このサイトでは書評、映画・演芸評から最近の出来事の批評まで幅広いジャンルのご意見をお届けしていきます。
読者の、筆者の活性化を目指す『評論の宝箱』
意見を交換し合いましょう!

 
       



■2010年10月1日号 <vol.163>

書評 ─────────────

・書評 稲田 優 『学校で習わない日本の近代史〜なぜ戦争は起こるのか』
            (横内則之 著  文芸社)

・書評 石川勝敏 『繁栄と衰退と(オランダ史に日本が見える)』 
            (岡崎久彦著 文芸春秋社)

・【私の一言】 岡田桂典 『応仁の乱』






2010年10月1日 VOL.163


『校で習わない日本の近代史〜なぜ戦争は起こるのか』 
(横内則之著  文芸社 )

稲田 優    

日本の代表的自動車メーカーに勤務した後、関連会社の役員を2年前に引退した著者が「地球一周の船旅」に参加し、その船内で「日本の近代化を語る会」というタイトルで自主企画講座を開いた。この本はそのとき用いた講義ノートが元になっている。
対象とする時代は、明治維新からサンフランシスコ講和条約までで、ビジネスマンらしく左右の思想を意識することなく淡々と、しかし普通人の目線でしっかりと論評を加えながら近代史の暗闇に手を入れ、根気よく整理した力作といえる。

前書きによれば本書の目的は、なぜ無謀なあの戦争をしたのかということと、明治以来、世界情勢の変化に揉まれながら、ほんの数世代前の人たちが近代国家建設のために、どんなに大変な苦労をし頑張ってきたかを、若い世代に知ってもらい元気を出してもらいたいということの2点にあるという。
「物事には表もあれば裏もあり、何かを為すにはそれなりの理由がある」ということがキーワードになっている。
事実は事実として鋭い洞察力で俎上に載せて解説する中に、卓越した人間観、世界観、自然史観が光彩を放ってきらめいている。

こうして明治維新の位置づけから歴史が紐解かれるが、その中に廃藩置県で新たに県名をつけるにあたっては、戊辰戦争時に佐幕派であった県は、県名と県庁所在地名が異なるように差別された等の、教科書には載っていない話が余談として挿入されており興味深い。

またアメリカがその国土を拡大する歴史に触れ、フランスからルイジアナ
(ミシシッピー川からロッキー山脈の間)の売却を受けて、広大な領地を獲得したことのすぐ後に、著者自身の体験談を次のように語ったくだりがある。
「ロッキーからミッドウエストを飛行機で飛ぶと、下界は見渡す限りの農地と牧場が広がり、原生林は所々に原形をとどめるだけで、よくもまあこれだけ広大な土地を切り開いたものだと、人間のあくなき欲望に感心する。エコ問題の発祥の地はアメリカである。」。虚をつかれたというか新鮮な視点である。

また一旦は同意した海軍が、ロンドン軍縮会議の結果で内部対立が起こった元凶は東郷元帥中心の艦隊派の大艦巨砲主義にあったとして、東郷元帥を成功体験のとりこと断じ、「トラファルガー海戦のネルソン提督のように名誉の戦死をしておれば真の軍神となったであろうが、なまじ長生きしたために晩節を汚すこととなった」と筆が冴えわたる。
あとがきには、この本は歴史を知らない若者向けに作成したとあるが、むしろ団塊の世代によって実感を持ってむさぼり読まれ、徐々に壮・青年に読まれてゆくような気がする。一読を推奨したい。


『繁栄と衰退と(オランダ史に日本が見える)』 
(岡崎久彦著  文芸春秋社)

石川 勝敏   

著者は東京大学在学中に外交官試験に合格、外務省に入省、ケンブリッジ大学経済学部および修士課程を修了、駐サウジアラビア大使、駐イタリア大使等を歴任した。
オランダの歴史の著書は少ない。私はオランダ史を読んだのは初めてであった。新教徒ゆえに鎖国の江戸時代、長崎での交易が認められていた程度の認識しかなかった。

オランダ史は大国の盛衰の序章を語るものであった。モデルスキーの16世紀をポルトガルの世紀、17世紀をオランダの世紀、18世紀はイギリス覇権の第1期、19世紀はその第2期、20世紀をアメリカの世紀と捉える見方がある。ポール.ケネデイの大国の興亡の論旨は大帝国を維持するために経済力を超えた軍事力を維持しすぎることが、帝国の衰退の大きな原因となるというものである。

しかしオランダはありあまる富を軍事力に使わなかった油断を英国に突かれそれが戦争の誘因ともなり敗戦と没落の原因となった。軍事力を増強しなかったのはブルジョワ層の抗争、国益よりも私益を優先する思考(敵軍に兵器を売って儲けた)州間の国内抗争にあった。17世紀にはスペインが新大陸から富を集め強大な国家になりヨーロッパ諸国に強い圧力をかけ、新教徒弾圧と侵略を繰り返したが、海軍力でも陸軍力でもスペインに対抗できる国はなかった。
この図書の中にスペインの行った新教徒弾圧の凄まじさ、侵略の凄まじさが数多く記載されている。オランダの救世主ウイリアムの指導と幸運でスペインは侵略を防ぎ、オランダは信教の自由と産業革命の時代にいち早く突入した。

ヨーロッパはオランダから殆ど全ての事を学んだ。オランダは近代農業、漁業、航海と発見の先駆者、合理的商業制度、財政学、商業銀行、出版、科学、医学の最新国であった。
貿易と産業で稼ぎ、裕福で平和主義のオランダが何故衰退したのか。富裕の富を軍事に使わなかった事とイギリスやフランスのオランダの繁栄に対する嫉妬の故である。
理屈ではない感情である、カルタゴ滅ぼさざるべからず、とイギリス、フランスに言わしめたオランダの繁栄が衰退の原因である。現代日本の繁栄と平和主義に問題はないのか。
中世の異教徒迫害や戦争後の略奪殺戮の記録を読んで日本人には理解できない暗い闇を見た思いがしました。オランダ史の図書は少ないと聞きます。是非御一読をお薦めします。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『応仁の乱』
岡田 桂典

かつてメ建武の中興モと申し上げました民主党政権、本物は2年続きましたが鳩山さんが9ヶ月、菅さんはたった3ヶ月で政権基盤が揺るぎました。その原因が"建武の親政"崩壊の場合は"恩賞と人事への不満"でしたが、今回も"挙党一致"の要求、すなわち同じ人事の不満ですからやりきれません。

今回の代表選挙、ビジョンも夢も無く、菅さんに"対抗馬"が現れ、両"陣営"に"軍師"がいて、小沢、菅両氏がいよいよ"出陣"して、"一騎打ち"と 興味本位の"戦い"を見聞きしていると、今度は地方勢力が勢力維持のために、"跡目争い"を発端に戦いを始めた"応仁の乱"の始まりにみえてきました。日本史の分水嶺といわれる応仁の乱は10年続き、京の都は灰燼と化しました。1年の治世になんら実績が無く、国民無視の騒ぎで与党内の亀裂は決定的で、政治情勢は混沌たるものになりそうです。

これは経済的にも日本の先行きを"ジリ貧からドカ貧"へと導くと案じられます。最も憂慮されるのは過去2回本欄で述べました「財政破綻」の危機です。今のままで「破綻」を避けられるという人は一人も無く、ただメいつかモという時間の問題にすぎません。日本は危険水域に入っているのです。

ではどうやって破綻を防ぐべきでしょうか。「財政の持続可能性は、大幅な国民負担増を認めない限り実現不可能」(池尾慶大教授、9月10日日経、)というのが正解だと思います。メ失われた20年モを見れば今の政治家、官僚に構造改革、経済の成長を期待するのは幻想だからです。こうなった以上、政府は大幅な増税、福祉予算の削減をも実行し、国民もそれを許容しなければいけません。

大変心配なことに、最近今の日本はもう駄目だという意見がでてきました。「国力が衰えることへの危機感と改革をいとわない指導者の気概が必要だが、日本の指導者、有権者の多くに欠けている。そうであれば落ちるところまで落ちるのも手かもしれない。弱いリーダーにあえて利点を見出せば、国民の危機感が高まること」 これは日本を代表する経済紙、日本経済新聞の論説委員長 平田育夫氏の文章(9月6日日経)ですから重大です。また、「今日の閉塞感の下、若い世代にメ焼け野原願望がありモ世の中すべてをリセットしたいという願望がある」(朝日天声人語。9月18日)という記事も深刻です。

まさに、今の日本には新"応仁の乱"による荒廃は必然であり、かつ必要なことであるということになります。しかし禅の言葉に「落ちるところまで落ちたらしめたと思え」という教えがあるように、すべてをあるがままに受け止めて、国家再生のために、新しい覚悟が必要な時代に入ったと考えます。

 

 

論語に「行くに径によらず。」という言葉があります。常に堂々と大道を歩み、かりそめにも抜け道をくぐるような姑息な手段を弄してはいけないと言う意です。
しかし現実の社会現象は、この径を選んだため行き詰まっていることが多いように思われます。
これは何が大道かが解らなくなったためと思われます。改めて大道教育がいる時代なのでしょうか。
今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)




 
バックナンバー
2012/12/15
2012/12/01
2012/11/15
2012/11/01
2012/10/15
2012/10/01
2012/09/15
2012/09/01
2012/08/15
2012/08/01
2012/07/15
2012/07/01
2012/06/15
2012/06/01
2012/05/15
2012/05/01
2012/04/15
2012/04/01
2012/03/15
2012/03/01
2012/02/15
2012/02/01
2012/01/15
2012/01/01
2011/12/15
2011/12/01
2011/11/15
2011/11/01
2011/10/15
2011/10/01
2011/09/15
2011/09/01
2011/08/15
2011/08/01
2011/07/15
2011/07/01
2011/06/15
2011/06/01
2011/05/15
2011/05/01
2011/04/15
2011/04/01
2011/03/15

2005/03/01

2004/12/01

 
 
 
 
 
Copyright(c)2001-2009 H.I.S.U.I. Corp. All right reserved.
□動作確認はMac OS9.2 + IE5.1にて行ってます。
□当サイト内コンテンツおよび画像の無断転載・流用を禁じます。










SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送