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2006年12月1日 VOL.71

 

 

『良寛』 
著者:栗田勇   出版社:春秋社

後藤田 紘二 

本書は良寛さんに関する格調の高い研究文献である。江戸の後期に新潟県三条市の庄屋の家に生まれ、家運の傾く頃、18歳で剃髪し、その4年後、縁あって備中玉島円通寺に赴き、20年近く仏道の修行、遍歴を重ね、やがて39歳で故郷に戻る。その後も縁に従い縁に任すという生き方で74歳の生涯を終えるまで、世俗を捨てて乞食のように大愚として生きて、死んでいった良寛さんについて、著者は詳しく論じている。
不確かな歴史上の人物、良寛さんを、良寛さんの作品即ち詩歌、書、手紙などから類推してその実像に迫ろうとする著者の並々ならぬ努力には驚きを覚える。
良寛さんの足跡を辿り、その傑出した作品の内に秘められた心の奥底を解き明かしながら、ここに描かれている良寛像は、子供等と手鞠つく明るい好々爺のイメージとは異なるものである。不運で厳しく孤独な境遇に身を投じ、自然のままに事を運ぶ暗いイメージの、まるで乞食僧のように映る。
しかし、僻地の草庵にひとり住み、托鉢して心を養う良寛像に接すると、現代の日本人が置き忘れている何か大事なものを取り戻すような気がする。非日常的な言語を多く含む難解な書物ではあるが、目先の功利打算ばかりを追う軽薄な今の世にあっては、貴重な役割を果たす文献だと思う。
最後に一句; “散る桜 残る桜も 散る桜”(良寛)




 
『半島を出よ』
著者:村上龍   出版社:幻冬舎  
櫻田 薫 

3年前に出版された小説だが、当節の状況を考えると現実味のある話である。近未来の2011年に起きる想定で北朝鮮軍による九州占領をテーマにしたいわば冒険小説であるが、全くありえない話ではないだろう。あらすじは、北朝鮮から9人のゲリラが侵入して福岡ドームの観客を人質にして市を占領することから始まり、まもなく増援軍が飛行機で到着して市の行政を掌握し独立政府を宣言する。地域の警察も事なかれ主義の行政当局も、強力な武力を持つ占領軍に協力する他はない。日本政府は愕然とするが、この占領軍は金正日に反抗して半島を出てきた高麗遠征軍と称しており、北朝鮮政府に抗議しても反乱軍として相手にしてもらえない。同盟国の米軍も武力介入をする気はない。さらに福岡市民が既に人質になっているので、日本政府は多数に国民の流血を招くことを恐れて自衛隊による占領軍の排除を決断できない。またテロ工作員が全国に潜入しているらしいので、戦争になると数十ヶ所の液化ガス貯蔵基地が攻撃されて壊滅的な被害が想定される。このような状況で政府各部門では責任逃れがはじまり、結局、福岡を見捨て隔離して「占領軍」を事実上容認する道を選ぶことになる。作者は北朝鮮の体制や生活慣習をよく調査して国家の命令に忠実な北鮮軍将校や兵士の人間像を描き、いっぽう挑戦する無頼の若者たち(マンガ的だが)は毒虫、武器、爆薬などに趣味をもつアナーキーな個人として対比させている。芥川賞作家村上龍のイメージは「限りなく透明に近いブルー」しかなかったが、ここでは危機的状況における政府の対応と日本人の国民性について考えさせられる。





 

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『政治の先見性と民主主義』
川井 利久
戦後60余年を経て社会のさまざまな面で行き詰まりや矛盾が顕在化している。少子高齢化、財政破綻、教育の荒廃、核の脅威、隣国との領土紛争など難問が山積している。これらの原因はかなり以前から予想され、先手、先手で対策を取れば、充分軌道修正が可能で、解決の容易だったものが多いと思われる。
これからの問題として国際化の負の現象が顕在化されるだろう。産業の空洞化、低賃金の不法移民の大量流入、日本の農業の衰退、治安の悪化など難問が増加している。しかし政治の動きは極めて緩慢で、小さな主張の違いで国会は紛糾ばかりしている。大きな問題は先送りで一向に解決せずより困難になるばかりである。
兎に角、民主主義は時間がかかる。衆愚政治と言われる所以である。
無党派層が50%を占めている国が他にあるだろうか?こうゆう時に独裁者が現れると案外簡単にそれに傾きがちになるのは、歴史が証明している。
ナポレオン、ヒットラー、スターリン、金正日いずれも国民を不幸にした。
国民を幸せにした独裁者はやはり少ないし、短期間で終わる。
じれったくても、やはり民主主義で行くしかないのか。効率的民主主義の制度を考え出して政治の先見性と実行力の回復を図らなければ、この国は長期的衰退の道を歩むことになるだろう。




 

 
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