著者は元上海総領事で中国特務機関の脅迫で自殺に追い込まれた館員の上司であり、末期の肺がんで闘病中である。同氏は北京・瀋陽での語学留学、交流協会台北事務所、在中国大使館勤務等を歴任したチャイナスクールの外交官だが、経験に基づき極めて率直かつ整然と日中関係の背景を分析している。
中国の地方プロジェクトについて日本の資金協力を利用すべきかどうかは国家計画委員会対外経済貿易部の判断に任される。このため、不足資金割り当て決定をしてくれた貿易部とその担当者に地方政府の感謝の念が集中し、カネの出所である我が国への感謝には殆ど繋がらない。小額案件でも地方から直接要請を受け、支援することが真に感謝される援助だと力説する。
世銀総裁の「現在の中国の貧富格差は社会正義、道徳の観点から許容範囲を超えている。本来ひとつの国として公平、公正な運営がなされれば、このように差は開かない」との言を紹介し、中国政府は社会各層の負け組に募る不満の捌け口、内部矛盾の矛先を反日運動に向けさせていると解説する。
湾岸戦争におけるハイテク兵器の威力を見て資源配分の変更不可欠と判断した軍中枢が、低学歴農村出身兵士大量削減に踏み切り、これら負け組の元軍人・軍関係者の不満を「台湾統一運動」に向けさせているという。
上海の超高層ビルにはエレベーターわずか6基、ラッシュ時には15分待ち、省エネに対する配慮もなく、デザインが特殊でメンテ費用が嵩み、将来廃墟となる危険を含むバブルの産物と矛盾の典型例としている。
靖国問題では我が国特有宗教観の国際的に丁寧な説明と遊蹴館展示変更を提案している。
中国の矛盾を救うには、民主化を促進すべきで、その担い手として内部からの改革ではなく、外部の力「バチカン」の仲介に期待している点が新鮮である。
より直裁な産経新聞古森義久著「“日中友好”のまぼろし」(徳間文庫)との併読をお勧めしたい。
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