済とかに限定せずに、社会や文化を含む多くの領域を統合して描こうとするものである。

 日本歴史に関する本は、若いときから関心をもって乱読していたが、何故か、その『近現代史』関連図書は、殆ど読んだことがなかった。実際、本シリーズの最終巻で、各巻の著者が『お勧めの五冊』を推薦されているが、恥ずかしながら、その殆どはわが書棚には見当たらない本ばかりだった。ところが岩波新書で、全10巻にのぼる『シリーズ日本近現代史』が、2006年11月以降10年2月に至るまで発行され、たまたまこの第1冊目を読んで関心をもったので、遂に10冊全部を読了してしまった。

 日本通史と称する文献は、過去から極めて多く出版され、岩波書店からだけでも、1993〜96年間に21巻の『日本通史』が刊行されている。ひとつは、出版社にとって『日本史』の出版は商売になること、二つには、デジタル化されたデータを含め、厖大な資料が蓄積、分析されて、日本歴史研究が日々刻々進化していて、新しい研究成果が現れていること、そして第三に、歴史研究者や読者の日本歴史に対する問題意識が刻一刻と変化していること、などによるものと考えられる。

 そして、21世紀初頭の現在、改めて『日本近現代史』が要請される根拠は、1990年代以降顕著になったグローバリゼーションの潮流、21世紀にはいり明瞭になった中国を初めとする東アジア諸国などの政治的・経済的急成長に伴う諸変化を背景とした新しい観点から、その『通史』を再検討することにあると考えるが、本『通史』を巻別にみた場合は、必ずしも以上のような要請を満たしていない巻もあるような印象を受けた。時代別に著者が異なっていることも、統一的な思想・基盤で叙述されなかった一因であろう。

 しかし、21世紀初頭的観点に立って、過去に培われた『日本近現代史』の常識(自分の低次元的常識であったかもしれないが)を覆す瞠目すべき事実・解釈も多くて、改めて勉強させられたことも事実である。幾つかの実例を挙げてみよう。

 黒船来襲で、ペリーと交渉した浦賀奉行所は、成熟した伝統の累積を背景にして、柔軟に対処して、日本の伝統と自立とを保ったし、不平等条約の締結も、日本側も実状に即して言い分を通した結果であるといわれる『幕末・維新』井上勝生(北大名誉教授)。

 日清戦争は、日本が朝鮮ヘの積極的な侵略を図らない限りは、戦争の可能性は低かったし、また日露戦争は、日・露が妥協していれば、戦わなくてよい戦争だった『日清・日露戦争』原田敬一(仏教大学教授)とのことであるが、このifが実現していたならば…。なお、日露戦争について、戦争を避けようとしていたのはむしろ日本で、より積極的に戦争に訴えたかったのはロシアだった、という説もある『それでも、日本人は『戦争』を選んだ』加藤陽子(東大教授)。

 満州事変を起した日本陸軍の特徴としては、相手国指導者の不在を狙って起されたこと、政治干渉禁止の軍人によって主導されたこと、国際法違反を意識的に避けるように計画されたこと、地域概念としての『満蒙』の意味する内容を絶えず拡大させていったことが挙げられる『満州事変から日中戦争へ』加藤陽子。 

 占領軍GHQの指令で行われたと称される戦後の大改革、婦人参政権、労働組合の結社、教育改革などは、既に古くは大正デモクラシーの時代から戦時中にかけてその原型が生まれていたし、また1938年の『国家総動員令』の施行が、戦後の土地改革、物資、金融・資本、物価の統制などに果した役割は大きく、更に同年には厚生省の原型や健康保険法が制定されていたという『占領と改革』雨宮昭一(独恊大学教授)。


 以上、『シリーズ日本近現代史』を通読した感想としては、その内容、主張については、単なる読者なので批判はできないにしても、維新時以来第6巻『アジア・太平洋戦争』時までは、急速な近代化に成功して、侵略国家になった日本が、主に東アジアで、武力行使を中心とした波乱万丈の推移を辿った様相は、われわれのご先祖様には申し訳ないが、遥かな過去の事実として極めて興味深いものであった。


 これに対して、われわれが共に辿った戦後の65年間は、平和憲法の下で、外交は対アメリカ中心、国内政治は殆ど55年体制を主軸とした保守政権の独壇場、経済は典型的な成長マ成熟マ停滞の過程を辿り、後発諸国にとって『他山の石』の様相を呈してきたということで、読み物として面白みに欠けるのは、止むを得ないという印象だった。



『寺田寅彦全集』 新書版16巻書簡集 
( 岩波書店 )

船渡 尚男    


特に小宮豊隆および阿部能成二人への手紙はその頻度内容ともすばらし
い。正に「心友」とはこうゆう関係を差すのだろう。

昭和4年11月24日 阿部能成宛書簡に以下の一文があるのを紹介したい。
「シナ人が強い浸潤性をもつことに関するお説を読んでいるうちにふと妙な事を考えた。近頃読んだウエルズの「世界戦争」に火星から地球へ攻め込んで来た怪物どもが鋭利な恐ろしい武器で地上の人間どしどし征服しているうちに、みんな急に死んでしまう。
これは彼等が地球上のいろいろな黴菌に対する免疫性を欠いていたためであるという説である。実際シナ人にどこか黴菌のようなところがある。貴説を読んでいるうちにこの感じを深くした。
日本は朝鮮を手に入れると同時に朝鮮菌を背負い込んで苦しんでいるのだから。
万々一日本がシナのポピュレーションの多数を隷属させたが最後 日本は滅亡すること請け合いだというきがする。」

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

ロンドン便り(9)『小象のパレード』
クレア恭子

 

2010年、ロンドンの夏は小象で大賑わい。ヒースローー空港から市内の公園や名所旧跡、人の集まりそうな所に並んでいる。‘アジアの像を救おう’と2002年に英国で設立したチャリティの募金活動である。1.2m余のかわいいプラスチック製の像258頭、それぞれ独特の色や図柄で飾り2ヶ月余展示した後競りにかける。目標額は_200万(約2億6千万円)というからなんとも壮大な企画である。

インド・インドネシア・マレーシアからタイに生息するアジアの像の数は生態系の破壊が原因でこの100年間に90%減少、このままでは30年後に壊滅の危機にあるとか。ロンドンでも最大規模の戸外展示により、予定では約2500万人が鑑賞。チャリティの活動認識と支援向上は確実である。

立っている小象、お尻を下ろしチョコンと座る小象、各アーチストの腕前で風情が異なる。通りすがりに見つけると思わず顔がほころび、駆け寄りたくなる。市民はもちろん、観光客が記念写真を撮る。ハイドパーク・グリーンパーク、トラファルガースクエア、セントポール寺院前、バンクでは英国銀行前、さらにシェパード ブッシュに昨年できた超モダンなウェストフィールド・ショッピングセンター内でも小象を見つけた。

アートの推進と募金活動、さらにスポンサーになることで協賛各社は宣伝広告を兼ねられる。又 某デパートでは象のミニチュアを販売中とか。なんと勘定高いアングロ・サクソン、本当に象の保護だけが目的なの、と思う反面ミニチュアなら 私にも買えるかな、と考え直したり。
反捕鯨しかり自然保護についてはとても熱心な英国人。でも象の生態系が破壊されたそもそもの原因はアジアが西欧諸国へ物資を供給し続けたからでは、という点はどこにも記載されていない。

 

 

日本において、技術やサービスなどが市場で独自の進化をとげ、世界標準からかけ離れてしまうという現象が見られます。これを、ガラパゴス諸島の生物が、大陸とは異なる独自の進化をしている現象にたとえて「ガラパゴス化」といわれています。

今後ますます人口が減少し成長が見込めない日本では、この「ガラパゴス化」からの脱却が重要な課題です。これには、海外に対しさらに広く門戸を開き、また、自らも積極的に出て、世界の変化・多様化を日本の発展に結び付けることが必要となります。

しかしながら、日本では豊かさを反映してか、若者の内向き志向、海外離れの風潮が高まり、アメリカへの日本人留学生は 2003 -04年度から減少傾向にあり、2008 -09年度にはアジアの国別順位では第 5位へと下降しました。これでは、グローバル化も覚束きません。

国の財政にも問題がありますが、日本には人材づくりにも課題があるようです。

若者の活発な活躍に期待したいところですが。
  

 今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)

 




 
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