岡山の有力企業で、インターフェロン(抗がん剤)を量産し、近年バイオテ
クノロジー企業として注目を集めていた林原が2011年2月会社更正法を申請
して倒産した。本書の題名と同じく、同社も典型的な同族企業(ファミリー
ビジネス)であり、創業130年を目前に4代目で潰れたことになる。
著者も同族企業の社長を経験しており、林原同様に4代目で会社を清算すると
いう苦い体験を有している。
著者は、本書の中で、同族企業を「ファミリービジネス」と表現しているが、 本書は、200年を超えるファミリービジネスを作るために、自らの体験を含め
て、著したものである。
著者によれば、トヨタ、サントリー、ウォルマート、BMW等多くの世界的企 業がファミリービジネスで、創業一族が会社と密接に関わっているという大き
な共通点があり、欧米では、100〜200年と事業を続ける持続力、非同族の会 社に比べ高い収益力といった点で、今では尊敬される存在に変化しているとの
こと。
一方で、「三代目は祖先の田んぼに戻って野良仕事」(中国の諺)にあるよう に三代目まで続くファミリービジネスは12%の確率で、同族企業の経営者は通
常3代で終わると本書の中で述べている。
このため、ファミリービジネスの永続と繁栄のためには、〜200年先を見据え て、強い意思でビジネスに取り組むファミリーを育成し、代々その精神を伝え
るという〜仕組みづくりが必要であると本書で提言している。具体的には、単 にビジネスを伸ばすだけではなく、健全なファミリーを育てること、そしてファ
ミリーとビジネスのかかわりを管理することが重要〜それは「売上」「利益」 「資金繰り」よりも大切〜であると主張している。
オーナーファミリーが健全でないとき、ビジネスに対する経験、知識、誠実さ が欠けるとき、非ファミリーの社員は敏感に見抜き、またファミリーの都合を
優先させて、ビジネスに不利益をもたらすことは、非ファミリー経営陣や社員 の意欲を削ぐ結果になる。言い換えると非ファミリーメンバーはオーナー一族
に対して他の人以上に強い規律と高い能力を期待し、その思いが強い分、縁者 びいきに対する反感や落胆は大きくなると、指摘している。
こうした著者の指摘について、冒頭にふれた林原や他の倒産企業らにあてはめて考えると、首肯しうる点も多い。
著者は同族経営の原理を、本書の中で、「三円モデル」という形でわかり易くうまく説明している。即ち、ファミリービジネスは「ファミリー」「ビジネス」
「オーナーシップ」という3つのサブシステムで構成され、3つの要素(サブシステム)が因果関係の循環で結ばれているとし、この円のどこに自分はいるのかによって思いは様々違ってくる、(何らかの影響を与えているし、何らかの影響を受けている)と述べている。
優秀なファミリービジネスの経営者やファミリーのメンバーは〜親子や兄弟の問題はファミリーの価値観で解決し、ビジネスの場には持ち込まず、逆にビジネスの問題はビジネスの価値観で解決しファミリーの場に持ち込まずといった形で〜ファミリーとビジネスの境界線を上手に保っているとのこと。
また“ファミリービジネスの企業価値は、ファミリーのコミュニケーション能力で決まる”、“コミュニケーション不全の場合には、不健康なファミリービジネスとなる”と主張し、200年続くファミリービジネスを作るためには、自分自身とファミリーメンバーのコミュニケーション能力(一人ひとりがもつ能力だけでなく、ファミリー全体としてもつ、集団としての能力)を高めることだと述べている。
さらに、200年続くファミリービジネスのためには、ファミリーを統率する仕組みが必要として取締役会に求められる役割等のガバナンスのあり方についても言及している。
同族経営の場合には、オーナーの強烈な個性の下に発展するが、一方ではそれによって失敗を犯すリスクもある。
このため著者は昔の中国における諫言太夫のような社外取締役の導入を呼びかけている。即ち、同族企業(ファミリービジネス)こそ社外からのアドバイスが必要〜人間は、自分にとって都合のよい事実は良くみえるが、都合の悪い事実は、眼に映っても、「よく見る(自分の事実として受け入れることが出来るという意味)」ことは難しいため、社外からアドバイスを受けるような仕組み〜が必要と提言している。
このほか本書において著者は、永続可能なファミリービジネスをつくるべく、問題解決できるようにいろいろな視点から、わかり易く、具体的に興味深い形で提言を行っている。ファミリー経営者のみならず、ファミリービジネスに従事する多くの人間にとっては示唆に富んだ著書であり、是非一読されるようお薦めしたい。