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■2012年4月15日号 <vol.200>

書評 ─────────────


・ 書 評   矢野 清一
        台湾治水工事の功績者について
       『日台の架け橋・百年ダムを造った男』(斉藤充功著 時事通信社)
       「水の奇跡を呼んだ男」(平野久美子著  産経新聞出版社)

・ 書 評   石川 勝敏
       『レクサスとオリーブの木─グローバリゼイシヨンの正体 上下』
       (トーマス、フリードマン著  東江一紀、服部清美訳  草思社)

 
・【私の一言】濱田 克郎『アメリカ便り(24)世田谷ラジウムと台北コバルト』



2012年4月15日 VOL.200


台湾治水工事の功績者について
『日台の架け橋・百年ダムを造った男』
『水の奇跡を呼んだ男』 

矢野 清一    


筆者は、勤務した会社の業務上、社会人となって未だ間もない頃から、 三度にわたって合計で約15年間(昭和30年代半ばから、50年代半ば まで、)台湾に駐在し、その間、現地の方々には大変お世話になり、 現在でも、交友を重ねて戴いている方も多く居られる。

駐在当時は、蒋介石総統とその後継者・蒋経国総統の所謂一昔前の 「国民党の統治下」にあり、言論統制も厳しく、日本統治時代の事蹟 などを云々することは、全く憚られる時代であった。勿論、その当時 においても人の口に蓋をする事は出来ず、現地の方から色々と戦前時 代の話も聞かせて戴き、この二冊の本に書かれているダムなどの現地 を訪れた事もあり、今回、これらの本を読んで、感慨を新たにした。

これらの本は、往時の駐在員仲間の友人から紹介されて知ったもので、 紹介されるまで、こんなに詳細に事実関係を調べて纏められている本 がある事は全く知らず、今、読み終えて、改めて教えてくれた知人に 感謝している。
世界史の中で、近世の帝国主義や植民地主義と言うものは、本来、他 国や他民族の人々を搾取すると言うやり方であり、基本的な所で間違 っていると思うが、その時代にあっても、中には、現地の人々の為に も非常に役立っている事業が行われていた事は事実であり、それが現 在においても、現地の人々に認められ、感謝されている事例も多々あ るのではないかと思われる。(それだからと言って、植民地を持つこ とや帝国主義的なやり方が、免罪になるとは思わないが。)

この二冊の本は、台湾が日本領になって、未だ発展途上にある時期に、 二人の土木技師が、それも日本の最高学府を出た新進気鋭の技師が、 お互いに些かの認識はあったかも知れないが、それぞれが別個の立場 で、個人的な功利を離れて(多少はあったかも知れないし、勿論、当 時の国策の遂行の為であるとは言え、)、台湾の農林業の将来の為に 献身的な尽力をし、完成に漕ぎ付けた事蹟について書かれたものであ る。又、その技法・工法も事業の完成から一世紀近く経過した現時点 で考えても、全く完璧な程の完成度の高いもので、今現在も現地で非 常に役立っている点に驚かされる。

1)前者の「百年ダムを造った男」とは、台湾南西部にある「烏山頭ダ ム」を中心とする嘉南平野の灌漑事業を成功させた<八田与一技師>で、 この人物の事蹟を描いたもので、この嘉南平野は今日に至るも台湾一の 肥沃な穀倉地帯であり、
2)後者の「水の奇跡を呼んだ男」とは、八田技師の大学の先輩にあた る<鳥居信平技師>で、彼の人柄や彼が台湾南部の山岳地域に作った遠 大な「二峰?」と言う地下堰堤と灌漑水路について書かれたもので、そ の水脈は今も台湾南部一帯に豊富な水資源を供給しているのである。

時代は遥か昔の事ではあるが、我々日本人の先輩に、このような偉大な 方々が居られたという事を知って、改めてこれら先輩に畏敬の念を抱き つつ、この二冊を読み終えた次第である。

 


『レクサスとオリーブの木―グローバリゼイシヨンの正体 上下』
(トーマス、フリードマン著 東江一紀、服部清美訳 草思社) 

石川勝敏    


著者はニューヨークタイムスのコラム「世界の動き」を執筆した、国際情勢、 外交問題の第一人者である。ピューリツアー賞、全米図書賞受賞。

世界のグローバル化を前に躊躇し立ち止まっているかの様な、閉そく感のある 日本だが、グローバル主議者の著者は世界をどう見ているのか、冷戦後の世界 のルールは何か、について解析しているので紹介します。
日本人はどう選択していくのか、これ以上のグローバル化には、難しい問題が あります。著書の一部を紹介します。

冷戦終結後世界のルールは変わった。冷戦が終わって消えたのはソ連とベルリ ンの壁だけではない。世界中の国の壁が消えてしまった。
著者によれば、ハンチントンの「文明の衝突」は未来を予測するための材料に あまりにも多くの過去を引き出している、ポール・ケネデイの「大国の興亡」 はスペイン、フランス、イギリスの3つの帝国の没落の軌跡をなぞってアメリ カという帝国がその覇権主義故に没落する番だと、ほのめかしている、フク ヤマの「歴史の終わり」には社会を運営する効率的な方法としてリベラリズム と自由市場主義資本主義の勝利に対する評価があるが、勝利が決定的で不動な 物と感じさせる、としている。著者の世界像とは異なるとしている。
これらの労作は冷戦後の国際情勢を支配する動力部分を単純明快なひとつの大 概念で切って取って見せてくれたので異彩を放っている。

本書では上記の著書と異なるグローバル化と言う新しい国際システムが根付い ている事を理解せよと言っている。
グローバル化には経済の開放、規制緩和、民営化、金融、技術、情報の民主化 を中心とした経済法則があり、世界の均質化を進めるが、また強い反発も招い ている。グローバル化には独自の特徴的な技術がある。コンピューター化、小 型軽量化、デジタル化、クレジットカード、衛星通信、光フアイバー、インタ ーネット等である。
グローバル社会には冷戦の力関係より複雑な力関係がある。グローバル化超大 国アメリカとの力関係や、国家とグローバル市場とのバランスが重要である。
グローバル化の進展度を6段階で見ると6のアメリカに対し日本とフランスは5 段階で日本は温室の花と評価されている。グローバル化しない国家は衰微して いくという。
グローバル市場にはマウスのクリック一つで世界のあちこちに資金を動かす何 百万の電脳投資家集団がいる。
電脳投資集団と超大市場の動向は国家に多大な影響を与え、時には政府の倒壊 を招く事もある。更にグローバル市場では個人の力が強大になり、世界のステ ージで活躍する個人がいる 本書の書名はレクサスとオリーブの木である。トヨタ自動車の高級車レス
は66人の人間と350台のロボットが一日300台の高級車を生産している。一方ベ イルートやエルサレムでは、どのオリーブの木が誰のものかを巡り争っている。
この状況は冷戦後時代にぴったりの象徴的な出来事に思える。オリーブの木は アイデンテイテイを与え、居場所を確保し、家族の温もり、自主独立の喜び、 私的関係の深さを示すものである。

著者の示す国家査定の8つの質問を掲げてみよう。
?あなたの国はどれくらい接続されていますか。(世帯当たりパソコン数)
2あなたの国はどれ位高速ですか。(政治、経済、コンピューターシステム)
3あなたの国はどれ位自国の知識を収穫していますか。(知識の蓄積、共有、
収穫)
4あなたの国の重さはどの位ですか。(輸出コンテナの平均重量)
5あんたの国は公開する勇気がありますか。(開放的な者が繁栄する)
6あなたの国はどの位友人作りが上手ですか。(水平連携が企業モデル)
7あなたの国の運営者は理解していますか。(指導者の情報裁定)
8あんたの国のブランドはどれ位良いか。(電脳集団にブランド力があるか)

著書は10年以上前に発表されたものであるが世界中で進行するグローバル化
の実態を挿話的に数多く捉え解析している。
反発も多いグローバル化であるが、我々はその影響下で生きている。
色々考えさせる二冊であった。ご一読をお薦めします。

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『アメリカ便り(24)世田谷ラジウムと台北コバルト』
濱田克郎 





昨秋、世田谷区の民家の床下から高い放射線が測定された(時間あたり600 マイクロシーベルト)ということで大騒ぎになった“事件”があった。
床等による遮蔽効果を差し引いても年間90〜180ミリシーベルトという線量 に該当するそうである。現在福島県の避難区域になっている場所で観測される放 射線量より桁違いに“高い”放射線量である。
しかし、年間100ミリシーベルト前後の放射線を床下のラジウム226から 50年間も浴び続けていた方が、92歳で健在であるということが分かると、 マスコミはこの報道をしなくなった。
恐怖感はあおっても、心配しないで良いようですよということは話題性に乏しい と思うのだろうか。

その後、福島県の採石場の石から放射線が検出され、その石が建築資材に各地で 使われていたことが判明したということでまた大騒ぎになっている。1キログラ ムあたり最大で20万ベクレルの放射線が測定されたそうである。少し単位を混 同しがちであるが、地震に例えていえばベクレルは強さを表すマグニチュード、 シーベルトは体への影響度を表す震度、とでも理解すれば良いのだそうである。
どれだけとてつもない数字なのかと思っていたところ、環境省や県などが現地で 測定したところ、時間あたり9.8〜40マイクロシーベルトであったとのこと である。時間あたりの放射線量で比べれば、世田谷の民家の方が桁違いに多いこ とになる。しかも測定場所は採石場であり、石とセメント等を混ぜて建築資材と して使った建設現場ではこれより低い値となると想定される。
(ベクレルという単位は、原子核1個をベースにした単位ということである。
18センチメートルの鉛筆の長さを18万ミクロンあるということに例えるに似 たり、というと不謹慎といわれるのだろうか。)

これに似たような話を研究した論文があったような気がして、少し調べてみたら、 次のような研究報告が見つかった。(2007年公表の論文、出典は注1参照)

台湾の台北において、1982年から1984年にかけて建設された建物に、放射 性のコバルトに汚染されたリサイクル鋼材が誤って使用されていたことが1992 年頃から1998年にかけてその事実が徐々に明らかになったらしい。その後の長 年の詳しい調査の結果、1700戸のアパートを含む180の建物に使用され、こ こで生活した人の数は出入りした人を含めほぼ1万人にのぼることが分かった。
これらの居住者の居住期間は、短い人で9年間、長い人は20年近い。
当初の被曝放射線量は、少ない人で年間18ミリシーベルト、多い人で525ミリ シーベルト、平均で年間49ミリシーベルトと推定されている。
これらの居住者の健康について、台湾の様々な機関が調査や研究を行った結果、驚 くべきことが明らかになったという。
この期間の台湾の一般人のガン死亡率は10万人年あたり116人であるが、ここ の居住者のガン死亡率は10万人年あたり3.5人、つまり一般人のガン死亡率の 30分の一以下であったという。
また、新生児の先天性異常は一般人の場合1000例あたり23ケースであるが、 この居住者の場合、1000例あたり1.5ケース、つまり一般人の先天性異常出 産率の15分の一であったという。
これらの例は、“放射線は少量であろうが多量であろうが、その量に比例して健康 に害を及ぼす”というLNT仮説では全く説明がつかず、放射線ホルメシス(閾値を 超える放射線は健康に害を及ぼすが、閾値より低い放射線はむしろ健康にプラスの 効果をもたらすという説)の証左となる一つの例である、というのがこの論文の主 旨のようである。
 注1
Chen WL, Luan YC, Shich MC, et al. Effects of cobalt-60 exposure on health of Taiwan residents
suggest new approach needed in radiation protection.
Dose Response 2007; 5:63-75.
因に、建物のうち年間放射線量5ミリシーベルト以下のものは、今でも使われている そうである。

福島県の避難地域の人々がそれぞれの地域に戻った場合の健康への影響について、 LNT仮説をベースにしている人たちの計算でも、ガンによる死亡確率が0.5ポイン ト上昇する程度の影響なのだそうである。
住み慣れた家を離れて不便な生活をし、必要以上に放射線による健康被害を心配し、 こどもを外で遊ばせないこと等による諸々のストレスによる健康へのネガティブな 影響を心配することの方が遥かに重要ではないのだろうかと思うのは私一人だろうか。
ましてや、少量の放射線はむしろ健康に宜しいというのはラドン温泉の効用を昔から 体感ないし見聞してきた日本人には、納得が行くことなのではないだろうか。
そろそろ、闇雲に怖がらず正しく怖がることが可能ではなかろうかとも思われる。

人々への影響力は、理性に訴えるよりも恐怖心をあおる方が遥かに強く、しかも一度 恐怖心を持ったらそれを克服することには大変な時間と努力を要するが、理性の力と 落ち着きが大いに役立つのではないだろうか。

    

 

 

 評論の宝箱は、2004年1月1日発刊以来本号で200号を迎えました。これもご寄稿者、 読者等の皆様のご支援の賜物と心から御礼申し上げます。
引き続き宜しくお願い申し上げます。

ところで、江上剛氏が、ある経営者から知識に三つの種類がある教えられたそうです。
一つは、knowledge、二つは、wisdom、もう一つは、intelligence。knowledgeが一 番浅い知識、wisdomは知恵というか、文明的な知恵、intelligenceは、謀略的知識。
その経営者は、『アメリカ人と中国人の経営者は良く似ていて、intelligence、 謀略的知識の持ち主が多くやたらと策謀を巡らす。日本人経営者はwisdomという最も 文明的な知識の持ち主も少しはいるが、多くはknowledge、浅い知識ばかり溜めこん でいる人だ。だからいざ危機となると右往左往してしまう。日本人は、確かに真面目 だが、それだけでは時代の変化に対応できない。だから最近の日本企業は沈んでしまっているのだろう。真面目なのは、もう十分に分かっている。もう少し、経営者も社員 も不真面目になるべきだ。そうなった方が、会社も生き生きするのではないだろうか。』
と指摘されているそうです。

最近の諸々の状況にを見るに付け、尤もな指摘に思われます。
グローバル化を含めて新しい時代にどう対応するべきでしょうか。時間がかかる可能性はあるものの日本の教育から抜本的に見直す時期がきているのではないでしょうか。
今号も貴重なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)





 
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