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2004年8月15日 VOL.16

■書評
・『トリアングル』― 河西孝紀
・『セイビング・ザ・サン―リップルウッドと新生銀行の誕生』― 桜田 薫

【私の一言】『楽隠居』 岡本弘昭

 

 

『トリアングル』
著者:俵万智   出版社:中央公論新社

河西 孝紀 
 この夏の暑さには逆らえず、家に蟄居。こんな時、難しい本を読む気にもなれず、軽く読み流したのがトリアングル。
 主人公は30代前半の女性「薫里」かおり。妻子ある年上の男性と年下の恋人との間で、心を揺らせながら、自分の生き方を模索して行く話。小説の中に彼女独特の短歌が多数挿入されており、効果的な役割を果たす。
その短歌の一部を紹介する。
:蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと
:水蜜桃(すいみつ)の汁吸うごとく愛されて前世も我は女と思う
:きつくきつく我の鋳型をとるように君は最後の抱擁をする
 話題になった「蹴りたい背中」「蛇にピアス」等にはとてもついて行けないが、この本なら中高年でも「新しい女性像」が朧げながら理解出来るような気がした。


『セイビング・ザ・サン―リップルウッドと新生銀行の誕生
著者:ジリアン・テット  出版社:日本経済新聞社

櫻田 薫 
 これは長銀破綻から新生銀行の現在までの歴史を、重要な場面でそれぞれ関係した人間の側から描いたドキュメンタリーである。著者はFTの日本支局長を務めた英国の女性であるが、綿密な取材と筆力で銀行や金融の門外漢である私にもよく理解できる物語になっている。息をつかせぬ面白さで一気に読了した、と言うと、何人かの自殺者までも生んだ悲劇でもある多くの当事者には失礼かもしれない。
 バブル経済華やかな頃、30年続いた高度成長で日本は個人も企業も豊かになり、銀行は資金の行き先の開拓を迫られていた時代であった。余ったお金は国内の土地にとどまらずプラザ合意(85年)による円高で安くなった外国の資産購入に向かった。三菱地所は、エンパイアステートビルを買い、イトマンはペブルビーチのゴルフ場を買い、すべて時価よりはるかに高い購入価格だった。土地の値段は上がり続け、外国資産は円高が続いてさらに安く買えるようになった。このようなすべての銀行や企業、個人まで巻き込んだ狂乱の時代でも、長期的な視野で現状に疑問をもち銀行経営の改革を志す人物もいたが、それは少なかった。
 やがて90年代に入ってバブルが崩壊し、担保になった資産価値の下落が始まったが、時代の変化に合わない政府の規制や当面の収入源を見切れない状況の中で、銀行の経営方針に選択の余地は限られていた。行なったこと(あるいは行なわなかったこと)は、ほとんど結果として間違っていたことになるが、長銀経営者の多くは良心と信念をもってその時々に最善の判断をして事態の打開に努めたことが描かれている。事実、筆者はだれも不誠実な悪人とはしていないし、むしろすぐれて知的な人格者が多い。客観的な立場からは、リスクを負う決断する勇気がないと批判はできようが、独裁者や一匹狼でありえない本質的にサラリーマン経営者には社会秩序を大きく破壊するような決断はできない。文中に私にも面識のある人物も何人か登場するので、困難な状況に取り組んできた登場人物の苦悩が益々身近にも感じられた。銀行内に改革派と保守派の対立もあるが、この命題は、あくなき利潤を求めて合理的に行動するウォール街と伝統的な価値観と慣行に固執する日本のビジネス社会の対比と重なる。
 メーンバンク制にもとづく企業秩序(借り手会社は倒産させない義務感)や政府も関与する調和を基本にする社会的ネットワーク(政府の指揮下で奉加帳で救う)に見られる日本の慣行は、明らかに米国(あるいは西欧)の商習慣や文化と違う。もっともお金の余裕がなければ慣行も守れないけれども。この違いに見られる文化的相克は、その後「そごう」切捨てなど日本的慣習を捨てた新生銀行の経営に顕著に表れているが、著者は特にその点に興味を持っているように思われる。日本経済の回復にも後押しされて、リテールを中心とした新たなビジネスモデルを採用した新生銀行は、順調に発展しているように見えるが、累計で5兆円の税金投下があったことは無視できないだろう。
 この銀行を作ったバルチャー(はげたか)・ファンドの企業家たちの力によって、この米国式銀行が日本の金融制度に風穴を開けたとしても(それは歴史的には日本への貢献であるが)、日本には簡単に変わりそうにない精神風土もある。「引き伸ばしておけば何とかなるだろうという日本型意思決定の風土」、「日本の役所は妨害という負の力で権力を保っている」「日本の変化はガイアツで生じる方が受け入れ易い(失敗すればその所為にできる)」「日本では契約文書の文言よりも総合的な約束が尊重される(ことがある)」など、本書の随所にある批判と警句である。それでも本書には、(米国とは違う企業文化を持った)英国人から見た日本文化や伝統に対する好意的な姿勢が感じられる。




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『楽隠居』

岡本弘昭

 廃用症候群と言う言葉がある。広くは、体を使わないことによる機能低下をいい、例えば骨折が原因で治った後も寝た切りになること等が典型である。
 脳にも機能低下がある。原因は、脳そのものの問題とか、脳にエネルギーを運ぶ血液の問題などもあるが、脳を使わない状態が長く続くことによる場合もある。例えば、ワープロを使うようになったら漢字が書けなくなったというようなことを経験するが、これも脳の廃用症候群の一種である。
 脳の廃用症候群に陥るきっかけとしては、例えば、仕事人間が定年退職し、人との交流・会話が極端に少なくなったため、脳のどこかが休んでいる状態になるという生活環境の変化があげられる。この場合、いずれは機能が使えなくなるというプロセスを辿る。また、便利で楽しい生活環境も、脳にとっては機能低下の誘因となる。
 生活を享受することは、パターン化した生活、あるいは、何かに頼りきった生活になりかねなく、これが脳を使わない原因になり、ボケへの道となる。
 つまり、しっかり働いてきた人は、加齢するほど従来以上に緊張感を持たねばならず、自分で課題を与え目標を持つことが必要である。楽はいけない。これが、ボケ防止のコツであり、楽隠居という言葉は、もはや現代人には通用しないのでないだろうか。





 
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