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■2011年5月1日号 <vol.177>

書評 ─────────────

・書 評     入江萬ニ  『同族経営は何故3代でつぶれるか?』
            (武井一喜 著 クロスメディアパブリッシング出版)

・書 評     石川勝敏  『日銀デフレ大不況』
              (若田部昌澄著  講談社)

・【私の一言】 川井利久  『日本の再構築』


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2011年5月1日 VOL.177


『同族経営は何故3代でつぶれるか?』
 (武井一喜著 クロスメディアパブリッシング出版)  

入江萬ニ   



岡山の有力企業で、インターフェロン(抗がん剤)を量産し、近年バイオテ
クノロジー企業として注目を集めていた林原が2011年2月会社更正法を申請
して倒産した。本書の題名と同じく、同社も典型的な同族企業(ファミリー
ビジネス)であり、創業130年を目前に4代目で潰れたことになる。
著者も同族企業の社長を経験しており、林原同様に4代目で会社を清算すると
いう苦い体験を有している。
著者は、本書の中で、同族企業を「ファミリービジネス」と表現しているが、 本書は、200年を超えるファミリービジネスを作るために、自らの体験を含め て、著したものである。
著者によれば、トヨタ、サントリー、ウォルマート、BMW等多くの世界的企 業がファミリービジネスで、創業一族が会社と密接に関わっているという大き な共通点があり、欧米では、100〜200年と事業を続ける持続力、非同族の会 社に比べ高い収益力といった点で、今では尊敬される存在に変化しているとの こと。
一方で、「三代目は祖先の田んぼに戻って野良仕事」(中国の諺)にあるよう に三代目まで続くファミリービジネスは12%の確率で、同族企業の経営者は通 常3代で終わると本書の中で述べている。
このため、ファミリービジネスの永続と繁栄のためには、〜200年先を見据え て、強い意思でビジネスに取り組むファミリーを育成し、代々その精神を伝え るという〜仕組みづくりが必要であると本書で提言している。具体的には、単 にビジネスを伸ばすだけではなく、健全なファミリーを育てること、そしてファ ミリーとビジネスのかかわりを管理することが重要〜それは「売上」「利益」 「資金繰り」よりも大切〜であると主張している。
オーナーファミリーが健全でないとき、ビジネスに対する経験、知識、誠実さ が欠けるとき、非ファミリーの社員は敏感に見抜き、またファミリーの都合を 優先させて、ビジネスに不利益をもたらすことは、非ファミリー経営陣や社員 の意欲を削ぐ結果になる。言い換えると非ファミリーメンバーはオーナー一族 に対して他の人以上に強い規律と高い能力を期待し、その思いが強い分、縁者 びいきに対する反感や落胆は大きくなると、指摘している。
こうした著者の指摘について、冒頭にふれた林原や他の倒産企業らにあてはめて考えると、首肯しうる点も多い。
著者は同族経営の原理を、本書の中で、「三円モデル」という形でわかり易くうまく説明している。即ち、ファミリービジネスは「ファミリー」「ビジネス」 「オーナーシップ」という3つのサブシステムで構成され、3つの要素(サブシステム)が因果関係の循環で結ばれているとし、この円のどこに自分はいるのかによって思いは様々違ってくる、(何らかの影響を与えているし、何らかの影響を受けている)と述べている。
優秀なファミリービジネスの経営者やファミリーのメンバーは〜親子や兄弟の問題はファミリーの価値観で解決し、ビジネスの場には持ち込まず、逆にビジネスの問題はビジネスの価値観で解決しファミリーの場に持ち込まずといった形で〜ファミリーとビジネスの境界線を上手に保っているとのこと。
また“ファミリービジネスの企業価値は、ファミリーのコミュニケーション能力で決まる”、“コミュニケーション不全の場合には、不健康なファミリービジネスとなる”と主張し、200年続くファミリービジネスを作るためには、自分自身とファミリーメンバーのコミュニケーション能力(一人ひとりがもつ能力だけでなく、ファミリー全体としてもつ、集団としての能力)を高めることだと述べている。
さらに、200年続くファミリービジネスのためには、ファミリーを統率する仕組みが必要として取締役会に求められる役割等のガバナンスのあり方についても言及している。
同族経営の場合には、オーナーの強烈な個性の下に発展するが、一方ではそれによって失敗を犯すリスクもある。
このため著者は昔の中国における諫言太夫のような社外取締役の導入を呼びかけている。即ち、同族企業(ファミリービジネス)こそ社外からのアドバイスが必要〜人間は、自分にとって都合のよい事実は良くみえるが、都合の悪い事実は、眼に映っても、「よく見る(自分の事実として受け入れることが出来るという意味)」ことは難しいため、社外からアドバイスを受けるような仕組み〜が必要と提言している。
  
このほか本書において著者は、永続可能なファミリービジネスをつくるべく、問題解決できるようにいろいろな視点から、わかり易く、具体的に興味深い形で提言を行っている。ファミリー経営者のみならず、ファミリービジネスに従事する多くの人間にとっては示唆に富んだ著書であり、是非一読されるようお薦めしたい。

 

『日銀デフレ大不況』
(若田部昌澄著  講談社)

石川勝敏   


著者 若田部昌澄 1965生まれ 早稲田大学卒 早稲田大学政治経済学院教授 この著書の副題は(失格エリートたちが支配する日本の悲劇)である。私が12月1日 号評論の宝箱に書いた書評(不安を希望に変える経済学)と流れを一にする図書で ある。
我々にとって2000年から2009年までの10年間はなにだったのか。2000年代の実 質経済成長率は0.74%、名目経済成長率はマイナス0.45%である。名目GDPは5% 減少し鉱工業生産は10年前に比べると年平均マイナス1.5%雇用者報酬は減少し失 業率も悪化している。大学卒業者の就職内定率の悪化が毎日TVで報道されている。
2009年1月政府はデフレを宣言した。2008年秋リーマンブラザーズが破たんしサ ブプライム危機が本格化した。100年に1度の経済危機が起きたと言っても日本の 様に落ち込み続けるところばかりではない。
中国、ブラジル、インド等の諸国は経済成長を続け、開発途上国から離脱しようと している。日本の経済改革の失敗か、財政出動がないからか、政権交代が行われた からか、いずれも基本的解ではない。問題はデフレが20年間続いていることである。
問題の原因も解決法もわかっていながら20年間も放置されるのは何故か。
全ては日銀が1990年代に独立性を手にしてからの問題である。以来日銀は金融政策 に対して無為無策の立場を取り続けている。日銀は政府との協調路線を取っていない。
海外では中央銀行にインフレ率の目標を与えて守らせるのが常識である。こうした 事を報道しないマスコミも悪い。民主主義国だから日銀といえども、政治のコント ロールから全く自由な筈はない。だが目的のための具体策は日銀が独立的に決める と言うことが日銀の独立性であろう。日銀の金融政策は日銀の金融施策決定会合に よって多数決で決められる。
審議委員の選出に産業枠、金融枠、学者枠、女性枠が決められていて選出に金融に関 する学識経験は考慮されていない。日銀はなぜこうも経済金融の専門家を避けるの か、日銀企画局の言いなりにさせたいからであろう。
日本は改革と財政出動を繰り返してきたが結局景気回復に至っていない。高橋是清財 政が参考になる。高橋は昭和6年金本位制復活、金融緩和を行うが十分な効果が得ら れないため昭和7年日銀の新規国債引き受けを実施した。同時に公債漸減方針をとり 90%を市中から回収していた。またデフレ脱却のため個人消費を減らす増税をしない 方針をとった。
2.26事件で高橋は暗殺され、後任の馬場蔵相が公債漸減方針を放棄したためインフレ を招き、高橋財政は完結しなかった。しかし当時のデフレはこの国債の新規引き受け なくしては、克服できなかったであろう。インフレ目標は多くの国で現在は2%で運 営され、大きなインフレは発生していない。日本ではインフレ目標は嫌われているが、 現在、多くの国で実施され良い結果を生んでいる。この辺りは日本のマスコミは全然 取り上げない。不勉強である。著者は今後日本経済が発展していくためには1.景気安 定(高橋政策のごとく新規国債引き受けによるデフレの克服)2.成長促進3.所得再配 分策が必要であるとする。
第2の成長促進策として構造改革、規制緩和、競争政策で経済を効率化し社会の富を増 やす必要がある。第3の所得再配分について個人の努力や才能の違いではなくマクロ経 済から生まれる貧困の拡大は文句なく悪い。今日本で起こっているのは全体の所得が 下がる事である。失業と貧困は相関関係にある。著者は次の政策で日本景気は上向く という。ただし日銀が動かなければ何も起こらない。
1. 日銀がインフレ目標を設定し長期国債買い切りオペを実施する。
2. 政府による政府通貨を発行する。
3. 国会議決により高橋財政を発動する。
1.の政策は日銀がやる気になれば出来ることである。
2.は日銀と政府の戦いになる。
3.の策が実施できるか、政府がデフレ克服、景気対策にどこまで本気になれるかどうか による。
しかし今まで通りの政策では日本は10年か20年で沈没してしまう。
デフレを回避せよ。政府も日銀も目をさませと言いたい。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『日本の再構築』
 川井利久 



経済の長期低迷、財政の巨額赤字、失業率の高位固定、産業の空洞化?少子高齢化、 健康保険の巨額赤字、年金の先行き見通し難、領土問題、          
そして大地震。日本は過去にも例の少ない危機に陥っている。この危機を乗り越 えて明るい未来の展望が開ける状況に持っていくには?文字通り挙国一致の覚悟と 叡智を結集した長期計画と国民一人一人の忍耐?と努力が必要である。
まず向う30年の長期計画をビジョンとして掲げ、当面の5ヵ年の実行計画を立 案して実行する必要がある。
国の難局を解りやすく国民の一人一人に理解させるキャンペーンを行い辛くても やり遂げれば、明かるい未来が開ける覚悟を持たせることが必要だ。人気取りや バラマキをやっている場合ではない。消費税見直し、健康保険制度改革、年金制 度の見直し、失業対策、新規有望産業の育成、創意工夫能力に富む教育、自国を 防衛できる自衛隊など国民にとって辛い政策を敢えて実行していく見識と実行力 のある政治家が不可欠だ。現在のような時代には往々にして独裁政治の方が能率 的と思われるが、国民のレベルアップによって民主主義制度の下で日本の再構築 をやり遂げる事が国家百年の未来を見据えた挑戦ではないだろうか。    

 

 

大震災、原発事故から1ヵ月半が過ぎますが、その被害の大きさには驚きます。義捐
金に協力しつつ一刻も早い立ち直りを期待したいと思います。
一方、停電や余震の事もあり、被災地以外の人々の生活態度は震災前に比し地味にな
ってきているようですが、活動の萎縮しすぎは景気のために問題があるようです。何
事もバランスが必要ということでしょうか。
皆様には適度に消費をしつつ、いいゴールデンウイークをお過ごし下さい。
本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)






 
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