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■2010年9月15日号 <vol.162>

書評 ─────────────

・書評    丸川 晃  『環境と経済の文明史』
             (細田 衛士著  NII出版)

・書評    入江 萬二 『経営の精神
              〜我々が捨ててしまったものはなにか』
              (加護野忠男著  生産性出版)

・【私の一言】 矢野 清一 『「変わる世界、立ち遅れる日本」を読んで』





2010年9月15日 VOL.162


『環境と経済の文明史』 
(細田 衛士著  NII出版 )

丸川 晃    

極めて魅力的な題名に釣られて、衝動的に求めた本である。そして読了後の評価は、満足、不満足が半々というところ。題名通りの環境問題と経済との関連を核にして展開された歴史とその評価については、実に興味津々で、教えられることも多かったが、特に経済・政治体制問題などの展開については、あらずもがなというところ。

もともと、大学教養学部での講義録ノートをベースにして書かれた本だけに、その制約を考慮すれば、『環境経済学』の入門書としては適切であっても、環境問題と経済との相互関連という極めて不確かで一筋縄ではいかない性格を持つ課題を"文明史"に結びつけて評価するという難作業は、必ずしも成功したとは言い難いようである。

本書を一貫して流れる経済思想は、『余剰生産物』という概念である。これは、人間の生活水準を保証する以上に生みだされた生産物を意味し、従って『余剰生産物』を増加させようとする経済活動は、昔から多かれ少なかれ自然環境に負荷を与えてきた。

チグリス・ユーフラテス時代の潅漑農耕、牧畜から始まった『余剰生産物』の生産は、これが北上して産業革命を経てEurope、特にブリテン島の豊富だった森林を殆ど崩壊してしまったし、煙・塩害やCO2問題を発生させた。日本でも、縄文末期、弥生初期から水稲栽培が始まり、なかでも江戸時代は『余剰生産物』の中核をなす稲作は、米マ藁マ紙・その他加工品マ肥料というサイクル利用を徹底させて、経済発展と環境保全とが両立していた世界でも珍しい時代であったとする。

そして21世紀の環境危機の深刻化に対処するためには、環境への負荷を伴わずに『余剰生産物』を創出する、即ち、日本的な美や和の精神性に効用を感じる生き方に、生活態度を変換する必要があると結んでいる。

本書は、矢張り、環境経済学の入門書であり、また問題提起書でもある。
 


『経営の精神〜我々が捨ててしまったものはなにか』 
(加護野忠男著  生産性出版)

入江 萬二   

著者に面識はないが仄聞するに高校の後輩で、現在神戸大学大学院教授。2000年の渡米中に脳出血を起こし、幸い一命は取り留めたが、左半身不随になった。帰国後日本の病院で7ヶ月のリハビリを受け、動く右手で文章を書き始めたのが2001年。
その病室にいたときに感じたのが、世界全体に比べ日本のビジネスマンはずいぶん自信を失っているし過剰に悲観的になっているのではないかということ。

スタインベックの「怒りの葡萄」の文章を引用しながら、著者は「厳しい環境下でも生きていくための道を自ら切り開いていこうとする男たちの気持ち」が日本の産業社会から無くなっていると指摘する。また信じられないような品質不良や産地偽装、リコール隠し等、日本企業で働く人々の内部で大切なものが蝕まれているとし、本来あるべき元気さや品質を取り戻すべく方策を書いた一冊である。

著者によると、企業経営を成り立たせるには、企業で働く人々の内面から人々を律し、動かす心構えが必要で、それを“経営の精神”と定義している。

よい経営を行うには次の3種類の精神、即ち
(1)「市民精神」:社会の秩序を尊重し、真剣に仕事に取り組もうとする勤勉さや克己心。
(2)「企業精神」:何ものかを追い求め、様々な障害を克服しても志を成し遂げようとする精神。闘争心、志を実現しようとする強靭な意志。  
(3)「営利精神」:抽象的な利益にこだわり、そのために合理的判断をはたらかせようとする精神、自分自身の利益をもとに考えようとする自利の精神。
この3つの精神が必要であると述べるとともに、一方でこの3つのうち、どれかが勝ちすぎると〜
(1)市民精神が勝ちすぎると、企業の元気さが失われる、
(2)企業精神が勝ちすぎると、暴走となる、
(3)営利精神が勝ちすぎると、取引先や社会から支持を失う〜
といった問題が発生すると指摘している。

このため3つの精神のバランスを取ることが重要であるにも拘わらず、日本の企業ではこのバランスが失われ、また3つの経営精神にそれぞれ次のような歪みが生じた。具体的には
(1)「市民精神」;勤勉さや愚直さが弱くなっている。
(2)「企業精神」;企業の競争力それを支える闘争心の低下。志や使命感の喪失。
(3)「営利精神」;度をこえた営利精神。
このようなことが原因で、日本の企業は近時問題を起こしたり、元気がなくなったりしていると著者は本書で指摘している。

市民精神と企業精神が弱体化し、営利精神ばかりが肥大化した結果、経営の精神は劣化を招いたが、著者は以下の7つを日本的な解決策として提案している。
(1)厳しい競争が演じられている市場での戦いに参加する、
(2)事業の絞込み、
(3)経営精神の可視化、
(4)経営者の自信回復、
(5)従業員のコミットメントを高めることによって市民精神や企業精神を高めること、
(6)会社統治制度を再改革によって、行き過ぎた営利精神を健全化する、
(7)経営教育制度の見直し、

また著者は、本書の中で、日本の優良企業では市民精神が格段に強いと指摘している。
その例として、企業が市民精神を涵養し伝えるために生み出した独特の方法〜「習慣化」
(5S:整理・整頓・清潔・清掃・躾)や形として些事へのこだわり(朝会、ラジオ体操等)、また多元的、多面的、多重的信頼チェックシステム(単に上司だけでなく、同僚や部下がチェックしたり、仕事上の行動だけでなく、仕事以外の行動もチェックされたり、入社後何度も人々がきっちり仕事をしているかどうかをチェック)等で企業内部の市民精神は支えられていると非常に興味深い観察を行っている。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『「変わる世界、立ち遅れる日本」
(ビル・エモット著 PHP新書)を読んで』

矢野 清一

著者のエモット氏は、エコノミスト誌の東京支局長として数年間日本に滞在され、日本の事情にも明るく、日本経済の実情を的確に分析し、分かりやすく問題点を洗い出していて、その論調につい吸い込まれてしまう所が多い。又、訳者の烏賀陽氏も、実業界の第一線で活躍されていただけに、分かりやすい文体で進められており、一気に読み終えることが出来た。
著者は、現在の資本主義の中にも、色々と問題点は多いが、今現在考えられる社会の仕組みとしては、資本主義以外には考えられないとしており、この点は全く同感だ。ただ、著者も言っているように、一口に資本主義と言っても、色々なやり方や段階があり、社会全体にとって、不安定な要因や問題となる要因は、規制されるべきと考える。

一般庶民としての素朴な考えから、「ギャンブル資本主義」は規制されるべきと考える。今回のリーマン・ショックから来ている世界的な不景気の大本は、サブプライム・ローンと言う、本来、低い評価しか得られない債権を、金融工学だかなんだか、素人には理解できないような難しい理屈を並べて、優良債権とうまく混ぜ合わせる事で、リスクを薄めて運用させ、この債権を目先の利益のみを追求する銀行辺りにうまく売り込むと言う、巧妙なやり方らしく、どうも頂けない気がする。

どんなに薄めても、リスクが無くならなる筈はなく、結局「ババツカミ」で、最後には誰かがババを掴まされるのだから、これは博打以外の何者でもない。又、博打に偶々当たったからと言って、バンカーが莫大な報酬を得ていることにも納得がいかない。
とは言え、世界経済全体は、EU圏の一部の問題を除いて、アジア地域などでは、何となくこの不況から脱出しつつあるように思われるが、一人、日本だけが何時まで経っても不景気のままで、一体、日本の為政者や企業経営者はどう考えているのか、不信感が高まるばかりである。

又、経済成長率の低さもさることながら、高い失業率を背景にした社会不安も非常に気になる所である。やはり、若いジェネレーションの人達が、将来に夢の持てる社会の再構築が強く望まれる。更に、余りにも大きすぎる所得格差の是正も、喫緊の急務と思われる。失業や低賃金の心配の無い社会になれば、当然消費も伸びて、企業成績も向上し、その結果として、税収も伸びると思われるのに、この循環について、誰もまともに考えていないように思われてならない。

又、資本主義そのものについて考えてみたいのだが、一般に学者連中は、資本主義は、資本家と労働者を対立的な存在と考えているように思われるが、現在の資本主義社会で生産されるあらゆる商品は、最終的には、圧倒的に多数を占める消費者=労働者に購買してもらわなければ成り立たない仕組みになっているので、資本家が一方的に労働者から搾取し続けるような社会は基本的には持続できない構造になっていると思われる。

従って、労働者=消費者の給与を引き上げて、消費を刺激するようにしなければ成り立たないのが資本主義だと考える。儲からないから給与をカットするとか、非常識なコスト・カットを行うなどの方策は、一時的な緊急避難の場合はともかく、所詮、自分の首を絞めると言う結果に他ならない事に、為政者や経営者は早く気付くべきだと考える。つまり、資本主義社会とは、資本と労働とが共存共栄する社会であり、格差社会は持続的には成り立ち得ない事に万人が早く気付いて、その為の対策を考えることが必要だと考える。

又、更に、地球上の資源が有限である事を踏まえて(レア・メタルや化石燃料だけでなく、水や食料も危機ラインに近くなっている)、成長し続ける事だけが全人類にとって良い事なのかどうか、この頃、疑問を持ち始めた。必ずしも物量・数量的な経済成長だけに依存しなくても成り立つ、新しい経済モデルや社会発展モデルを見つけ出す優秀な人材が早く出てきてくれる事を切望する次第である。

 

 

オバマ大統領が、「2030年代に、火星に人を送り込む」と言ったという記事を読んだことがありますが、これはアメリカの政治には未来を考える力があるということだと思われます。
これに対し、日本では「目先の選挙に勝つ」ため、政治家はすぐに効果が出るもの以外は取り組まず、未来を考える長期的視点が欠け、国威の掲揚とか民意の結集がなくなり、政治の貧困さが目立ちます。誰が総理になるにしても、未来が開ける政治を期待したいものです。
今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)




 
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