この本の著者山本夏彦は、インテリア専門誌「室内」を創刊、世相について数多くの批判的な書物を著し、平成14年10月に87歳で亡くなった。この本は、「室内」の発行元である工作社の女子社員の何人かを聞き手に、この百年を1時間で振り返ろうという趣旨で作られたとのこと。この本の前年に刊行された「誰か戦前を知らないか」の続編とされている。
章立ては、『流行歌』、『花柳界』、『芸人』、『文士』、『貧乏』…等15の項目から成る。
『花柳界』という言葉も今では殆ど死語になったが、芸者屋、待合、料理屋が並んでいる一郭を“三業地”と称するとか、料理屋の女中は、芸者に対して大きな力を持っているとか、昭和40年代に社会に出た我々が知らないことを説明している。『社会主義』の項では、「社会主義には正義があるが、資本主義には正義がない。その資本主義が我々には相応しいと気が付いた」との説明も秀逸である。これまで著者の本を何冊か読んで来たが、物事を相対的に見ようとする一貫した立場と、ギリギリまで削ぎ落とした文章から、魅力的な“書き手”との感を深くしている。
幸田文について触れている「最後のひと」が版元品切れで、どうしたら入手できるのか、目下思案中である。それこそ「誰か『最後のひと』を知らないか」である。
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